○読んだ本・眺めた本

2012年05月18日

 M・ライアンズ『本の歴史文化図鑑』
柊風舎刊、9,500円+税

柊風舎刊、9,500円+税
本ほど深く人間社会や文化の形成に深く関わったメディアはない。それだけに、書物の歴史は複雑で、近年さまざまな視点から照明が当てられてきたが、なかでもこの図鑑はヨーロッパの近代史、書物史の専門家である著者によって、書物と人間生活との関わり合い、書物の役割の変化、影響力といった文化史的な視点がわかりやすく展開されている。

とくに印象深いのは二百五十枚の図版を駆使し、その意味を解読する的確なキャプションを付し、それによって複雑な書物の歴史を、一望のもとに見渡せるようにしていることである。印刷も美しく鮮明で、従来の図説による書物史のレベルをはるかに超えている。

 いまや紙の書物は電子化の大波にさらされ、存続さえ危ぶまれているほどだが、著者は逆に文明論的視野から書物の新しい可能性を展望してみせる。その示唆には傾聴すべき点があり、書物に関心のあるすべての読書人、研究者に一読をすすめたい。

 ――以上は本書の推薦文として寄稿したものだが、実際にビジュアルな書物史としては出色の出来である。この種の企画の欠点は、日本の多くの読者には縁の薄い洋書の歴史に詳しすぎ、退屈になりがちなこと、近現代の書籍媒体の変化が十分捉えきれていないことなどがあるが、本書は記述のバランスもよく、図版の選択も生き届いている。

 電子書籍やオンライン書店にも言及があり、Amazonの倉庫の写真などはめずらしいものであろう。コーデックス(紙の冊子大の本)が一定の文明的な所産で、絶対のものではないという視点も、大枠では同意できるような展開となっている。電子化は三千年の書物史においても最大の変格で、モノ離れを伴う書物変容がいかに人間の社会を変えるのか。そのような点にも思考を促す好著である。(蔵持不三也監訳・三芳康義訳)


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