6/24//2001 材料技法  記事
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絵絹について(その1)

東洋では、絹は古くから画材、絵画基底材料として使われてきています。シルクロードという呼称を持ち出すまでもなく、素材としての魅力から重要な織物として扱われてきました。近年は、紙という素材の使いやすさからか、はたまた、制作技法自体が伝達されなくなって来たためか?絵画制作に使われる機会が減ってきているように見受けられます。
 

染まりやすい性質、絹自体が輝きを持っているなど、また制作過程において、絹ならではの製作法もあり、今日、東洋の価値観を見直したり、オリジナリティーのある絵画制作を考えるなら重要な素材であると言わざるおえないと思います。同時に絹本制作における技術は、まさに東洋の価値観を具現化したものとも言えます。

確かに、系年変化において、紙に比べて、基底材として脆弱であるという側面もありますが、絵画作品が長い年月を経る、また維持されるのは、関わる多くの方々に愛され、大切にされてこそという側面があることも忘れてはなりません。表具、飾り方なども含めての<生きる>価値観こそが大切なのです。
 

絹枠と絵絹
■ 絹枠と絵絹
 ■ 現在では、絹もいろいろな使われ方、描き方がありますが、基本的には、木製の枠を作り、それに絹を張って描きます。最後に一覧表として、制作サイズ関係、使い方などに触れますが、絵画制作において、絹目の縦横、厚さ(重さ)などにも気を配りたい物です。古布を模して制作された保存修復用の絹地など、なかなか一般では、手に入らない種類の絵絹もありますが、昔の絹は、現在生きている我々にとって必ずしも描き易いものではありません。なぜなら、描く時間、描法が決定的に現在と昔では違うということが考えられるからです。ただし、現在ならではの描き方も確かにあるわけで、古布を模した絹を個性的に使われている作家の方もいらっしゃいます。

枠張り準備の終わった状態
■ 枠張り準備の終わった状態
 ■ 絹枠に絹を張り、ドーサを引き、すぐにでも描ける状態となった状態です。描くのは、枠より内側、下の毛氈が透けて見えている部分となります。枠に絹を張るのに用いるのは<しょうふ糊>です。ドーサ引きについては、別項にて触れます。

絹の使用方向
■ 絹の使用方向
 ■ 絹の使い方、織物の耳が横に見えていますね。絹本制作時、絵画の縦方向に絹の縦糸がくるように用います。掛け軸などを作る場合、大切な事です。

絵絹の大きさ
絵絹名称 センチ 二丁樋特上 二丁樋重目 三丁樋
一尺幅 約30センチ -
一尺二寸幅 約36センチ -
一尺三寸幅 約40センチ
一尺五寸幅 約45センチ
一尺八寸幅 約55センチ
二尺幅 約60センチ
二尺五寸幅 約76センチ
三尺幅 約90センチ
四尺幅 約120センチ - -
六尺幅 約182センチ - -

現在、一般的な西洋的絵画寸法 F,P,M を基準に制作するときは、絹枠に張る糊代分、織物としての完成時の縮みなどを完成寸法に足して絵絹を選ぶ必要があります。

例)F10号横構図を描く場合、(F10縦横 53センチ 45.5センチ)

 *)53センチ+(縮み余裕)1センチ+糊代片側3センチ×2=二尺幅

 二尺幅の絹を使えばよい事がわかります。そして今度は、その長さですが、

 *)45.5センチ+(縮み余裕-縦方向に縮みが多い)2センチ+糊代片側3センチ×2= 約54センチ

絹枠は 枠縁・木の部分を除いた枠内のスペースが 横54センチ 縦48センチ 程度となります。また、木枠に使う木材も絹の張力に耐えられるように作る必要があります。縮みに対しては、使用する絹の縦方向に対して大きく縮む事を念頭においてください。
 

「長物」と呼ばれる様式の一般的 幅:長さ
(一)尺三・尺五 長物 四尺
(一)尺八・   長物 四尺五寸

「横物」と呼ばれる様式の一般的 幅:縦
二尺       横物 一尺七寸
尺八       横物 一尺五寸
尺五       横物 一尺二寸

*)上記寸法は絹枠に張る場合の糊代は、含まれていません。完成・最終サイズとして上記寸法を想定すると、一サイズ、幅の広い絹を使っての制作となります。

1)絵絹による制作を考えるとき、絵絹の縦目、横目、絹の性質について考える必要があります。

幅と表しているのが反物として売られているときの織幅です。絵絹による制作は、基本的にこの幅を実際の制作においての画面で、横幅として使います。反物として巻かれている方向が縦となるのですが、このことは、掛け軸を作りたいときなど、重要な事です。

また、織物の性質上、縦方向に強く(多く)縮む性質があります。月、太陽など、円形の具象物を画面に配するときなど、完成時の縮みを想定して、制作時には縦長の楕円として描くなど注意が必要です。一般的に、「重め」「三丁樋」など、厚い(重い)絹を使うほど、この縮み方は強くなる傾向が見られます。また、描法により、膠分が多くなる(絵の具が厚くなる)ほど、縮みが出てきます。 ただし、近年、縮みにくい絵絹なども開発されているようですから、自分の製作法を考え、縮みまで想定した作画が出来ると良いでしょう。

額縁制作を考える場合は絵絹の使い方、方向について、上記の限りではありません。ただし、縮み方向については、絹枠に張って描く場合、注意することが重要です。

最近では、(裏箔などを行った後)裏打ちを行い、パネルに張り込んだ状態で絹本制作を行うこともあります。屏風などと同じく、仕立ててから描く場合と同様ですが、制作中、透けるという性質から線描きが新鮮に行えることや、裏から絵の具をさせること(表面に厚塗りせずとも重厚な色合いを出せる)、絹枠ならではのぼかし作業や、描画中の画面の弾力(筆を入れるとき、刷毛を使うときなど)など、絹ならではのメリットが失われがちです。また、屏風、襖などの制作を考える上でも、接合部のにじみが出たり、張力が完成後にかわってしまい、吊れなど、不具合の原因となったりします。

 

 


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