胡粉を溶く
胡粉も用途により様々な銘柄・グレードの商品が売られています。下塗り用、仕上げようといった絵画用の他に人形制作の地塗りとしての商品などもあります。用途に応じて、また自分にあった胡粉を選んでください。箱売りの他、量り売りの商品もあります。箱詰めされた状態では小さな薄い板状に固まっていてこのままでは膠とうまく混ざりません。乳鉢を使ってなるべく細かい粒子になるよう「カラズリ」します。
「カラズリ」も地塗り(別記事で紹介します)用に擦る場合と、仕上げように擦る場合では時間も力の入れ具合も変わります。ちなみに地塗り用の場合は、それほど擦らなくても良いでしょう。ただし、膠を加えたときこのカラズリがいい加減だとあとあとの作業にいろいろと影響を与えます。飛び切りの白い発色や、仕上げでの色の伸びのためには、出来るだけ細かく、小さな粒子になるようカラズリします。
特に地塗り用として作る胡粉の場合は、煮たばかりの新鮮な膠、どちらかと言うと濃度の濃いものを用意します。ただしあまり濃すぎる膠はこの後紹介する行程で問題が出る場合もあります。各自の練るスピード、体温なども関係する微妙な絵の具、だからこそ面白さのある絵の具のように思います。カラズリした胡粉を皿に採り、少しずつ膠を加えて練り、ひとかたまりになるようにまとめます。耳たぶぐらいと表現される事が多い堅さにします。<皿にあえてとらず、乳鉢の中でこの作業を行う場合もあります。>
膠を入れるとき、経験を積めばある程度胡粉にどの程度が必要か目測出来るようになります。季節、乾燥によっても必要な量が変わります。練り終わるまでの時間も発色、伸びに影響するのです。初心者のうちは少量づつ膠を足しましょう。練る作業が遅いと、作業中にも乾燥が進み、思う以上に膠を必要とする場合もあるようです。膠の分量を多く練った胡粉と、少なめで練った胡粉では、胡粉のカラズリの具合も関係しますが、発色、また伸びなども変わります。
胡粉を一つの固まりになるように練り上げます。このとき空気抜きを行いながらまとめます。押したり、ひねったり、粘土を柔らかくするような行程をしばらく行い、柔軟性をもった塊とするのです。▲胡粉の使い方1この段階でひとかたまりにした胡粉を皿に貼付けて、まず、ぬるい湯を加えて、余分な膠分、皿にこびりついた胡粉を落し、そのまま少しずつ水を加えて指を指紋を使って溶きおろして使う手法があります。<※この場合には、団子にするときよりも少し多めの膠とします。片ぼかしで使う時など、仕上げで使いやすく伸びの良い胡粉、もしくは地塗り用として接着力の強い胡粉となります。流派によって、胡粉の使用はこの練り上げのみとしている所もあるそうです。><注:ここまでの作業をすべて乳鉢の中で行う手法もあります。大量の地塗り胡粉を作る時など有効です。一つの固まりにまとめ、粘土のように柔軟な塊となったら、棒状に伸ばし、表面積を増やした状態で乳鉢にもどし、熱湯を加えて乳鉢全体が暖まったら、この湯を捨てアク抜きとします。少しずつ水を加えながらクリーム状態になったら完成です>
一つの塊にしたあと、うどんの生地づくりと同じように、何度も何度も勢いよく皿に叩き付けたり、伸ばしたり練ったりして膠と胡粉の粒子をなじませます。叩き付けている時間も大切で、余分な水分が乾燥し、胡粉粒子にしっかりと膠が着くことになります。いわゆる狩野派の技法、「百叩き」と呼ばれる作業です。
叩き続けていると、団子の表面に膠分が浮いて来ます。必要な量を別の皿にとり、皿の上に貼付けます。▲基本的な胡粉の溶き方上記の状態の皿に水を少しずつ加えて、貼付けた胡粉の山を指紋でゆっくりと撫でるようにして溶きおろします。
▲より手をかけた胡粉の溶き方上記の段階で溶きおろさず、そのまま胡粉を皿に貼付けた状態で胡粉の山がぎりぎり隠れる程度水を加え、電熱器で熱をあたえて余分な膠分、アクを抜く作業を加えます。沸騰する直前あたりで、電熱器から下ろし、湯を捨てます。この湯とともにアクが捨てられるのです。<参考:灰汁抜きの方法には、団子状になった胡粉をひも状に伸ばし、皿に入れ、それに熱湯を注いで行う手法もあります>胡粉の状態、用途に応じて膠を足したり、もしくはそのままの状態で水を徐々に加え指の指紋を使って撫でるようにゆっくりと溶かして行きます。クリーム状になれば完成です。▲さらに繊細な胡粉の使い方しばらく皿におくと、上部に上澄み、底には少々荒い沈殿した胡粉に分かれます。この上澄みのみを仕上げで使う場合もあります。
■■■■ 実際に胡粉を溶き下ろす ■■■■
適量の胡粉を皿にとります。<胡粉は生ものです。溶き下ろして実際に塗るまでに時間がたてばたつほど、膠が水に溶け出します。自分自身の作業速度に応じて一度にたくさん溶かず、新鮮なうちに使い切れるようにしましょう。>水と手を使って溶き下ろします。
胡粉をつぶして皿に張り付けます。室温が低いと胡粉が堅くなりすぎてつぶすことも出来ない場合があります。このような時は、やはり水を加えた時も崩れてしまいうまく溶き下ろせません。電熱器の上で少し暖め、柔らかくなってから作業を行いましょう。
少しずつ水を加えては指の指紋の部分で丁寧に撫でるようにして胡粉を溶かして行きます。粘りが強くなって来たら水を加えます。
水を加えては撫でるように溶かす作業を繰り返し、皿に貼付けた胡粉が全て無くなりクリーム状になったら完成です。どのような用途で使うかにより、このクリーム状態の具体的な濃度は変わります。水分を多くして使う場合、粘りを少し持たせて描く場合など様々です。また使う筆、刷毛との関係でこの粘度も変わります。経験を積むことによって自分なりの溶き具合が出来てくると思います。
■■■■ 参考:胡粉団子の保存 ■■■■
胡粉をよく練り団子状にしたり、それを何回も皿に叩き付ける作業は、かなりの時間を必要とします。ある程度まとめての量を作り、保存を考えることもあるでしょう。私の場合は、まず大きな団子を作り、それを予定している作業毎に必要な大きさに小分けにしたあと、それぞれを小さな団子にし、なるべく空気を入れないようにラップで包みセロテープで封をします。その日のうちに全て使う場合は冷蔵庫で保存し、必要になる度に皿に出し溶きおろします。使う分だけを冷蔵庫から出して使うのです。小さければ手で握っているだけで柔らかくなります。これで数日は持ちます。一週間程度の保存を考える場合は、冷凍庫も利用する場合があります。基本的に「膠」を使うものは「生もの」なのです。なお、作家によって団子にしない溶き下ろし方を選択する方、絶対に保存した胡粉を使わない方、膠にこだわりのある方などいろいろといらっしゃいます。作業工程が長いだけに、作っている人の性格、体温などの身体なども反映された絵の具となるのです。この胡粉という絵の具を何らかの記録器として捉えた時、大変興味深い、そういったこだわりがでる!おもしろい存在と捉えられると思うのです。
※ 花に胡粉を塗る様子
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当初蛤の貝殻から作ったそうですが、現在の原材料は牡蠣殻だそうです。
胡粉は仕上げの白い絵の具としてももちろん重要な存在ですが、地塗りにおいても最終的な発色を助ける意味で大切な絵の具です。