祝婚歌        詩人  吉野 弘
二人が睦まじくいるためには  愚かでいる方がいい  立派すぎない方がいい 立派すぎることは  長もちしないことだと気づいている方がいい  完璧を目指さない方がいい  完璧なんて不自然なことだとうそぶいている方がいい 二人の内どちらかが ふざけている方がいい  ずっこけている方がいい どちらも神様ではなく 人間なのだから  短所もあれば長所もあると 開き直っているほうがいい 互いに非難することがあっても  非難できる資格が自分にあったかどうか あとで うたがわしくなる方がいい 正しいことを ゆう時は  少し控えめにする方がいい 正しい事をいう時は  相手を傷つけやすいものだと  気づいている方がいい 立派でありたいとか 正しくありたいとかいう  無理な緊張には 色目を使わず  ゆったりゆたかに 光を浴びている方がいい そして  なぜ胸が熱くなるのか  黙っていても  二人には わかるのであって欲しい
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