03.08.10                         中西 卓

エ ネ ル ギ ー 雑 感

エネルギーなしには生きられない、だけど原発のような巨大なものは要らない、電力会社でさえも重荷になってきて、やめたいのが本音ではないだろうか。この頃考えることを思いつくままに書き並べる。

 先日、「ガイアの夜明け」というTV番組を見た。ずばり風ビジネスの紹介であった。風力発電は億単位の資金、風の通り道の立地探し、大掛かりな建設工事など、リスクを伴う大事業である。この番組を見て、風力立地の陣取り合戦が日本列島で始まっていると感じた。
 新エネルギー利用特別措置法の後押しでエネルギービジネスが脚光を浴びている。風力発電でユーラスエナジー、小水力で日本自然エネルギーという企業が、資本力にものを言わせて業界で圧倒的なシェアを占めつつある。本来自然エネルギーは小規模分散型のエネルギー源であり、エネルギーもいよいよ独占巨大企業から市民の手にと思ったのも夢だったか、せめて市民や自治体の発電(町村から東京都のお台場風車まであるが)が健全な発展を遂げるのを願わずにおられない。
 上記の法にもとづくRPS*1は住宅の太陽光発電までをも電力会社を介して新エネルギーの枠に入れようとするものである。RPSは自然エネルギー利用を促進する反面、設備認定を義務付ける(応じなければ、100万円以下の罰金、売電に支障)不愉快な地球環境への素朴な市民の思いを踏みにじるものでもあると思う。

 新エネルギーという言葉は日本独特のものである。新エネルギーは化石燃料や原子力への依存から転換する方策であるが、その枠組みに廃棄物発電が含まれる。廃棄物発電は2010年度目標値が417kW(1999年度比4.6倍)、一次エネルギーに占める割合が99年度16.6%から2010年度は28.9%にと“急成長”を見込んでいる。*2京都議定書の枠に廃棄物エネルギーを入れているのは我国だけ、その分自然エネルギーへの力がそがれる。 “新”語で一時しのぎは許されない。
 ごみ処理政策の中で、地方にも広域化・大型施設化、ひいては溶融炉を国や県が”指導“してきた。溶融炉は有害物排出減・埋立物減量と並んで発電が喧伝されているが、高温処理のための燃料消費と高温ガス排出がまぎれもなく地球温暖化を促すだけでなく、軌道に乗りかけたごみ減量・分別を根底から覆すことになる。環境保護の観点から地域に最適のごみ処理を選び、そこで出る熱の有効利用としての発電を考えるべきであって、新エネルギーの枠に合わせた発電のためのごみ処理は本末転倒である。

 バイオマスは太陽エネルギーを蓄えた様々な生物資源である。薪や炭が家庭燃料から退いて久しい、里山を維持するために復活させたいが、生活様式がここまで変わってしまっては難しいかもしれない。せめて、ペレットストーブを居間に置いて赤く燃える火に豊かさを感じたいと思う。
 家畜糞尿や生ごみによるガスエンジン発電、木屑の蒸気タービン発電、近くは神戸で生ごみからの燃料電池発電などを見てきたが、ぼくが興味をおぼえ身近に感じたのは手作りのバイオプラントである。御津町で若い自然農家Yさんが試みる、断面が11m長さ10m程に掘った畑地の窪みに2重のビニル袋をはめ込んで、一方から隣接する鶏舎の糞をスラリーにして流し込み、他方から液肥を取り出す、中間の上部からメタンガスを取り出すという簡単な仕組みだ。2月に建設?を見学したのでその後の様子をうかがいに行こうと思っている。
 バイオマスは再生可能で貯蔵できる、分布が偏らない、カーボンニュートラルでもある優れた資源である。殊に中山間の地域おこしのために、小規模でもその地に合ったものを見つけて定着させることが望まれる。

 “夏至の夜、全国消灯!!キャンペーン、いいことだ。当地でも岡山城のライトアップが消され、ネットで倉敷・阿智神社でのキャンドルナイト参加の呼びかけがあった。
 その夜ぼくは、この団地に5月オープンした桜が丘いきいき交流センターまで歩いて、役場の責任者に「せめて、この夜だけでも明るさを落としたら」と進言した結果がどうかを確認するつもりである。40kWの太陽光発電をはじめ省エネを誇るスマートな施設であるが、ロビーの一部・読書スペースの必要照度を得るために明る過ぎる結果になった。夜は人が少なく、ガラス張りの館内に電灯だけがやたらに多くて、高台の空地に忽然と現れた不夜城がわびしい。ここを利用するグループに呼びかけて「来年の夏至は、住民によるキャンドルナイト」を実現したい。
 津々浦々コンビニやパチンコ屋の異様な明るさは、エネルギーの浪費と今の日本文化の一面を象徴しているような気がする。グルメ漫遊やタレントがばか騒ぎする奥行きのないTV番組も何とかならないか。入らなければ、見なければすむのではない、教育基本法を云々する前に足元の環境を見直したらと常々思っている。

 最近読んだ本*3から、フライブルク市に事務所をおくエコ建築家ロルフ・ディッシュ氏の設計によるソーラーハウス「ヘリオトロープ」を紹介する。直径11mの円筒型3階建て、その中心を幹のように通る直径3m、高さ14.5mの中空の柱が支える構造である。骨組みや天井、床などは耐震性の強いフィンランドの木材を使っている。
 円筒の片側半分の外面は床から天井まで3重のガラス、残りの半分は断熱性の壁である。この家は中心の幹もろともモーターと歯車で360°回転する。暖房を要する季節や時間帯には、ガラス側が太陽に向けられ、逆に暑い日にはガラス側が日陰に入って、壁側が太陽に向く。太陽熱コレクターをガラス側に備えて給湯、暖房に使う。
 屋根上の太陽電池パネルは、家の向きに関係なく太陽を追う。エネルギー利用だけでなく、雨水利用から生ごみ・排泄物の処理まで環境への配慮が行き届いている。鉄やコンクリートでない、熱帯林の合板や24規格の材木でもない、こんな木とガラスの家にぼくも住みたい。 

おわりに
 電力も自由化が少しづつ具体化してきたが、地球環境をおろそかにして、景気回復や産業界の意向に捉われていては路線を誤る。経済成長とエネルギー消費の増加を結びつける神話を捨てる時が来ている。
 化石化している現代の経済を足元から変えなければ地球の将来はない。太陽をベースにした経済システムを説くEU議会議員でユーロソーラー会長をつとめるヘルマン・シェーア氏の著書*4のご一読をすすめる。
 地球上の誰もが手に入れることができ、しかもタダのもの、それは太陽エネルギーである。  (終)

(注)     
*1 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法 (Renewable Portfolio Standard

*2 バイオマスエネルギー導入のための法的諸課題についての実態調査(報告書) 
    平成
149 近畿経済産業局による数値

*3 ドイツを変えた10人の環境パイオニア  今泉みね子著  白水社

*4 ソーラー地球経済   ヘルマン・シェーア著  今泉みね子訳  岩波書店                                            

                                      <環境ネットニュース 17号> に寄稿  20036