「つながっていくということ] |
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岡山市立岡北中学校 柴 田 司 | |
学年団を外れて5年目,生徒に対する直接的な教育活動に関わることがほとんど無くなってしまいました。以前は,「総合的な学習時間」や「行事への取り組み」などで「3年間を見据え」ながら,「学び」の中で生徒の成長を育むために,いろんなことをしくみ,考え取り組んでいましたが,今はそんなこととはかけ離れてしまっています。特に,今までこだわってきた広島研修や長崎や沖縄への修学旅行を軸とした「平和学習」の取り組みに直接関わる場面は一切なくなり,少しさみしい気持ちになることがあります。 |
そんな中,今年度教頭として岡北中学校に赴任,忙しい日々を送る中,放課後の職員室で,吹奏楽部の練習する「あるメロディー」に気付きました。 | |
「島唄よ 風に乗り 鳥とともに 海を渡れ・・・」何度も,何度も,おなじフレーズが繰り返されて聞こえてきました。THE BOOMの「島唄(1992)」です。 | |
思えば,私がまだ20代後半(1992),元ひめゆり学徒隊の“宮良ルリ”さんの「沖縄戦体験講話」を聞いたあの日から,その年の暮れに「沖縄に学ぶ旅」に参加し,「ヌチドゥタカラの家」の“阿波根 昌鴻(あはごん しょうこう)”さんら多くの方のお話を聞き,その沖縄のCDショップで流れる発表されて間もないTHE BOOMの「島唄」に出会いました。ここでの出会いが「私の変わり目」であり,そこからずっとこのことにこだわってきたような気がします。 | |
岡北中の修学旅行は沖縄。3年生はそこでの学びを後輩に伝えるべく「岡北祭」という場で,発信する活動をしています。今年度の3年生は,「三線」や「エイサー」,平和学習の総括として「プレゼン」や「演劇」,そして,3年生全員による「島唄」の大合唱という形で沖縄で学んだこと,そこで感じた思いを後輩たちに精一杯伝えきりました。3年生の先生方,生徒たちの熱い気持ちが伝わってくる本当にすばらしいものでした。私が28年前に出会い,ずっとこだわってきたことと「重なり」,本当に共感できました。 | |
もう一つは,私が赴任したばかりの岡北中で団長として参加した2年生「広島研修」での話です。 爆心地より1.3kmにあった旧広島逓信局で被爆した細川浩史さん(当時17才・現90歳)に「原爆体験講話」をしていただきました。 |
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細川さんは「閃光(ピカ)」「衝撃波(ドン)」を受けたものの幸運にも柱の影で「熱線」だけは避けることができ命が助かったこと。「水をのませてくれ」と言いながら息を引き取る人,「助けて」と下敷きになった家の中から聞こえてくる声。細川さんは,「最後の願いを聞いてあげれば良かった」「助けることができなかった」と自責の念を今もぬぐい去ることができないことなど,たくさんのお話をしてくださいました。そして,その中でもさらに印象に残るのは,今も細川さんの心の中で生き続けているであろう当時13才で亡くなった妹の瑶子さんのお話でした。 | |
旧県立広島第一高女1年の時,学徒動員中に被爆死した瑶子さん(当時13才)は「NHK特集 夏服の少女たち~ヒロシマ・昭和20年8月6日~」のモデルであることをそのとき初めて知りました。 | |
私は,担任だった頃,広島研修の事前学習で必ず「夏服の少女たち」を題材に平和学習をしていました。「ぼろぼろの服」の写真を見せ,「これは何だと思う?」「これは何のバッチだと思う?」・・・少しずつ,夏服の少女たちの思いに迫る授業です。私たちと同じ年代の,私たちと同じように学校生活を送っていた少女が,一発の原爆で・・・。 | |
細川さんは,在りし日の妹・瑶子さんの写真をスライドで映しながら「きれいでしょ」「かわいいでしょ」と愛おしむようなまなざしでお話しされました。そして,今年細川さんは,大切な瑶子さんの思い出の残る遺品の数々を資料館に寄贈されました。「幼い命が犠牲になるのが戦争。若い世代に,このことを自分の身に置き換えて考えてほしい」という思いからです。 | |
そして,もう一つわかったことは,細川さんの娘さんが岡北中学校の昭和45年度卒業生だということです。戦後一時期,岡山の電信電話公社でお勤めになり,岡山市内で生活。娘さんは岡北中に入学,卒業されていたのです。この出会いには本当に不思議な縁を感じます。講話の最後,岡北中の2年生たちは,感謝の気持ちを込めて「HEIWAの鐘」の合唱を送りました。 人は確かに「つながっている」ことを実感しています。 教頭という立場で,何ができるか。やはり,今までこだわってきたことは忘れずにいたいと思います。「平和を大切にすること」「人権を大切にすること」「人を大切にすること」 どんな時にも謙虚に,学ぶ姿勢を忘れないこと。出会いは無限にある。そのから学ぶことも無限にある。その一つ一つをつないで行く,そのバトン渡しの一人としていられたら本当にうれしいと思います。若い先生方と共に,未来を担う生徒たちといっしょに,前に進んで行けたらと思いつつ,久しぶりにカラオケで「島唄」を歌おうかなあ~と思う今日この頃です。 |