森山知己ロゴ
3/15//2009  「無い」から始める日本画講座

基底材の準備 その2・ドーサ引き

■ 接着剤としての膠が歴史の古い物であることは言うまでもないでしょう。また使用する絵の具も基本的には天然に産出する鉱物や土、植物から抽出した染料や樹脂、虫からとった色素、貝殻など古くから利用されてきたそれぞれです。これらを組み合わせて何に描くか、描く対象を基底材と呼んでいます。和紙や絹はもちろんのこと、漆喰などの壁土の上や、板壁、板戸、木彫など木材の上、この他、皮などにも描くことが出来るのです。それぞれの基底材にいかに安定に絵の具をつけられるようにするか、ドーサは、絵の具をつける接着剤をより有効に機能させるために引きます。
 
ミョウバン(硫酸カリウムアルミニュウム)の結晶を乳鉢で砕き、水に解けやすくします。
>> ミョウバン(硫酸カリウムアルミニュウム)の結晶を乳鉢で砕き、水に解けやすくします。 (7.04KB)

紙や絹に安定に絵の具を定着させたいと思った場合、もしくは、滲みなく描きたいと思った場合、基底材への準備としてドーサを塗ります。ドーサ液とは、生明礬(ミョウバン)を溶かした溶液に膠を加えたものですが、紙、絹の繊維の間にこのミョウバン液が浸透し、乾燥する課程で皮膜を作ることを利用して、描くときに定着材となる膠がただ素通りするのではなく、安定に固着するベースを作るものです。
ドーサの濃さというものも、描法に密接に関係していますから、一概に薄い方が良いとか、濃い方がよいとかは言えませんが、酸性紙の問題でも解るとおり、強すぎるドーサは、水分をはじいて描きにくいだけではなく、基底材そのものを酸化しやすくするものであることは覚えておいたほうがよいでしょう。また、箔を貼ったおり、表面に皮膜を作り、酸化防止に使う場合もあります。

※滲み止めとして、サイズ剤とよび、古くは松ヤニ、現在では化学的に合成した同様の機能を持つ薬剤があります。

 
三千本膠
>> 三千本膠 (37.19KB)

私は、ドーサ液を作る場合の定着材として三千本膠を用います。絵の具定着用の場合と違って、この場合は、前もって水に浸ける事はせず、鍋に入れた水に細かく割った三千本膠を直接煮ることより始めます。
煮るための鍋ですが、ホーローやガラスなど、金属で無いものの方が良い結果がるようです。やはり、金属?との化学反応があるのかもわかりません。

 
水に三千本膠を入れ煮る
>> 水に三千本膠を入れ煮る (38.17KB)

★材料と分量

約一リットルの水に三千本膠、一本。ミョウバン約3グラムただし、これもあくまで目安で、紙、絹の違い、厚みの違い、描法などで使い分けられると表現の効果がまた違ってきます。
(今回、使う薄美濃紙、絹を基準としています。より厚い紙を使う場合、揉み紙など作るとき、滲みをコントロールする場合など様々です)

水より、膠を入れ、火を入れます。沸騰する課程で、全ての膠を溶かします。溶かすときにかき混ぜますが、この時にも、金属製のものでかき混ぜる事はせず、私の場合は、割り箸などを用います。

 
生明礬を加える
>> 生明礬を加える (38.07KB)

膠が全て溶けて、水が膠色になります。不純物などが浮く事もありますが丁寧にとりましょう。完全に溶けたら、私は一度、強く沸騰させます。(このあたりはそれぞれのやり方があるでしょう。)そして、細かく砕いたミョウバンを加えます。このとき、火を止めるのですが、止めるタイミングもあります。それぞれの鍋自体の持つ冷め方の速度もなんだか関係するように思うのは私だけでしょうか?余熱を使って完全に溶けるまで混ぜます。

 
それぞれの基底材に塗ります。
>> それぞれの基底材に塗ります。 (33.64KB)

ある程度ドーサ液が冷めたら、基底材(生紙、絹)に塗ります。
あんまり熱いまま塗ると、ミョウバンが基底材表面での結晶化が激しく結晶が光ってしまうこともあります。

※私は、絹の場合、温度の高いまま塗ることがあります。
また、最近売られている絹は、絹糸自体の変化か、織方が変わったのか、以前のものよりドーサがしみこみにくく感じます。注意して引かないと定着が悪い場合があるように思います。

 
和紙に引く
>> 和紙に引く (28.35KB)

★和紙に引く場合

毛布などを下に敷いておきます。実際に基底材に塗りはじめると気づくと思いますが、どんどん吸い込み、下に浸みだします。また、あまりもたもた塗っていると、引っかかるような感触が手に還って来たりします。
たっぷりと、かといってたまるほどではなく均等に、何度もなでるようなことはせず、染み込ませるように塗ります。

雲肌麻紙など厚い紙に引く場合は濃い目のドーサ液を使います。一度目に引くとき、すぐに吸い込んでしまい、かなりの量が必要となるでしょう。一方、薄美濃紙などでは薄めにします。紙自体が薄いこともあって、少量で十分足ります。

表から裏から、素材に応じて、また描法に応じて、表、裏、両方から引く場合、片面からのみの場合、途中でも引くなどあります。
描き続ける中で、自分にあったドーサ液の濃さ、引き方が出来てくると思います。

 
絹に引く
>> 絹に引く (28.6KB)

★絹に引く

絹も基本的に薄い紙と同じに考えてよいでしょう。
絹枠に張った絹にドーサを引くと、たわみやツレが伸びてピンとなります。かなりの張力となりますから、枠に張るときが重要であることがわかると思います。

先にも書きましたが、最近の絹にはドーサが染み込みにくいものもあるようです。セオリー通りだけではない方法も試す必要があるかもわかりません。

裏・表、両面引く場合もありますが、基本的には表面からだけでも大丈夫だと思います。絹は紙などよりも酸性化に弱く、またホルマリンなどにも弱いそうです。防腐剤の入った膠使用にも注意が必要です。

用いる基底材によって、ドーサを引く速度も変わります。