箔の話
一般的な金箔や銀箔を作る行程については、書籍として製造工程を紹介しているものもあり、またネットで探せば製造メーカーのホームページなどに紹介を見る事が出来ます。金を薄く伸ばす特別な何工程もの作業によって、一万分の1ミリと言われる様な厚さの箔にされるのです。箔打紙(加工を施された和紙)に挟み、打つ事によって薄く伸ばされます。
四角く切り取ります。中央の四角い部分は文字通り箔として、新たに箔間紙に挟まれ、縁付き箔となります。(箔打紙を簡易化し、この箔打紙ごとまとめて四角く切って出荷する断ち切りもあります。)確かにこれで四角い箔が作られることは理解出来ました。しかし、以前よりの疑問、古い金屏風作品に見られる、ただ四角い箔が規則正しく貼られただけではなく複雑な模様が現れているのは何故なのでしょう?
修復が重ねられ、結果的にこのような継ぎはぎ状態に見える様なったのか?それにしても画面全体ほとんどと言ってよい程、修復を重ねることがあるのでしょうか?さて、こんな疑問をおぼろに持っていたのですが、縁あって馬場先生と初めてお目にかかったおり(随分前の話です)、「時代金箔の作り方について」の話をお聞きする事が出来たのです。目から鱗、確かにと思える考察でした。
箔を伸ばす所までは同じです。もちろん四角に綺麗に切り取る箔もあったと思われますが、大変な労力、技術を使って伸ばした箔ならば、裁ち落としといって、砂子や泥作りなどに利用されるとはいえ、切りそろえられた余りの部分は、捨てる訳ではありませんがすこしもったいない気がします。より効率的に箔を作るのにはどうしたら良いか? 延ばされた箔に形、部分的に問題のある箇所が認められたりした場合はどうしたら良いか?伸ばされた不定形の箔を十字に切り分けます。(※十字というのは考え方の紹介として一番象徴的なケースの紹介です。場合によっては、上下二つ、左右二つといった取り方、分け方もあるかも解りません。それこそ使えそうな場所のみを切り出して、他の箔からのピースと組み合わせるといった場合、部分的に穴を塞ぐなども考えられます。しかし、この場合は、完全に余りを0にすることは出来ず、裁ち落とし部分が出来てしまいます。)
いかに無駄なく金箔を作るか?切り分けた四つをそれぞれ対角線方向に移動させます。 <※一つのイメージ、考え方の紹介です。全て四つに切り分けるという訳でもなく、また、まったく余りを出さないケースばかりというわけでは無いでしょう。伸ばされた箔の形によっては、中央で直角な角を二つ持つピース(余りが出ますが)それぞれ二つに切り取り、同様にその二つのピースを対角線方向に移動させて、四角い箔とするといった事もあったと思われます。ようはいかにしたら効率的に箔を作る事が出来るかという考察なのです。場合によってはより不定形、何枚かにまたがって使える部分のみを切り取り、重なる部分をなるべく少なくなるように部分を集めて一枚にするなんてこともあったのではないでしょうか。>
切り分けられた90度の角度を持った角が正方形のちょうど四隅に来る様に移動させると、中央部分に複雑な重なりをもった四角い箔が作られます。先に紹介したような裁ち落とし部分は出て来ません。もちろん、箔を重ねても解らないぐらいそれぞれの厚みは薄いのです。金は何時の時代も貴重品です。一枚を伸ばす労力も無駄にせず、なおかつ薄く作れるこの考察は大変理にかなった話だと思ったのです。この他、馬場先生からは、「現在作られている箔は、昔のものより厚い」といった話や、その製造の現場に関するお話もお聞きする事が出来ました。三千本膠が流通から姿を消しました。和紙、絹、筆、刷毛、箔、墨、そして絵の具も、、、日本画と一口に言いますが、素晴らしい工芸品に支えられた存在であることも事実なのです。
今年、いろいろと試した銀の硫化による表現。このおり手持ちの銀箔の中には25年ぐらい昔に手に入れた縁付きの箔がそれなりの数あって、大きな作品などに用いました。小品も含め点数を作るうち、古い箔は底をつき、終盤では現在売られている断ち切りの銀箔を使ったのです。その折感じた事に、「現在売られている箔は厚い」ということがありました。<箔は厚い方が豪華でいいんじゃないの?>と考えられる方もいらっしゃると思います。もちろん、金属としてストレートな表現なら、また作業からいっても厚い箔をドンと貼る(箔の場合「押す」とも言います)方が薄い箔を何度も重ねて押すより効率的です。しかし、何度かこのサイトでも紹介して来ましたが、薄い箔の意味というのも実はあるのです。「箔の厚みが結果にかなり大きな影響を持つ」作業の中でおぼろに感じた事だったのですが、今回、追試を試みました。上記画像、左側が薄い箔を使ったもので、右側が現在の厚い箔を使ったものです。反射の具合が異なる事が見て取れると思います。確かに微妙に位置の違いもあり、反射光の入り方も厳密に言えば違うのですが、おおむね、光り方は上記画像の様になります。薄い箔を使った方が、角度に関わらず(おそらく基底材である和紙の微妙な繊維の凹凸をそのままに近くひらうことで微妙な表面を作って)乱反射を行い明るく輝くのです。また箔が薄い事により、化学変化後のエッジ抜けもよりシャープな気がします。薄い箔の方が細かい差を出しやすいのです。
今年の「江戸にあそぶ」と題した個展紹介のおり、銀の硫化による技法紹介をしました。http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2011/072901/index.html画面で起きている硫化についての化学反応についてなど、訂正を加えています。硫黄粉が銀に直接触れて反応する場合は、主に 2 Ag+S → Ag2S ということだそうです。
薄い銀箔をガンピと楮をほぼ50%づつブレンドした和紙にノリと、膠で貼り硫化させてみた実験です。捨て膠をせず行った結果、膠による接着は大変定着が悪かったです。それに比べ、思う以上にノリによる定着はうまく行きました。
黄色い色が印象的な唐紙に薄い銀箔をノリと膠で定着させ、硫化しています。右上に明るい円形が見えますが、箔がはがれた状態のシュミレーションです。かなり明るく感じ、違和感のある結果となりました。
今回確認したかった事に、1:反応における温度の影響。2:反応時間による硫化の度合い。一日目の状態では、硫黄粉を取ろうと動かすと、銀箔表面の黒化した部分も一緒に取れ不安定な表面状態でした。薄黒い透明なフィルムが一枚かかったような状態です。二日目、反応は進行していますが、まだベースの銀が透けています。三日、硫化が落ち着き、硫黄粉に混ざる事も少なく取り除く事が出来ました。また、温度に寄る違いもあまりないように感じました。(より温度が低くなった場合はわかりません)
※<時代箔の作り方考察補足>画像では4つのピースに分けて組み合わせるケースを紹介しましたが、余りは出るけれどこうした場合もあるだろうというのを文中で紹介しています。画像化してみました。画像二番目の切り分けについては、「四角い枠の箔切り」で切り分けています。箔の伸び具合、形によっては、このように整然と二つに切り分ける事が出来ない場合や、穴のあいた部分、傷などがあったりと問題があることが考えられ、せっかく薄く打った箔ですからなるべく無駄のでない様に、何枚かをより適当な部分を選んで切り出して組み合わせるということもあったかも解りません。また、一度に四角く取る事が出来たとしても、場合に寄っては箔の薄さ、状況などを見てこのような作業が行われる事があったのかも?と思う所です。画像はクリックするとすこし大きく表示出来ます。
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