「 健 康 食 品 っ て 何 ? 」
岡山大学 地域共同研究センタ−
高島征助
T. はじめに
薬局や百貨店の自然食品コ−ナ−には,平素余り目にしない漢字で大書された名前の
「健康食品」がうずたかく積まれています。
そして,どれを見ても私達の健康維持に有効であるように思われますが,本当にその
通りでしょうか。
私はここ数年間,天然薬物の研究者と一緒に,「天然薬物−漢方薬や健康食品の薬効
についての評価法」を検討しておりますが、これまで言われたことが本当に正しいの
かどうか疑問に思うことが度々あります。
その1例として,「ビタミンCは加熱すると簡単失活する」と言われておりますが、
私は実際にビタミンC水溶液や新鮮なレモンの抽出液を,大気中で95℃で3時間加熱
してみましたが,元の濃度の約50%程度が酸化されるだけです。実際に野菜を料理す
る際にこのような過酷な条件で行うことはありません。
そこで,本席では「健康食品って何?」というテ−マで少しお話させていただきます。
そのことが,今後皆様が健康食品を選び,お使いになる時に,何かのご参考になれば
私にとりまして望外の幸せです。
U. 健康食品に関わる色々な話題
1. 体をむしばむ活性酸素
活性酸素はガンや生活習慣病の元凶。
私達の体は毎日錆びています。これが老化現象ですが,老化は活性酸素によって早まり
ます。動脈硬化,ガン,生活習慣病などの発症にも活性酸素が関与しています。
2. 活性酸素はどのようにして発生するか
現在,私達は地上で1気圧の空気を吸って生きていますが,空気中には約21%の酸素
があります。この酸素が無ければほとんどの生物(好気性生物)は生きることは出来ま
せんが,この酸素が光,酵素などの作用を受けて活性酸素となります。
活性酸素には,
反応性のある酸素
(1重項酸素)
ス−パ−オキサイド
(通常の酸 素よりも1個電子が多い。それだけイタズラする力がある),
過酸化水素
(不安定な性質。 ス−パ−オキサイド(SO)とス−パ−オキサイドデイスミュタ−ゼ
(SOD)によって発生する)。
ヒドロキシラジカル
(最も酸化力が強い。H2O2と血液中の2価の鉄イオンと反応して発生する)。
ただし,これらの活性酸素のお陰で,私達は細菌から体を護り,血圧もちゃんと維持されて
います。
健康な時はこれらの活性酸素がうまく経路にしたがって生まれては消えて行くこと(代謝)
を繰り返していますが,どこかが狂ってくるとあばれて私達の体を蝕みはじめます
(成人病の発症など)。
3. 活性酸素はこうして防ぐ
好気性生物から進化した私達の体には活性酸素から身を護るシステムが備わっています。
それは,スカベンジャ−(抗酸化物質)という物質です。
健康食品は,これらのスカベンジャ−の働き助けるものであったり,スカベンジャ−そのもの
です。
スカベンジャ−には,
@活性酸素の発生源を抑える
A活性酸素を捕まえて活性を低下させる
B活性酸素によって被害を受けた個所を修復する,という3つの働きがあります。
そして,このような働きをするものは「酵素」「ビタミン」「その他の抗酸化剤」の3つに
大別されます。
4. 活性酸素を抑えるスカベンジャ−
色々なスカベンジャ−は異なります。
酵素類−SOD,カタラ−ゼ,グルタチオンペルオキシダ−ゼなど(体内で合成)
ビタミン類−ビタミンC,EおよびB群などの抗酸化物質(体外から摂取)
その他の抗酸化物質−カロチノイド(β−カロチン,アスタキサンチン),
ポリフェノ−ル(カテキン,ケルセチンなど),
またセレンなどの微量ミネラルなど
5. スカベンジャ−の働きを助けるミネラル
ミネラル−カルシウム,マンガン,鉄,銅,硫黄,リンなどの無機質栄養素と言い,
これまであまり注目されていませんでした。これらは食物から摂取されますが,
欠乏しやすい傾向があります。また,摂取バランスも重要です。
インスタント食品,加工済食品ばかり食べたり,ダイエトに夢中になると,摂取不足で
バランスを崩しやすくなります(Se摂取量:50〜100μg/日)。
6. 蛋白質は頼もしいスカベンジャ−
蛋白質は私達が生きて行くためのエネルギ−源。筋肉,血液,各種ホルモンの原料。
過不足なく摂取。
SOD,カタラ−ゼ,グルタチオンペルオキシダ−ゼなどの酵素も蛋白質です。
良質の蛋白質を摂取不足は細胞活性が弱くなり,酵素の産生・機能も低下−老化。
スカベンジャ−の還元−酸化されたビタミンEを還元するのは,ビタミンCだけで
なく卵の蛋白質中のシステインが必要。
「年を取ったから肉や魚を控えている」−X。
日本人の必要蛋白摂取量:60〜70g/日
とくに大豆,じゃがいもの蛋白質を摂取するのが有効
7. ビタミンは酸化を防ぐスカベンジャ−
ビタミンは栄養素として大切ですが,スカベンジャ−としても重要。
ビタミンC−風邪からガンまで有効というわれますが,SOD,H2O2,1O2すべてに作用。
ビタミンA(β−カロチン)−細胞膜,リポ蛋白質中でスカベンジャ−として作用。
動物性ビタミンAの摂取過剰に注意。
妊娠中に錠剤型を1万U/日以上摂取すると胎児の遺伝
情報伝達に異常を来す恐れ(1/57人)
ガンの予防。
ビタミンB2(リボフラビン)−グルタチオンペルオキシダ−ゼノ補助酵素
肝臓でアルコ−ルを分解する時に大量消費,生長促進
生殖の補助。肌や髪の健康に有効。
8. 活性酸素を増やさない上手な脂肪の摂り方
「植物性脂肪はカロリ−も低くコレステロ−ルも減らすので動物性よりもよい脂肪」?
とくにその中のリノ−ル酸(C18:2)は「動脈硬化の原因となる血中コレステロ−ルを低
下させる」ということで大人気−伝説です!!リノ−ル酸を摂り過ぎると血中コレステ
ロ−ルが低下しで悪玉コレステロ−ル(LDL)を処理する善玉コレステロ−ル(HD
L)まで低下します。また,最近では低コレステロ−ル値の人は「ガンに罹り易い」と
いう説も注目されています。植物性脂肪は動物性脂肪に比べて酸化され易い−過酸化脂
質になって血管壁内に溜まり動脈硬化になるおそれもある。
オレイン酸(C18:1)は酸化されにくい−オリ−ブ油,ごま油,コ−ン油,牛肉,卵
よく聞く言葉:
エイコペンタイン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)
魚脂に多く含まれ血液をさらさらにする(血小板凝固作用を防止など),血圧の調整,
肝臓のVLDLの過剰産生を抑制,中性脂肪の増加も抑制−新鮮ないわし,鯖,さんま ,
ハマチ,真鯛などの脂身に多い。
スナック菓子類,インスタントラ−メンなど油で加工した食品は酸化され易く,過酸化
脂質が多く含まれる危険性が高いことに注意!!
V. 結 語
これまで色々なことを紹介してきましたが,最も重要なことは,
「バランスのとれた新鮮な材料で調理した食事をリラックスした気分で摂取する」
ということでしょう。
しかし、これは「言うに易く,行うに難し」の一つです。
岡山中百舌鳥会の皆様には,一つでもリスクファクタ−を低下させることに留意され,
「不老長寿」
を目指されることを祈念いたします。
以上
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