Ten-Tec CORSAIRU
1985年〜89年製と思われます
この時代、唯一と言って良いくらいのUSアマチュア無線機メーカー TEN−TEC社の製品です
今でも続いている、ある意味貴重なNative USの無線機メーカーです(その後、Elecraftが参入していますね)
この頃(80年代後半)になると、Made in Japanの無線機が世界を席巻し、歴史あるUSメーカーは既に姿を消していたり、アマチュア無線分野から撤退してしまいました
さて、本機ですが、1.8〜30MHz帯 WARCバンドを含む9バンドをカバーするトランシーバです
トリプル・コンバージョン受信(パス・バンド・チューニングを採用) 感度0.25μV(0.8μV:プリアンプOFF時) S/N10db 帯域幅2.4KHz シェープ・ファクタ1.6の8ポール・フィルタを2つ内蔵(カタログ等では16ポール・フィルタ内蔵と表記) 送信出力は85〜100W(入力200W)というのが、スペック・シートにある記載です
受信ダイナミック・レンジ 95dbと、まずまず・・・これはDBMを多用することと、フィルタを適切に使用することで得ているようです
機能として、パス・バンド・チューニング IFノッチ・フィルタ オーディオ・バンド・パス・フィルタを内蔵させるなど、混信対策機能を充実させています
またCWについては、フル・ブレークイン、セミ・ブレークインに対応、SSBにおいてはスピーチ・プロセッサを内蔵、ノイズ・ブランカも帯域幅とレベルを単独に設定できるなど、かなり細かくマニアックな運用にも対応ができるよう設計がなされています
今風の設計、そして他社には見られないTEN-TECらしい独自の「もの作り」を、そこここに見ることが出来ます
今風と言えば、メモリ・キー(速度可変)を内蔵、FWDパワー・メータはピーク表示になっていますし、4P-MIC端子には、ECMマイク用の+8Vの出力も出してあります

アルミ・シャーシ/ケースに、ガラス・エポキシ基板と、素性は悪くありません(私の古いマシンに対する採用基準に合致!です)
PTOと称して高安定をうたった、5.0〜5.5MHz(+40KHz)を発振するバリLタイプのVFOを内蔵しています
通電30分後からは、21℃から43℃までの温度変化で、周波数変化は平均15Hz以内、とあります
TEN-TECは、Collins同様可変LタイプのVFOがお得意で、Argonautも同じ可変LタイプのVFOが採用されています
しばらく様子をみて、必要があれば、またX−Lockの世話になろうと思います(OFF-SET機能を内蔵ですから、組み込みは楽そうです)
左写真は、本体トップ側を写したものです
クリスタル8つの固まり(4個x2))が見えます・・・そうです8ポール・フィルタです
2組見えています
帯域幅2.4KHzの、中心周波数9MHzと6.3MHzのものです
カタログあるいは取説では、受信において帯域幅2.4KHz 16ポール・フィルタを内蔵と書かれています(送信は、9MHzフィルタのみ使用)
基板上右のスペースは、オプション・フィルタの取り付け場所です
こちらは、受信用パス・バンド・チューニング基板で、中心周波数6.3MHzのフィルタが装着されるようになっており、オプション・フィルタとして、1.8KHz 500Hz 250Hz の帯域幅をもつものの用意があったようです
クリスタル・フィルタまで自前・・・TEN-TECらしさを感じます  
ロジック・ボード/アップです
PTO(VFO)ユニットの上部に配置されています
シールド・ケースを外して写しています
この関係で問題に遭遇しました
全て正常にデジタル表示するまでにすごく時間がかかる、また突然ドット以外の表示が消えるケースにも遭遇しました
何かの事情で、デジタル表示に異常が生じた場合、20〜30分以上電源を切って放置してからでないと、正常な表示が出来ません(正常な表示に戻りません)
回路図を追ってみると、どうもCPUのRESETピンに付いているコンデンサC6が怪しい・・・正常にCPUリセットができていない可能性が高い!交換してみることにしましょう
こちらは、本体ボトム側です

内蔵スピーカーは、ご覧のように底面に取り付けられています
RF段は、シールド・ケースの中です
こちらからは、VFOユニットが見えます
リア・パネルです
いろんな取り組みが出来るよう、信号の入出力端子が付いています
極めてアマチュア・ライクかと思います
とりあえず、全体を清掃、接点・VRの清掃などメカ中心のケアをして、通電して様子を見ているところです
まず先に記したように、ロジック・ボードCPUのリセット動作に問題を見つけました
細かい動作点検はこれからですが、現役に供するようになるまでには、色々と楽しませてもらえそうです
ボツボツ時間を見つけて、つっついてみることにします
2015.01  JA4FUQ
その後:
  ディスプレイCPUのリセットが怪しい件
     予想が当たりました
C6コンデンサを交換することで、ディスプレイ問題は解消しました
その他の機能チェック
受信感度、送信出力などスペック通りで、何も問題はありませんでした
製造後、30年程度経過していると思われるマシンですが、送受信という基本的な部分においては問題なく、メカ的な部分での劣化(接触不良・ガリ、ダイヤル減速装置のバック・ラッシュなど)と、先のロジック・ボード以外に電気的な問題は生じていませんでした
実際にアンテナをつないでみました
AGCの動作/Sメータの動きはちょっと面白い・・・いわゆるデジタル・ホールディング・イメージの動きをしますが、FASTで使用すれば違和感はありません(別に異常なわけではありません、こちらが慣れていないだけです!)
受信音ですが、いわゆる通信に都合が良いと言われる聞こえ方をするように、意図的にしてあるように感じます
S/Nは悪くありません、いえはっきり言って良いと思います
RF-ATT状態(プリアンプOFF、DBMによるTopMix/2ndMix、増幅はフィルタ・アンプのみで、いきなりIF)で、十分な感度があります
ダイヤル・ノブ1回転で約18KHzの高安定をうたっているVFOですが、確かにドリフトは極めて少ないです
X−Lockを組み込むかどうか迷うところです
と、まああっさり実用に供す形になってしまいました
残すは音質(音色)でしょうか・・・聞こえ方、やはり好みというものがあります!
この年代の市販品は、High・Lowいずれも(特にLow側が)、必要以上にカットしてあるケースが多いです
また、本機の場合、通信に都合が良いように特化された聞こえ方/ある周波数範囲に押し込まれた、それもパック(レベルを圧縮)したようにも聞こえます
これを、通信を目的としたひとつの完成形と考えれば、この設計はそれで良いと思います
もし、素直な音色/聞こえ方を求めるとしたら、AGC〜検波、そしてオーディオ段まで見直す必要があるかも知れません

AGCは独特
一般に行われている増幅素子の利得調整ではなく、増幅途中の信号を3箇所でアッテネートする方式が採用されており、IF段より前にはRFプリアンプ(手動でON−OFF)とフィルタ・アンプ以外、増幅要素はありませんので(全てDBM)、この処理はIF内だけで行われています
DBMを上手く利用している(ダイナミック・レンジを大きく取る)、と言うことにつながるのかも知れません

プロダクト検波は、デュアル・ゲートMOS−FET
DBM-ICによるプロダクト検波と、AF段間カップリング・コンデンサの容量アップくらいは、どこかで試してみようと思います
   
その後U 少し気になっていた2点について、手を出してみました(2015.03)
■AGCレリーズタイムの変更
SSB受信であってもFastを選択せざるを得ないようなレリーズタイムが長い状況がありましたので、抵抗を調整しました
■プロダクト検波の変更
オリジナルは、デュアル・ゲートMOS−FETによるものです
オーディオ・フィルタ満載の本機では、検波回路を変更してもそうそう音色に変化はないかな、と言う思いもありましたが、いつもの?SN16913Pを使ったものを組み入れてみました
オリジナルの配線はそのままで、つなぎ替えるイメージで組み込みました(完全なバラック配線!)
蛇の目基板で、段間のカップリング・コンデンサなどはオリジナルどおりです
出力レベルも大きく変わらず、従ってAGC(オーディオ型)動作にも大きな影響はないように思えます
結果は、なかなか良い感じ・・・もともとノイズレベルが低い受信状況であったのですが、低域もオリジナル以上に再生され、ますます落ち着いた聞こえ方をします
検波段でのS/Nも向上したように思われます
AGCをOFFにしたときの聞こえ方は、オリジナルのいかにもAGCを切ったというハードな聞こえ方とは異なり、それなりに聞ける音がします(検波回路のダイナミックレンジの違いか)
どなたの電波を聞いても同じように聞こえる音色が、個々の違いがそれなりに分かる音色に変わりました
これで、音質の変化についてレポートを・・・とのリクエストにも、ある程度はお応えできそうですHi(段間のC容量を増やせば、もう少し低域は出そう)
同時に、僅かではありますがVFOのドリフトが少し気になるようになりました
アナログVFOとしては、「売り」どおり非常に安定なVFOなのですが、ここでまたX−Lockの世話になるかどうか悩みが増えることになってしまいました(オリジナルの検波回路では、ここまで気にならなかったことなのですが・・・、色々バランスがあることを、改めて実感)
通常、プリアンプOFF(ATT表示LED点灯しますが、感度に不足は感じません)での受信で、ノイズがあまり気にならない(使用場所がイナカ!、市街地ノイズの影響を受けることの少ないところでの使用)、落ち着いた気分で受信が出来る点では、捨てがたいトランシーバとなりました
メインのIC−756PROVと比べ、バンドチェックは圧倒的に早く可能で(ダイヤルを回す回数が少なくて済む!)、ノイズレベルも低く、ちょっとバンドチェック/Watchするには、都合の良いマシンです
経年変化と思われるVFOダイヤルのバックラッシュが少しある点と、僅かなVFOのドリフトが時に気になる点が、残された改善テーマでしょうか!?
2015.03

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