地塗り1(水干絵の具の使い方+平塗り)
作業工程の5番です。上記で紹介した通り、使う絵の具の膠分なども重要な要素となります。
水干黄土は、被覆力(塗るとその下になる部分を見えなくする力)の強い絵の具です。成分は酸化鉄で文字通り、精製された土です。「まにあい紙」という土が透き込まれた和紙もあるように、安定な土を下地に加えます。今回はこの黄土に胡粉、微量の墨を加えて地塗り絵の具を作り、塗ります。黄土には黄口、淡口などいくつか種類がありますが好みにあうものでよいでしょう。胡粉は膠を吸い込みやすく、また墨は今後塗る絵の具の発色を際立たせてくれる効果を狙っています。
■参考:乳鉢を使わずに水干絵の具を溶きやすく細かくする方法。今回使用する黄土は乳鉢を使い細かくしましたが、水干絵の具の多くは、そのままでは堅い小さな欠片状態のことが多く膠を加えてすぐに溶かすことはなかなか難しいものです。胡粉をベースにごく少量の水干絵の具を加えて色数を増やすことが可能です。こうした場合に簡単に細かく出来る方法を紹介します。
コピー用紙などの上、中央付近に欠片状の絵の具を出し、この紙を二つ折りにして絵の具を挟むようにします。
絵の具を挟んだ紙を二つ折りにした上で筆など円筒形のものを転がして、挟まれた絵の具をつぶすようにします。何度か行きつ戻りつ転がすうちに手に返ってくる感触が変わります。紙を広げればわかる通り、細かく砕かれ、溶きやすい状態の絵の具にこの作業で出来るのです。(少量の場合は有効な方法だと思います。)
細かくなった絵の具です。
■■■■ 実際に絵の具を作る作業 ■■■■
皿にまず地塗りの基調色になる絵の具である細かくした黄土を出し、膠を加えます。必要な膠の量は、この黄土絵の具が皿に加えた膠を使って強く擦り付けると遊んだ状態の膠が無くなる程度です。ただし、このあと水を加える時点で、薄く伸ばしたい場合は膠をすこし多めにします。
黄土が膠で皿に伸ばされ密着した状態になったら、用意した胡粉を加えます。黄土より多めにして明るい地塗りになるようにしました。水干絵の具を混ぜて、自分が描きたい絵の基調色に有効な地塗りとする他、絵によっては、胡粉だけ、胡粉に墨を混ぜた具墨の淡い灰色などで地塗りを行うこともあります。
胡粉を加えた後、その胡粉を練り込むようにまず黄土になじませます。(胡粉を作る時に最初から黄土を混ぜて団子にする場合もあります。)皿に良く伸ばされた状態で墨を数滴垂らします。(水を加えてからだと墨が分離して浮き、思わぬ失敗をすることがあり、先に混ぜ込むのです。)
水を少しずつ加えながら指を使って溶かします。胡粉を溶く場合と同じく、丁寧にダマや塊が出来ないようにゆっくりと行い、クリーム状にします。全ての絵の具が溶け、必要な水分量、濃度になったら絵の具の完成です。
■■■■ 刷毛で絵の具を塗ります ■■■■
刷毛は、使う前にまず水に浸け根元まで水を行き渡らせます。刷毛に使われている羊毛は染まりやすくこの作業をしていないと思わぬ形で染まってしまったり、膠分が根元に残ったりするのです。一度水を十分に含ませたあと、余分な水切りをして準備完了です。
刷毛に絵の具が均一に着くように十分になじませます。絵の具を溶いてからこの段階までに時間が過ぎていると、一部の絵の具が沈殿していたり、分離していたりする場合があります。よく混ぜて使いましょう。刷毛の毛質、大きさによってそれぞれ調子良く塗れる絵の具、水分量といったものがあります。この辺りも経験により次第にわかるようになるでしょう。
基本的には一つの方向に均一に丁寧に塗ります。地塗りだけのことでは無く、刷毛の使い方として、毛の腰を使い、画面を荒らさぬように絵の具を置いて行く感覚が大切です。含ませた絵の具が少なくなり、手に抵抗感を感じたら絵の具を足します。なんども同じところを撫でるようなことはせず、最後まで引ききったら、全体に慣らすといった使い方が求められます。目的である画面の表面を落ち着かせること。地塗り絵の具の膠分を使ってドーサの再活性を助けてやること。全体に薄い被覆する絵の具の層を作ること。それぞれ注意しながら行いましょう。刷毛目を消す為に縦に刷毛を動かしたりする場合もありますが、手早く、かといって画面を荒らさないように注意深く行う必要があります。
地塗りが終わり乾燥した状態のサンプル。墨描きの線が十分に見えていることがわかると思います。初心者はどうしても厚くなりすぎる場合が多いものです。厚いと割れやすくなります。注意して行いましょう。
参考:線描き、裏打ちの終わった状態「椿」
参考:地塗りの終わった状態「椿」
■■■■ 刷毛の後始末 ■■■■
日本画の道具は高価なものが多いように感じますが、丁寧に使えば何十年も使えるものもあり、また良い物であればあるほど長く使うことで手になじんできます。大切に使う為にも片付けも重要です。使った後、水でよく洗い絵の具、膠を取り去ることはもちろんですが、水分が刷毛に長く残ることもさけたいものです。人差し指と中指で刷毛の毛の部分を挟みしごくようにして水分を切り、同時に刷毛の形を整えます。
刷毛の絵には漆の塗った物もあります。また、生地そのままだからといってそのままにせず、柄の部分などの水滴、水分も乾いたタオルなどで拭き取っておきましょう。
毛の根元が腐ったりしないように水を切ったあとは掛けて乾燥させましょう。これは絵(塗り)刷毛のみのことではありません。刷毛など道具を使用した後の片付けも重要な絵を描く作業の一部です。道具の機能・性質を知ることは、技術を知ることと同じことなのです。技術や道具はそれが作られた時々の明確な価値観の表現にほかならないのです。
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また、絹も和紙もドーサを引いたあとは、表面がそのまま空気に触れていない方が良いのです。
被覆力のある絵の具を全体に塗ることで、表面を保護し、同時にこれから塗る絵の具が着きやすい下地を作ります。荒れた画面を整える働きもあり、含まれる膠分によりドーサの再活性化にも繋がるのです。画面を落ち着かせる為にも、刷毛は丁寧に使う必要があります。