薄い銀箔と砂子蒔き
日本画と呼ばれている絵画に用いられている材料や技法の実際に触れることを目的として開催されている日本画研修会。 参加者それぞれの立場でこれら作業の結果物に普段から触れているとはいえ、かつては当たり前に身近にあったものが次々に失われる今日、実際にその材料に触れ、画家達が行ったであろう作業を試みることでより理解を深めたいという取り組みです。
今期の研修テーマの一つが、「箔に関連する表現」で、純粋な箔押しも当然試みたい所ですが、箔をあかすなど、準備に時間をとられる事もあり、まずは今回、材料、道具さえあれば割と誰にでも簡単に試みる事が出来る砂子蒔きに挑戦しました。
先ず試みたのは金砂子蒔きでした。 箔に関する説明では、用いられている金属の種類、色についてや、厚みの話をし、次にそれぞれを実際に見ていただき、触っていただいたことで、同じ金箔でも厚みの違い、色の違いがあることをいくらかは感じてもらえたのではないかと思います。 平押しに使った縁付けの4号色金箔の払い落としたものを使うのと、「切廻し」と呼ばれ、売られているより高級な(厚みのある)金箔の違いも少しは感じられたかも解りません。
私自身も今回試みた「銀砂子蒔き」では驚く体験をすることになりました。 現在売られている銀箔の厚みが、私が学生のころ売られていた銀箔よりかなり厚くなっていることは、昨年の試み(銀の硫化実験)の中で確認しました。学生の頃(30年以上昔)購入した銀箔(縁付け)のストックを持っていた事によって、最近購入した「裁ち落とし」を同時期に実際に使うことで比較出来たのです。ただし、これは純粋に箔の厚みが違うという確認で、平押しでは箔足の部分に段差が確認確認出来るといったことや、また厚みがあることで金属としての質感、特徴がより強調されるということでした。同時に丈夫で切れにくいために繊細な形に膠で貼って形付けするのが難しいなどということを感じたのです。
「箔が厚くなれば丈夫で切れにくい」確かに昨年、実感したことではありました。今回の銀砂子蒔き実習中、ほとんどの方々が問題なくうまくいく中、「蒔こうとしても箔が出てこない」ということを仰る方が現れたのです。その方が使われている竹筒をそのまま手に取り、私が試してみてもうまく行きません。わずかには出るのですが、大半は金網を張った竹筒の中で丸まってしまうのです。金網で切れて小さくなり下に落ちるはずの銀箔が、意図通りいかないのです。理由は、竹筒に入っている銀箔が厚く、丈夫なために金網に当たっても切れにくいことによるものでした。平押しした銀箔、求めた形の余り、払い落とした薄い銀箔を貯めた瓶の中に厚い現代の銀箔が混ざっていたのです。
紹介した料紙(大正〜昭和初期頃制作)に見られる銀砂子。あらためてあのような細やかな表現の為には銀箔が薄い必要があることがわかりました。 意識して厚い銀箔と薄い銀箔を蒔いて比べると、結果発色にも大きな差が感じられました。もちろん薄い銀箔の方が結果が良かったのです。蒔くおりの「開く」という言葉で表現される部分です。 薄い銀箔の意味として、重ねてもその厚みが薄い故に箔足などの部分を意識させにくいということもあります。このことは補修、修復材としての意味もあるかも解りません。また、今回の様な細かな砂子表現、繊細な使用に有用な事も確認出来ました。 先の実験で確認出来た、光の反射具合、貼付けた基底材の質感、素材感を最大限保持し、それを生かす箔。 あらためて「可能な限り薄く作る」ということに込められた美意識を感じました。※薄い「縁付けの銀箔」を購入出来るそうです。もちろん縁付けの金箔も! 問い合わせ 株式会社 中村製箔所https://nakamura-seihakusho.co.jp/
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