ごみ処理広域化の流れの中、備前ブロック1市12町で大型溶融炉の導入計画がある。溶融炉が
抱える問題を知るために、4月27日山陽町中央公民館で津川敬さんの講演を聴いた。
はじめの話は、一貫しない国のごみ処理政策に現場自治体が振り回されてきた実状と、広域化
がもたらす地域の分断・対立などの問題、私たちの地域でも現実に起こりつつあることである。
次いで、ダイオキシン対策の基本がごみ減量と 塩ビなど有害化学物質の生産抑制であるのに、
それをさしおいて大型化、広域化方針を打ち出した話。プラントメーカーがこれに乗って、ダ
イオキシン抑制、スラグ利用で処分場の延命、高効率発電などをうたい文句に溶融炉を売り込
んでいる。津川さんは 溶融炉はイメージ商品であると言う、講演を聴いてなるほどと思った。
技術が確立しないままの危険なもの、税金浪費型の施設である。これに対する行政の動きを私
たちは厳しい目で看視しなければならない。
溶融炉問題の具体的な説明の中から、特に重要と思うことを次に拾い上げる。
1)安全性に疑問がある。1300℃を超えると炉内が液状化する、直接溶融炉で1800℃、サーモ
セレクト炉で2000℃に達する、その他方式のガス化溶融炉で1350℃以上になる超高温に対応
する装置と操業の安全が確かでない。ドイツと日本の事故例がそれを示している。
2)ダイオキシン対策にならない。ガス化でダイオキシンが分解しても、排ガスが冷却される過
程でダイオキシンが再合成される。
<サーモセレクト方式の場合> 再合成を防ぐ排ガス急冷用の大量冷却水の処理に問題がある。
<他方式の場合> 再合成ダイオキシンを捕捉するバグフィルターの能力が不十分である。そ
れを活性炭吸着装置、触媒反応装置でカバーすることになるがランニングコストがかさむ。
3)重金属、窒素酸化物は高温になるほど揮散する。
4)スラグの経済性と環境適合に問題があり、建設材料としての評価が得られない。
5)耐火煉瓦が超高温とごみの性状に適応できず耐久性がない。殊に灰溶融炉では3ヶ月ごとに
煉瓦を交換しなければならずメンテナンス費用が馬鹿にならない。
溶融炉に限らないが、この講演で得た大事な情報を掲げておく。
1)臭素化ダイオキシンが 難燃カーテンなどを処理したときに発生する。塩素だけでなくハ
ロゲン族元素がダイオキシンをつくる。
2)ダイオキシンの精度管理が日本は極めて甘い。欧米の動向をつかんで、サンプリングスパ
イクやアメーサの採用を検討すべきである。
3)熱灼減量が3%以下であれば、焼却灰をさらに溶融しても減量効果が低い。
4)100t/日未満の施設でも、2000年の改正通達にもとづいて補助金が出た実績が幾つもある。
5)ごみ発電をサーマルリサイクルというのは まやかしではないか。発電のためにプラスチ
ックなど高カロリーのごみをより多く集めることになりかねないのは本末転倒である。
この講演会に先立って実行委員グループは広域化協議会が計画している2ヶ所の候補地を見に
行った。溶融炉の候補地は熊山町奥吉原で、山陽自動車道をくぐって程なくここまでは半ば出
来上がっている広域農道の終点近くに隣接する窪地で、現状は保安林である。
もう一つは生ごみのバイオガス化処理施設の候補地、和気町大中山の沢を登りつめた稜線近く
の山あいで、ここに麓の牧場も移すという。どちらもすばらしい自然の懐にある。なぜこんな
所にまでごみを運ぶのか、排気ガスと騒音で周辺の動植物に及ぼす影響はアセスメントを待つ
までもない。まして、コンビナートにあるような巨大な溶融炉が山中に出現するのである。地
球温暖化防止の観点からも、省エネルギーの処理施設でなければならない。
一方で高熱の溶融炉を、片や環境にやさしいといわれるバイオ施設というのは整合しない。何
でも持込みOK、高カロリーで大量のごみが必要な溶融と、主婦が環境と真面目に向かい合う
気持ちで生ごみから雑多な介在物を取り除かなければならぬバイオは相容れないのではないか。
一般廃棄物・生ごみのバイオ処理は家庭や集落単位でこそ可能な処理方法だと思う。
立地については、備前市や山陽町のように人口集中地を核にして周辺地域を併せる方針で、幹
線道路沿いの平地が望ましい。自分たちの出すごみが見えないところで処理されるのではごみ
減量に切実感が出てこない。ごみ処理を身近なものにする住民意識の啓発に、そして休耕田を
集約するなど用地手配に行政手腕を期待したい。
人口5万余の砂川流域に将来に向けた処理施設を提案したい。長年の実績があるストーカまたは
流動床タイプの中型准連続炉で、1週間連続運転・1週間休炉を繰り返す。ごみ受け入れピット
を1週間分貯めておけるように大きくする。毎日の立ち上げ/下げ低温域の回数が減る分ダイオ
キシンの排出が少なくなり、設備の保守も行き届くことになる。
ごみ処理は今や地域社会の最重要課題である。住民一人ひとりが環境に関心を持って暮らしを
改める、自治体は我が町に最適の処理方法を追求するのが当然であろう。国や県のの方針を鵜
呑みにしたり、環境ビズネスの売込みに安易に乗ったりしてはならない。「市町村合併が現実」
の機運とも切り離せない。広域化が頭から駄目とは言わない、1市12町を一括りにする、溶融
炉ありきでは困るのである。現状の備前ブロック協議会は、議論がオープンになっていないよ
うだ。各町の「審議会」は住民による諮問機関といわれるが、問題の本質をついた討議がされ
ているのか、行政側の方針を正当化するプロセスにすぎないように思われる。住民の誰もが参
加できる民主的な議論の場が必要なのではなかろうか。
首長から職員まで行政に携わる方に、そして議員に望むのは、地球レベルの問題をわきまえ
て、高い理念に根ざした施策を打ち出してもらいたいことである。 (終)
<information No.22> に寄稿 2002年6月
中西 卓
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