展覧会案内・感想

2011年09月10日

 壮大な自然を描く 岩橋英遠
岩橋英遠展 リーフレット表

岩橋英遠展 リーフレット表
笠岡市立竹喬美術館で 壮大な自然を描く 岩橋英遠 がはじまりました。
2011年9月10日(土)〜10月23日(日)
開館時間 9:30〜17:00 入館は16時30分まで
休館日毎週月曜日 ただし10月10日は開館

 岩橋英遠さんの作品は、現代日本画にかかわり、描く者の多くにとってなんらかの刺激をずっと与えている様に思います。それは直接的な関係だけにとどまらず、時代を超え作家、所属するグループを越えて継承されているのです。

 何をどのように描くか、またその具体的描画技術。イメージを重ねて見せる表現、画面全体に絵の具を流すテクニック、またその作業によって作られる空間表現、画面の肌合い、トーンとしての直線の効果的な使い方。

 私も学生時代、参考にさせてもらいました。現代日本画を学ぶおり、真似てみたい、魅力を感じる要素がたくさんあるのです。

 現在の日本画、当たり前に思われているような制作における表現技術の多くがこの岩橋英遠さんによってある種の完成、提案がなされたと私は思っています。

 品のよい色使い、奇をてらわない構成。また本人も饒舌に語る方ではなかっただけにともするとそれを利用した方、作家の作品の方が印象に残ったりしますが、1950年〜80年頃に発表された数々の作品は今なお輝きを失う事は無いと今回再確認しました。

 さて、ある程度日本画に関わっているなら知らない人はモグリと言ってよい岩橋英遠さんの作品。そのなかでも代表的なものに「道産子追憶之巻」があります。高さ61センチ、長さなんと29メートル!を越える作品です。発表されたのは1978年、その年行われた大規模な自選展に出品され印象に残った作品でした。今回の展覧会にも出品されていますが、絵の前に立ってしばらく懐かしく見ている間に私の記憶とどうも違う部分の存在に気づきました。最初は私の記憶のいい加減さからかと思いましたが、やはり違います。絵のラベルに目をやると制作年に幅があります。そう、何年にも渡って手を入れ続けていた、制作を続けていた作品だったのです。

 私が持つ1978年に開かれた岩橋英遠展の画集のそれと比べて見ることで明らかな違いを見つける事が出来ました。フクロウの位置、姿、数、木立の表現、太陽が加えられ、花をつけたコブシが増えています。生家付近の林檎畑の緑の調子が変わり、木立に桜の開花、林の深さが加えられ、夏の遠景、山の表情もよりダイナミックに変わりました。秋の光景も少し伸ばされた様にも感じます。遠景の山も変わったか?舞うトンボの数が増されました。そして印象深い木の傍らに加えられた人物の存在。全てが白く包まれ消えて行く様な最後。

 今回この作品を見て一番感じたのは陳腐な表現ですが「情愛」。作者の思い、そして「命」を描こうとしたのではと引き込まれました。横に長い画面、見所は様々、自分の好きな場面、光景を探してみるのも一興です。

 「駅(青梅口)」、「猫」、一連の「庭石」シリーズ。「壁」の表現、「土」のシリーズ、「鴇」「記録」そして「彩雲」。

 印刷物になった瞬間、気にならなくなる流した絵の具の痕跡。絵の具の緩急。近づいて画面の中でのそれぞれの描き込み具合、決して一様ではない所、そんなところも見所です。

 柔らかな絵。北海道出身の作者、もし自分だったら故郷をどのように描くか?そんなことも考えてみると楽しいかも解りません。

※今回もワークショップを仰せつかっています。
9月18日(日)「瀬戸内の風土を描くー北の風土との対比で」
要申込(先着順20名)問い合わせは笠岡市立竹喬美術館
電話 0865−63−3967
岩橋作品を技術的に読み解きながら、日本画表現の工夫、構想や構図について、作業の進め方などを中心に解説、小下図作りを実習予定。