描き込みと調整 その1
一度に強い色、調子を加えず、全体の調子をみながら(このあたりが経験に異存する部分で難しく感じるところですが、理解にはデッサンと呼ばれる学習の中にヒントがあったりします。現在ならデジカメやパソコンを使って色の分布、諧調の分布などを客観的に比較して理解する方法も考えられるかもわかりません。)行います。■■■ 棒絵の具を使った描き込み ■■■
前段階の背景、全体への調子付けが終わった段階です。主役の椿に棒絵の具を使って具体的な色、形を描き込みます。
花びら一枚一枚に洋紅の「隈」を入れ、花びらの先端部分に向かって「片ぼかし」します。花びらと花びらが重なる部分、花心に近い部分にまず濃度のある洋紅を置き、花びらの先端部分に向かって、水を適度に含ませた筆であらかじめ置いた洋紅を引き伸ばすようにしてぼかします。
花全体にまず洋紅を入れました。最後に花心の部分は洋紅とガンボージを皿で混ぜた絵の具(オレンジ色に近い色です)で深みをつけました。(シベを描いた墨描きの線が透けて見えています)
葉に藤黄(ガンボージ)と藍を混ぜた色。緑のバリエーションを作りながら塗ります。棒絵の具を溶いたとき、別々の皿に溶きました。混ぜる時も別の皿の上で塗る分だけを毎回混ぜるようにします。このようにすることで、一本調子ではない多様な緑色を自ずと使う結果となるのです。主要な葉脈となる部分、線を塗らないようにします。こうした塗り方を「堀塗り」と言います。また、部分的に先に水分量の多い絵の具を形にそって塗っておき、その絵の具が乾かない間に濃度の違う絵の具を部分的にさして調子を作る「たらし込み」などを使って塗り方のバリエーションを増やします。
花と葉の塗り方のクローズアップしたものです。
枝は洋紅、ガンボージ、藍、墨などを使って着色します。
■■■ 棒絵の具による描き込みと調整 ■■■
花、葉、枝などに一応色が入った状態です。いかにも描きましたといった状態で生堅く感じます。※このまま描き進めて完成させるやり方もあります。例えば、余白が箔や砂子による場合や背景となる部分が紙の地を活かしたような表現の場合です。このような場合にはもちろん生堅くならないように慎重に筆、着彩を進めるのは言うまでもありません。部分的に背景に隈を加えたり、背景に使った絵の具、胡粉などを薄く全体にかけたり、画面を「洗う」ことにより、なじませ、画面を調整します。弱くなりすぎる部分が出来たら再び描き込む作業を行います。
全体の調子を整えては描き込むといった作業を繰り返し描き込みの密度を高めます。基礎の紹介として作業を単純化していますが、荒い岩絵の具を使った表現や墨を使った表現でもこの「密度」という感覚は重要です。別の言葉として「緊張と弛緩」これから行う仕上げに向けての重要な作業なのです。
■■■ 調整の具体的作業について ■■■
左画像は、絹の上で胡粉と染料系の絵の具を胡粉に混ぜた具絵の具が滑らかに変化するように暈した状態の画像です。調整を行うとき、ある程度濃度のある絵の具を背景に塗り始め、そのあと、主役にかかる部分は水を多くして暈し、徐々に絵の具の濃度を下げることで主役にかかる絵の具は最低限にしてなるべく色を濁らさないようになじませる方法などもあります。
画面全体にまず水を引いておき、背景の強くしたい部分や積極的に暈したい部分に必要な絵の具を置き、そのあと画面全体をを刷毛でならすといった方法もあります。濃度の薄い絵の具を全体に塗り、その絵の具がかかって欲しく無い部分だけを乾燥後に水で洗いとったり、面蓋といってマスキングして作業を行う場合もあります。
この他、背景にも色をより具体的に加えて主役との関係を調整する場合もあります。作業を何度も行ったことで絵の具の層が厚くなりそうだったら、水を使って塗った絵の具を洗いとるのも一つの方法です。主役、背景に関わらず、それぞれ描き込んでは全体を調整するという作業を繰り返し行います。この段階の修了を見極めるためには経験が重要になるのですが、すこし鈍いくらいでこの段階は修了です。決定的な仕上げ、色入れは次の段階で行います。参考:背景の表現やその部分との調整といったことに説明をさいていますが、主役以外は空間、余白と捉え、主役だけを描き込み完成させるという表現、手法もあります。こうした部分にも実は「日本画」を考える手がかりがあるのかもわかりません。
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筆の使い方、絵の具と水の感触を覚える意味で「片ぼかし」「掘り塗り」、「たらし込み」といった着彩の技法を積極的に使って行います。
描き込みを部分的に行えば、当然、全体のバランスが崩れます。崩れたら足りない部分を補う何らかの方法を考えて、隈を背景の一部に入れたり、余白に使った絵の具を部分的に対象物にかけて暈すなどして調整を行います。