金田式完対SIT-2SJ18パワーアンプ
2008/09/00
SONY−2SJ18
ご覧のような代物を手に入れていました。JISの型番は11番から始まるので2SJ18は2SJでは8個目となり最初期の物になります。
SITは比較的新しい素子のように思われますがPチャンネルFETでは古くから存在していたことになります。MJの広告でずいぶん
安く売り出していたので、ここぞと思い10個衝動買いしました。このとき私のように購入した方が少なからずいたのではないでしょうか。
たしか、これを購入したとき金田氏は完対ドライブ回路を考え付く前であったので、私はコンプリの2SK60をいつの
日か手にしてパワーアンプを作ろうと思っていたのだと思います。しかしながらその相手である2SK60を入手することは今の今まで叶っていません。
そうこうしているうちに、完対回路が発表になり1994/09月号に2SK60の回路が発表になりました。
2SJ18の回路は発表されませんでしたが、概ね同様の回路でドライブできるはずと踏んで今回製作と相成りました。
もちろんインターネット上にも挑戦している方を見受けましたので参考にしました。
さて、入手したTrのばらつきを測定したのが次の表です。測定条件はVds=22V、Vgd=7.6Vとして
測定した物です。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 |
ID(mA) | 206 | 45 | 76 | 38 | 127 | 169 | 53 |
46 | 26 | 145 |
ご覧のとおりかなりのばらつきがあります。最大206mA最小26mAですから物によっては10倍近くの差が有るので無作為に
ペアにして使用するには無理がありそうです。幸い10個購入したうちIDが一番大きい物と小さい物を外してペアが取れそうです。漏れた物も
生かそうとすれば追加が必要ですが、デスコンですから入手は不可能です。
1975年6月号に2SJ18の定格が載っていましたので、下記のとおり掲載しておきます。
項目 | 記号 | 条件 | 最小 | 標準 | 最大 | 単位 |
ドレン・ゲート漏電流 | Idgo | Vdg=-100V・Is=0 | | -0.1 | -100 | μA |
ゲート遮断電流 | Isgo | Vgs=-30V・Vds=0V | | -0.1 | -100 | μA |
オン電圧 | Von | Ig=-0.2A,Id=-3A, | | | -10 | V |
カットオフ電圧 | Vp | Vds=-60V,Id=-100mA | 7.5 | 18 | 25 | V |
入力容量 | Ciss | Vgs=15V,Vds=0V,f=1MHz | | 190 | | pF |
遮断周波数 | fT | Vds=-20V,Id=-0.5A | | 20 | | MHz |
電圧増幅率 | μ | Vds=-20V,Id=-1A,f=1kHz | | 4 | | |
出力抵抗 | rD | Vds=-20V,Id=-1A,f=1kHz | | 16 | | Ω |
最大定格
項目 | 記号 | |
ゲート・ドレイン間電圧 | Vdgo | -170V |
ゲート・ソース間電圧 | Vsgo | -30V |
ドレイン電流 | Id | 5A |
ゲート電流 | Ig | -0.5A |
許容電力損失 | Pt | 63W |
なお、2SK60も記号が変わるだけで定格は同じです。構造は違うはずなので定格が同じとはちょっと不思議な気もします。

さて、回路は必然的に金田式完対回路となりますので、上記のごとく有り合せのパーツで組んでみました。設計に当たって
考慮すべきことがいくつかあります。2SJ18は性質上MOS−FETに比べバイアス電圧をソース電圧より反対にドライブし、
しかも深くしなければなりません。また、バイアスが浅くなると電流が増加する厄介な特性を持っています。規格表から見ると
カットオフ電圧は+18Vとなっています。それ以外にオン電圧と言うのが有り10Vとなっています。
カットオフ電圧・オン電圧のどちらを基準にすればよい
のか分かりませんが、余裕を見てカットオフ電圧までドライブできるように考えました。したがってMOS−
FETに比較しドライブ抵抗を大きくして電圧を稼ぐように設計します。
次に+側の電圧増幅段の電源電圧について考えてみると、2SJ18のプラス側ドライブ電圧は出力段電源電圧から+側に触れる
ので、この電圧と2SJ77のカスコード回路の電圧を上乗せして決めることになりますが、最低でも50Vは
必要と見積もれます。以上考慮して設計したのが上記回路でしたが、この回路では動作しませんでした。
ところで2SJ18はバイアス電圧をソース電圧より深くする必要がるため電源投入タイミングに気を使う必要があります。
もし電圧増幅段より出力段のほうが早く立ち上がってしまうと過大な電流がFETへ流れてしまいます。と言うことで電源の設計も
これまで以上に気を使わなければなりません。今までこのデバイスを手に入れながら延々と製作に掛からなかったのは電源の設計を
どうするか、悩んでいたことが一番の理由であったように思います。
実験用電源

今まで使っていた実験用電源です。電圧監視用にアナログメーターを+−電圧用に設けました。もちろん出力段と電圧増幅段それぞれ切り
替えて監視できるようになっています。
トランスはタンゴのA級15W用のA−35Sです。このトランスには適切な電圧増幅段用の
巻き線がないので、電圧増幅段用にRコアのトランスを別に用意しました。電圧は25V・35V・60V・90Vを切り替えて出せるように
なっています。パワーアンプは基よりプリアンプの実験にも使えるようにしました。
今回実験用電源を一部改造し出力段に遅延回路を設けました。2006/11月号真空管式パワーアンプの遅延回路をそのまま移植したものです。
保護回路

例によってスイッチング用FETを使った保護回路です。プラス側電圧増幅段は可変電圧のため制御用FETはnチャネルを使うことができな
いため必然的にpチャネルFETを使った物となりました。遅延回路は後付けしたためコネクターにて接続しました。
なお、配線はユニバーサル
基板を使ったため、MJどおりではなく変更しています。LEDを2個付けました。これによりカウンターの動作状況を確認できます。動作まで
イライラせずに済みます。
また、記事のパターンは相変わらず修正が必要でした。気をつけなければならないのは
ICの足の番号がまったく反対の物があります。遅延回路を作って旨くいかなかった方はICの向きをもう一度確認された方が良いかと思います。
アンプ基板

アンプ基板は2SJ18を接続しないで、まずこのような状態まで組み上げます。FETをいきなり接続してお釈迦にしては元も子も有りません
ので電圧増幅段が正常に動作していることを確認しておきます。2SJ18のバイアス抵抗の3.9kΩは両方ともアースに繋いでおいて、電圧増幅段
に電圧を掛けます。3.9kΩの両端電圧が計算どおり変化するか確かめておきます。この状態で初段差動回路のバランスボリュームを動かすと左右反対に変化し
バイアス電流調整ボリュームを動かすと同方向に変化することを確認します。なお、2SJ18をカットオフにできるようにバイアス電流調整用
ボリュームを調整したときに18X(後で分かったことですがここまで確保しておく必要はありませんでした)まで電圧を上げることができること
を確認しておきます。
片チャンネルのみ仮組み

ジャンクとして購入しておいたアルミのパネルに1チャンネルのみ仮組みしました。上手くいかなければ永遠にジャンク箱に行ってしまうので
最初から2チャンネル作るにはリスクがあります。ヒートシンクは缶タイプが2個付く物を実験用として余裕を見て使ってみました。実験中に
誤って1A位流してしまいましたが短時間であれば何の問題もなく余裕でした。なお、今回はアイドリング電流を金田氏の発表している完対パワー
と同様200mAにする予定です。このくらい流すとこのヒートシンクに2個付けるのは少々苦しいと思われます。
高周波で発振

なんと上記の回路で電圧を掛けると高周波の領域で発振してしまいました。慌てていたため測定はしていませんが振幅は僅か数十mVです。
可聴帯域の正弦波を入力するとそれに乗ってきます。もしオシロがなければ発見できていなかったと思われます。2SJ18に入力抵抗を挿入す
ることで解決できました。抵抗値は560Ωですが発振を抑えられるギリギリの値は実験していないのでまだ下げられるかもしれません。音質に
与える影響が気になるところですが、またその気になったら実験してみようと考えています。
最終回路

最終的に決めたのがこの回路です。電圧増幅段と2SJ18のゲートを接続している箇所が最初と変わっています。試作回路のままだと
2SJ18にアイドリング電流が流れると同時に出力が電源電圧に張り付いてしまいます。おかげで出力に繋いでおいた負荷抵抗を何本も焼いてし
まいました。
このときはどうしたものかと成す術も無く完成に漕ぎ着けることが危ぶまれました。その後2〜3日経っていろいろ調べていた時に、ネットで
2SJ18を使ったアンプを発表していた例を見て、私が試作した回路との違いに気が付きました。それは電圧増幅段と2SJ18のゲートの
接続箇所が+−側で反対になっていることでした。早速その回路に変更したところ上手くいきました。
なお、アイドリング電流はゲート電圧を8V位まで下げてもほとんど流れません。したがって、回路図のようにバイアスのゲート電圧は7V位
見ておけば良いようなので、当初考えていた電圧増幅段の電源電圧は設計時より低く見積もって+50Vから下げても大丈夫のように思います。
もっとも今のところ計画した電圧で何の問題もないのでこのままにしておきます。
上記の理由により2SJ18のために18Vもの高いバイアス電圧は必要ないため、ゲート抵抗で電圧降下を稼がなくても良いと考え、2SJ18の
バイアス用の3.9kΩは2.7kΩに変更しました。また、インピーダンスを少しでも下げてFETの入力容量に対処しようとの目論見です。
ただし、あまり下げるとアンプ全体の利得が下がり帰還量が減少することも考えられます。
2SK214のソース抵抗も2SJ74の電流を6.0mA前後にするために変更しました。
なお、初段のカスコードTrを2SC1399にしたのは耐圧を考えてのことですが、電圧を下げるのであればFETを使っても大丈夫と
思われます。初段の定電流回路を除いてFET構成となるので、その方がFETの音が生きてくると思われます。
初段定電流回路に2N5465を使うと完全FET構成となりますが、2N5465は入手難の上このFETに泣かされたという話を良く聞きます。
事実この私も手痛い目に会っていることもありTrによる定電流回路としています。
2SJ18のソース抵抗0.47Ωは外してしまいました。アイドリング電流は約200mAに設定しました。いろいろ昔のMJなど調べたところ
この位のアイドリング電流は流しておいた方が良いとの結論に達しました。なお、外してしばらくアイドリング電流の様子を見ましたが、
余裕の放熱器を使ったこともあってか電流が増える様子は微塵も無いようです。
出力波形

最大出力のときの波形です。+−共同時に潰れて来るので理想的なドライブになっているように思われます。なおこの時の振幅はP−Pで34V
となり電源の利用率は34/(22*2)=0.77となります。8Ω負荷で出力電力は18Wとなりました。一般的なアンプとしては少々物足りない
数値ですが家庭用で使うのであれば十分でしょう。
完成

ケースに収めるのはだいぶ先になりそうですが、保護回路の基板も付けて、一応使える状態になりました。
2013/07/06
完成と思いきや、発振していました!

完成したのは2008ごろでしたが、その時にはまだスピーカーに繋いで音を出していませんでした。今月に入ってスピーカに繋いで方形波を入力すると,
発振していることが判明しました。このため位相補正回路を一部いじって発振が止まるようにしました。その回路がこれです。
まず初段に620Ω+510PFを、さらに出力に10Ω+0.1μFを、パワー段の電源にバイポーラの電解コン10μFを繋ぎました。

680Ω+560PFの位相補償を施した10kHzの波形です、発振は止まりましたがごらんおとおりリンギングが残っています。何とかしたいの
でやってみました。

出力に0.1μF+10Ωと電源にバイポーラ電解コン10μFを追加した、10kHzの方形波応答です。見にくいですがオーバーシュートが少し発生しています。

90kHzの方形波応答です。下側が発振器の出力波形です、OPアンプを使って作ったものなので立ち上がりと下がり部分の波形が今ひとつです。
上側のアンプ出力波形を見ると立ち上がりも少し傾きがゆるくなっていますし、オーバーシュートも出ています。師曰く波形が美しくありません。
が90kHzですから問題なしとしましょう。
基板の表は左側のとおり、出力には昔の指定でAUDYN-CAPのフイルム0.1μF、10Ωの抵抗はジャンク箱あった?スケルトン、パワー段の電源には10μF、
オーデオ用ではない日本ケミコンの無極性電解コンデンサー、調達先はRSオンラインだったと思います。
基板の裏は右側のとおり位相補正の11pFは取り除いてしまいました、ステップ型位相補正は基板の裏にじか付け620Ω+510pFです。最初1.2kΩ位から
始めましたがうまく行きませんでした。この値で方形波応答を見る限り発振はしていないので問題はなさそうです。
3年以上前に製作を開始し、やっと音が出てSITの音を確認できました。しかし、今はもう入手できないので発表する意味もないかも。