○コラム

2017年01月31日

 昨年の3冊
小林龍生『EPUB戦記』

小林龍生『EPUB戦記』
今年もはや二月、年齢の割には多忙で、知友からの「おすすめ本を紹介してほしい」というメールにも、なかなか応じられない。そこで苦肉の策というべきか、「本の雑誌」1月号に、アンケート「私の三冊」として寄稿したものを、以下に掲げたい。歳を取ると最も早く衰えるのは読書力。大冊を読破するのも、若いときのようにはいかない。方々、これを許せ。


@『奇異譚とユートピア 近代日本驚異<SF>小説史』長山靖生(中央公論社)
A『EPUB戦記』小林龍生(慶応義塾大学出版会)
B『漂うままに島に着き』内澤旬子(朝日新聞出版)

 @は近代のFや冒険小説、政治小説などの発達史だが、五三〇ページという大著である。この分野は著者のライフワークで、冒頭から江戸の黄表紙にSFの萌芽が見られることを実証、有名な『白縫譚』を幕末のグイン・サーガ伝説に見立てるなど、独創的な読み替えがスリリングだ。明治文学史の先駆柳田泉の研究を九十年ぶりに超えた驚嘆すべき業績といえよう。

Aは日本語という、およそ電子化に不向きな少数言語を、書籍の国際的フォーマットに組み込む作業に従事した、一人のアーキテクトの悪戦苦闘の回想録である。いまでこそ日本語は大手を振って電子情報の世界をまかり通っているが、じつは消滅の危機にあったということを知るだけでも、本書の意義がある。

Bは身辺事情から、狭い東京にゃ住み飽きた著者の地方移住顛末記。小豆島にきめたのは、移住者が多いこと、月と海がきれいなこと、ショップが少なく「景色がチカチカしない」ことだった。空き屋バンクに登録された物件を見て回り、築四十年に近い古家を見つける。運送業者に電話をかけると、酸いも甘いも噛み分けたおっさんの声。著者は思う「こちらも人生それなりにいろいろと踏んできてるんで、鼻はきく」。このあたりは内澤節の醍醐味だろう