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3/14//2009  「無い」から始める日本画講座

構図のはなし

■ 風景や花、人物、その心を捉えたものが何かはともかく、心に響く「何か」との出会いが確信出来ていれば、あとはそれが何であるかを一歩一歩確かめながら近づいていく作業が絵を描くことかもわからない。先人の作品をたくさん見ることも有効なこと、それは、探す方法を知ることにもなる。

主題は何か

「日の丸構図」と呼ばれる画面があります。画面の中央に主役となる対象一つだけを配置するたいへんシンプルな構図です。確かに日の丸のように描く対象が全くの円ならそれでも良いのでしょうが、それが花などであれば、どちらかに傾きがあったり、葉の付き方や茎、枝などがあって、単純に中央に配置すると言っても、描く対象の中心が何処なのかが問題になったりします。こんな時、重心という言葉をつかったりしますが、まずは、画面がバランスよく見える何らかの配慮のことを「構図」と呼ぶことにして考えて見ましょう。


 中央


 向きを考慮

 主役の向きを考慮して配置をずらすことも立派な構図上の配慮です。

 花の向きを考慮して、顔の向いている方向の空間を少し広くしてみました。差はわずかですが、最終的にこうした配慮が画面全体から受ける印象に関わって来るのです。

 また、座りも重要です。中央に描いた場合いかにも主題が不安定に見えるようなとき、画面中央よりすこし下に下げるということも必要でしょう。

「日の丸構図」は、単純だからこそ強い主張を持つ構図です。古いこの国の絵画の中には背景という概念が無いように見える絵画もあり、装飾という考え方とも呼応すると思われますが、この話はまた別の機会に。


 思いで、過去の表現

 画面中央

 顔の向きに配慮、前途

 上記の事を人物の横顔で考えてみるとよりわかりやすいかもわかりません。ただし、こと人物を描くときには頭の後ろに空間を作ることも何らかの意味を表すことがあります。

方向性を持つような花や木を描くときにも考慮したいことです。

 


「やってはいけないこと」を手がかりにする方法もあります。


○が描かれている箇所を見てください。

画面を構成するそれぞれの輪郭線に注目して、接することで前後関係がわからなくなる場所や、輪郭線が画面端に接するような構図は作らないようにし、前出の「向き」に対する配慮や、このあとに出てくる「3分割」などを応用するだけでも手がかりになるでしょう。

○が描かれている箇所を見てください。

画面を構成する主要な線が四隅に繋がるのも、よほど意図的な表現を試みる時以外は止めたほうがよいでしょう。

例では道を用いていますが、山の稜線であるとか、波打ち際の境界とか、人物の輪郭線、花、枝、樹木なども同様です。

「少しだけ蘊蓄」全種と折枝
 植物を描くとき、地面から生えている状態全てを描くことを全種と呼ぶそうです。桜の枝とか椿など、一部の枝を採って描く場合、それを「折枝」と呼び、部分ではあるけれど、部分の中に全てはまたあるといった自然に対する一つの認識、特別な表現だったとか。

「構図の目的」を考えることは、ある意味で第三者の目を意識する事かもわかりません。それが自分自身であったとしても。

 画面の中に描く対象が増えて来たとき、第三者にどのように見えるかを考えることは、自分自身が何を描こうとしているかを確認する意味でも大切なことだと思います。具体的に描こうとしている対象それぞれに順位付けをして視線の導線を作ろうとすることも構図の大切な要素でしょう。

1,対象物の大きさを変えること
2,重なりを使うこと
3,画面が矩形であることを利用して主題を強調すること


上記3,矩形を知る事について


※具体的な考え方
参考その1
風景なら横に伸びる3,4の直線あたりに水平線、地平線などを配置するとか、3のラインを大まかな目安として上3分の1を空、それ以外をビル群などといった分割を行う。
左画像だと、大地、もしくは川、湖など下3分の2が主役となる。

参考その2
左画像では、その1とは主役が逆転し、空がより重要な存在として表現される。

縦を分ける1,2の線は、ビルの壁とそれ以外とか、断崖絶壁とそれ以外などが考えられる。また背の高い樹木、電柱、植物、人物の配置などでも考えられる。

参考その3
中央にabcdで囲まれた矩形が出来る。対角線の交点、重心もある。ここに主役を置くのが「日の丸」構図。
動きを出す工夫として消失点(バニシングポイント)や、人の目などを配置すると自然と強い主張となる。

※対角線、縦横二分割する十字線。構図を考える上で、バランスは大変重要な要素で、これらの線は重要な手がかりとなる線です。

呼応する対象、花と蝶と森と月などを配置する手がかりともなります。

 

 構図という言葉は、もちろん絵を描く時にも出てきますが、写真を撮るときにも出てきます。日常的に絵を描く人数と、写真を撮る人数を比べれば、おそらくデジタルカメラ、携帯電話の普及により、カメラを使う方々の方が今日ずっと多いでしょう。構図については、より広範囲に及ぶ話しです。もちろん、ただ写れば満足という方々もいます。何かしら「いいな〜」と思うような写真を撮る手がかりとして構図をまず考えてみることからはじめましょう。

 左図は、いわゆるフォーカスグリッドなどと呼ばれるものです。一眼レフと呼ばれるカメラや、ちょっとしたコンパクトカメラなら表示することが出来ると思います。ちなみに、36と24という数字は、昔のフィルムサイズから来ている数字で3:2という比率となっています。(※実際のスクリーンには文字、対角線は描かれていません)

 写真を撮る時の基本中の基本として「ダイナミックシンメトリー」という言葉があり、「三分割法」とも呼ばれています。
 縦、横とも三分割したライン、1〜4を構図を作るときの手がかりにするということが定番として行われてきたのです。

 何故三分割かといえば、二分割では分けられる二つは同じになります、三分割なら2:1と明確な差を作ることが出来るからです。では、何故差を作る方がよいのかといえば、たとえば主役と脇役、どちらが大切かを明確にすることが出来るからです。何に注目したか、写そうとした動機は何か、表そうとする意識を明確にすることをこの単純なルールが自然に行わせてくれるのです。
 ならばと、極端な差を作る方法を誰もが試しますが、現実世界はそれほど自由には切り取れません、初心者であってもなんらかの安定感を自然に作り出してくれる2:1が定番となったと思います。

 絵を描く場合でも、この基本中の基本は覚えておいて損はないことと思います。

※ど真ん中に主役をドーンと入れる方法も確かにあります。大変強い主張がある構図となるのですが、一方、動きは弱くなります。こうした構図を「日の丸」構図、山などが中心に来る場合、ピラミッド構図などと呼びます。安定感重視の構図です。一方、上記で紹介したのは、その次ぎの段階、より複雑な表現への第一歩です。

 


この国の絵画と構図について

  

 上記で一般論として構図の基本中の基本を書きました。ですが、絵を描くとき、たとえばこのフィルム比率が元になった形、もしくは、F,P,Mといったキャンバス型を守る必要が本当にあるのでしょうか?
 掛け軸であるとか、巻物、障壁画、扇面、色紙、短冊と呼ばれるそれぞれ、この国の絵の形はたとえば、建築物であれば、畳、建具のように2:1の比率が基本だったり、もっと縦、横にそれぞれ細長かったりします。
 今日、絵の勉強といえば、西洋から入ってきたキャンバス型が一般的な画面形となり、どうしても構図や絵の大きさについてなにかを考えるとき、基準として当然のように使われます。和紙の形、大きさにもきっと昔は意味が合ったはずと思うのです。
 これまでベテランの表具の方に、材料の扱いについて、ドーサ、裏彩色などの技法についてなど教えていただくことが多々ありました。また同時に、絵画空間の扱い、描き込みについても教えていただくことになったのですが、軸装ならではの空間のとり方といったものもありそうです。
 ポイントとして、主役以外となる空間、「余白」とも呼ばれる扱いについてが重要になります。構図を考える場合、主役の形も確かに重要ですが、この余白の形をどのように考えるかが実はとても重要なことのように思うのです。どうしてもF,P,Mといったキャンバス型にとらわれた構図どり、描き込みをしてしまい窮屈になる・・・・・・。(一方で、よく描き込んでいると評価されたりもするのですが・・・・)

 



キャンバス型 M 黄金比の形
上図で見たとき、縦を1としたとき、横は約1.6とした形をM型と呼んでいます。この比率を黄金比と呼び、黄金比の長方形をその短辺を一辺とする正方形で分けたとき、残りとして出来る長方形が相似形となる特別な形です。

キャンバス型 P
上図で縦を1としたとき、出来る正方形Sの対角線を半径とする円弧を引いて出来た長方形、横はルート2となります。


キャンバス型 F

キャンバス型と黄金比の関係
 誰しもいたずら描きををするときに、F,P,Mといったキャンバス型を意識することはないと思います。
 絵を描いてみたいと考えて画材屋に行くと、スケッチブックの大きさや、まさしくキャンバスにこのF,P,Mといった言葉を見つけたり、号数などという言葉に遭遇することになります。
 はたしてこのキャンバス型というものがどんなものなのかを知ることにどんな意味があるのかはさておき、避けて通れない形ならば、一応手がかりとして見ておく意味はあると思います。昔々何処かで聞いたそれぞれの形の由来、売られているパネルなど厳密には異なっている比例のモノもあるようです。あくまで参考までに。

 最初は描く対象に応じて、適当な形を選ぶことから始めます。

  F型はM型黄金比の長方形を縦に二つ並べた形です。

 それぞれ、対角線とそれと対峙する角から引いた垂線を描いています。○で表された場所が画面の中で重要な視線を集めるポイントとなると聞いた事があります。ただし、実際に描くものにも形があり、さらに描く物が一つでなければよりそんな単純な話しでないことは明らかです。新たに描き込まれたそれぞれが相互に新たな関係を作り出すからです。

 絵画の技法書などで、既に描かれた絵をもとに構図を分析する記載も見られますが、初心者には大変難しい概念のようにも思います。これらの形がどのように出来たかを一応知ることで、最初に紹介した3分割法よりすこし複雑な分割方法の手がかり程度として描く中で自分なりの構図を作るとよいでしょう。

 重要なのは、描こうとしている「何か」、主題となるものを探し、明らかにしながら、画面としてのバランスをいかにとるかなのです。

※いろいろなことを書きました。しかし、平面上の表現として絵画が多様化した今、構図をどのように捉えるかについても、様々な考え方があると思います。あえて決まり事を壊すこともアリなのです。
古くからある伝えるための文法を学ぶというスタンスで学ぶのが良いかもわかりません。また、この国ならではの表現を考える手がかりがもしかしたらこんなところにあるかもと思う今日この頃です。