裏打ち-その1(地獄打ち)
1・本紙を適度な大きさに切り出す。下図をトレースして線描きを行ったとき、厳密には構図、画面の大きさを決めませんでした。ある程度の助長性を持たせて制作しています。このまま仮張りでの描き終わりまで下図を写し取った大きさのままで描くことが出来ればそれも良いのですが、初めての裏打ち作業で、画面の実サイズは作業の難易度に大きく関わって来ます。構図を厳格に決定づけるほど切り込まなくてもよいですが、余裕も確保しつつ出来る限り小さな画面にしましょう。(初心者としてあくまで作業の難易度を下げる為の処置です。慣れてくれば自分に可能な範囲の大きさで作業すれば良いでしょう。)
基本的に裏打ちに用いる和紙は、本紙より薄い紙を使います。特に肌裏には薄美濃紙が用いられることが多いそうです。今回は本紙も薄美濃紙を使っています。肌裏にも同じ薄美濃紙を使いましょう。裏打ちに使う和紙は生のまま(ドーサは引きません)使います。
2・裏打ち紙の切り出し本紙制作のおり、紙の使用方法について留意しました。今回行う裏打ちでは、本紙と紙の繊維方向を直交するように使います。縦使いで本紙を描いたら、裏打ちは横方向で紙取りするということです。本紙の大きさより各辺2cm程度大きく切り出します。この余分は仮張り時の糊しろとなる部分です。
裏打ち道具の一覧です。生麩糊は表具材料店で売られているパックされたものを用います。(自分自身で煮て作る事も出来ます)使用する道具として、最低限、糊刷毛、撫刷毛があれば簡易な裏打ちは可能かと思われます。実地で一度でも経験すれば、家庭で代用可能なものも見つかると思います。
3・糊を水でのばし好ましい濃度にします。今回は市販品の糊を使っていますが、この糊一つをとっても、本来いろいろと考えさせられる要素があります。防腐剤が入っているものは和紙自体の劣化を招くということで使いたくありません。また糊の目的は接着ですが、これも強すぎる接着は好ましくありません。何故なら裏打ちはやがて張り替える運命であるからです。張り替えるとき、本紙をいためず剥がしやすいということも重要なのです。また水にたいして親和性を持ちながら強いということも求められます。水を少しづつ足しながら糊刷毛でバットの底に擦り付け伸ばしながら水に溶かします。塊、粒などが残らないように均一に伸ばします。
4・糊が水に溶けたら、適した濃度か確かめます。タップリと糊刷毛につけ上から垂らしてみて滑らかに落ちるか落ちない程度。一般的には牛乳状と呼ばれています。弱そうに見えて心配になるかもわかりませんが、このあたりも経験により不安はなくなるでしょう。また、完成時に表具屋に持ち込めば、プロの手により、この素人の裏打ちは剥がされることになるかもわかりません。あくまで制作補助として考えておきましょう。
5・裏打ち紙に霧吹きで水をかけて湿らせ、伸ばします。<本来の裏打ち方法、「迎打ち」では、水刷毛を使って本紙の裏に水をつけ伸ばします。>表を上にして霧吹きします。この表面が本紙の裏につく事になります。和紙は水分を含むと伸びる性質があります。糊をつける本紙は糊の水分を吸って伸びます。これに張る裏打ち紙も本紙の伸びに合わせて伸ばしてやるのです。この作業は同時に糊の付きを良くすることにも繋がっています。
6・本紙の裏に糊をつける邪道と言われつつも、初心者の裏打ち体験に私が「地獄打ち(本紙に直接糊をつけるためこう呼ばれる)」を選択しているのは、1、糊をつける行程で本紙を伸ばす事が簡単に出来る。2、一人で裏打ちを行う時に取り回しがしやすい。というメリットを思ってのことです。習熟の具合、必要な作業によって、本格的な「迎え打ち」など選択すればよいでしょう。本紙を裏向けに置き、この裏面に糊を着けます。糊の着け方は、まず中央から外に向かって八方に向けて行います。糊の水分を吸った紙は暴れて皺が出来たりしますが、慌てず、四隅を一つずつ持って純に伸ばしましょう。下に引いたシナベニヤ、パネルに糊の水分で張り付く事で次の作業がしやすくなります。
7・糊のついた本紙のうらに湿らせた裏打ち紙を運び貼付ける。誰かに手伝ってもらえる場合は糊のついた本紙の上に、二人で協力して裏打ち紙を運ぶ事が可能ですが、一人で行う時には、糊のついた本紙をパネルごと建てると作業がしやすくなります。オーバハングをつけてパネルを立て、湿らせた裏打ち紙を運びます。まず最初に上辺部分であたりをとり、パネルを寝かしながら全体がほぼ平行になるように密着させます。このとき、しわができても全体にバランスよくついていれば後で平に寝かせてから伸ばす事が可能ですので、慌てずに作業を進めましょう。
8・裏打ち紙を伸ばして本紙に密着させる基本は中央から八方に順に伸ばします。皺があるとあとあとまで作業に響きます。綺麗に平にしましょう。4角の一つを持ち、なるべく低く引くと綺麗にはがれます。上に持ち上げると本紙も引き上げられ作業しずらくなります。
9・持ち上げた裏打ち紙を撫刷毛で中央から押さえながら外に向かって密着させるように伸ばす。皺がなく綺麗に密着したら、撫刷毛を使って全体に慣らします。
10・撫刷毛を垂直に使って軽く叩き、本紙と裏打ち紙の密着を助ける
そのままの状態で、11・裏打ち紙が密着したら4辺のはみ出した裏打ち紙の部分、糊しろに糊を着けます。
12・4辺に糊のついた状態で、本紙ごと剥がし、仮張りに運びます。このとき、一回り大きい裏打ち紙だけをもつと本紙がパネルに残ったりしますが、持ち上げる時に一つの角を一緒につまみ上げ、裏打ち紙に付けた状態にすると、その部分を基点にしてうまく剥がれるでしょう。裏打ち紙を運んだ時と同様に、立てたパネルのオーバーハングをうまく使うと一人でも出来ます。
13・裏打ちしを付けた時と同様に仮張りのシナベニヤに貼付けます。4辺に付けた糊で張り付く事になり、ちょうど絵の裏の部分には糊がついていないためいわゆる袋張りという状態に成ります。紙が乾燥すると中央にはパネル、シナベニヤとの間に空気の層が出来ます。
14・裏打ち紙を張った時と同様に、綺麗に全体を伸ばしたら、ドーサの引いていない和紙などで上から押さえ、本紙と裏打ち紙の密着を助けます。押さえたあとは、糊をつけた4辺の部分を上から爪の平らな部分を使って撫でて、シナベニヤ、仮張りへの糊のつきを良くします。何故爪の上のようなツルッとした部分を使うかと言うと、指紋などがあると湿った紙の繊維に引っかかり破ってしまう事もあるためです。
乾燥させます。このまま少なくとも一日は置き、完全に乾くのを待ちましょう。乾燥するに従って、裏打ちの結果、本紙の白さが増した事に気づくでしょう。線描きの墨が生き生きとして見えて来た事と思います。この作業で得られる感覚も覚えておいて欲しい出会いです。
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糊には生麩糊(小麦のでんぷん質より作られた糊)を使います。何枚も張り重ねる場合もありますが、本紙、もしくは絹本のすぐ裏に張られる一度目の裏打ちを「肌裏」と呼びます。
今回のように薄い和紙に描く場合以外にも、厚い丈夫な和紙を使った大作の制作や絹本の完成時にも裏打ちは行います。また、「揉み紙」といった紙の加工時にも強度確保のために行うことがあります。
「表具」と呼ばれる作業の一つです。表装のプロ、表具屋、表装師と呼ばれる方々がいらっしゃいます。極めようとすると大変深い要素もあり、一朝一夕では出来ません。今回は、裏打ちの作業を通して知る出会いを優先して簡易的な方法を学びます。