展覧会案内・感想

2019年06月23日

 旅人の記憶 生誕100年 堀 文子 追悼展
堀 文子 追悼展 チラシ表

堀 文子 追悼展 チラシ表
新見美術館で < 旅人の記憶 生誕100年 堀 文子 追悼展 > が開催されています。2019年6月1日(土)〜7月21日(日)開館時間9時30分〜17時入館は16時30分まで月曜日休館 但し7月15日(月)は開館

 直接指導を受けたことがあるわけではありませんが、「堀先生」という呼称がなんだか自然に出てきます。私が画学生として大学に通っていた頃、また東京で生活していた当時、堀先生は、多摩美術大学の教授として後進を指導されており、同じ世代の画家の卵たちとの付き合いの中、また先輩方々との会話の中で頻繁に「堀先生」というお名前を耳にしたからです。またそのころ先生は日本画を代表する公募展、創画会の会員でもあり、日本美術院展(通称 院展)、日展とともに、日本画を学ぶ学生にとって必見の展覧会に出品される先生でもあったのです。
 
 戦後、新しい日本画を求める革新の動きの中で、日展、院展はもちろんですが、創造美術、新制作協会、そして創画会と続く流れは誰もが注目したものです。

 私が東京に出たのは1976年ですから、堀先生の活動の場はすでに創画会となっており、創造美術、新制作協会時代の堀先生の作品をリアルタイムで見たわけであはりません。山本丘人、稗田一穂、工藤甲人、加山又造、上村松篁といった諸先生の歴史、過去の作品を追う内に堀先生の初期の作品にも出会い、当時の発表作以上に魅力を感じていたのです。

 しかし、魅力は感じていたものの・・・・私が(当時創画会に発表されていた作品以上に)気になった過去作品、実作を直に見ること、またまとめて堀先生の制作の歴史、画の追求、流れを見ることはありませんでした。今回こうして、この岡山の地で見ることができる縁、不思議を感じずに入られません。期待を胸に新見に向かいました。


 見たことのない絵が並びます。画学生時代に古本屋で見つけた本に出ていた堀先生の作品、一枚の絵にワクワクした記憶を呼び覚ますような表現と再び出会いました。画面への絵具の着け方、筆の運びの確かさをどの絵にも見ることが出来ます。革新といって、何もかも全て壊してしまって良いなら、それは単なる絵画上の問題解決にしか過ぎない気がします。「日本画」という呼称が何を意味するのか、「伝統」を何に見つけるのか、歴史ある国の表現、描きかかわるそれぞれの考え方、取り組みはあるにしろ、材料との関わり方、筆使いの結果に美意識の存在を認める視点を私は重要であると考えています。堀先生の絵には一生の制作を通じてぶれなくその存在を見つけることができるような気がするのです。またこのことに気づけたのも自然の中での生活、暮らしを続けた今ならではと思います。

 独自のスタイルを作ることが作家として生きる上で重要であることは昔も今も変わらないのでしょうが、堀先生の絵にはそういったことをこえて自身のワクワク、ドキドキに正直に絵に取り組まれた姿を感じます。だからこそ、筆の運び、この国の美意識と一体となった表現がより魅力的に輝くようにも思うのです。

 会場を廻って、大きな作品がちょっと少ないようにも思いましたが、先生の多様な取り組み、表現を網羅するにはこうならざる負えないようにも感じました。実際飾られている作品数は120点とのこと、たっぷり、作品それぞれとじっくり向き合うことのできる展示でした。そうそう、銀箔、青貝箔を使用した作品が何点も出品されていました。魅力的な素材ではあるのですが、かねてより使い方が難しいと感じていた素材です。それが自然に、必然のように使われていました。テーマの多様性、表現、取り組み方、絵を描くこと、絵との関係を結ぶこと、これからの時代に示唆深い展覧会であるように感じました。

 何故(堀先生の展覧会を)新見で?という声を聞くとか、
 岡山の地で、今、堀先生の制作の姿に出会える縁を思います。

 おすすめの展覧会です。