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     ブツポウソウの巣箱について
     「甦れ、ブッポウソウ」(ブッポウソウ保護フォーラム2006jn吉備中央町)より
     
       保護地域の環境 
 
 加茂川町は岡山県の中央に位置し,総面積は14000ha,標高150〜600m,域内を旭川支流の宇甘川,加茂川,豊岡川が流れている。総面積の70%が山林,30%が水田・畑等の典型的な農業を基盤にした町である。山林の約70%は天然林で人工林は少ない。また,山林の70%は保安林に指定されている。林相は中国山地と南部の境界で,山地の水ナツツバキ、南部の木アカガシ,カクレミノ等が自生している。谷間には標高350mくらいまで水田が発達しており,小規模ではあるが棚田が広く散在している。なお,ブッポウソウの巣箱は主に水田の畦,両側の山側斜面に立てられたNTT西目本の電柱に架設されている。 
     
 右に巣箱の外観を示す。今まで巣穴径に関してはいろいろな経緯があり、一応100mmが最適とされているが、意見の不統一、誤作の見逃しもあって、現在架設されている153個の巣箱の大部分は巣穴径70mmである。巣穴に出入りする親鳥をビデオ録画で見ると少し窮屈そうに見えるが、2/3の巣箱で営巣が確認されていおり、とくに支障はないものと考えて70mmとしている。あまり厳格に考える必要はないと考えている。
 板材厚さは,耐久性の面から,少なくとも15mmは欲しい。釘はステンレススクリュウ釘が望ましい。傷み易い前面扉・前面扉押え板を取り替えれば,10年以上の寿命が期待される。  
       架設に適した場所
 
 架設に適した場所を箇条書きにまとめると下記になる。
  a) NTT電柱(昇降用ステップのないものが望ましい),TV共同受信用電柱
  b) 既設の巣箱から300mくらい離れている
  c) 近くに水田があるほうがよい
  d) 側に木が生えている電柱は避ける
  e) 民家側(10mくらい離す)でもよいが,多数の人が出入りする施設の側は避ける
  f)  200m以内の小高いところに,ブッポウソウが巣箱を監視する場所が必要

 よく利用される巣箱と利用されない巣箱の例を,写真1と写真2に示した。民家のすぐ側でも,特定の人だけが近寄る場所であれば支障ない。たまに訪れる我々が巣箱に近付くと警戒して巣箱に近寄らない親鳥も,側の民家の人をまったく気にしていない。一言で言えば,周囲の開けたところにある高さ5m以上の柱である。林縁の立ち木に一見良さそうな場所があっても、ここに掛けた巣箱はなぜか利用されない。
 巣箱架設専用木柱は,最適場所に設置できるが,費用がかさむこと,地柱者の了解を得なければならないこと,いずれ腐食して側壊するであろううから,柱を昇降する際一柱の不安があることなどから推奨できない。
 幸い,NTT西日本は,ブッポウソウ保護に大変協力的で,巣箱架設申請を快諾してもらえるし,巣箱を架設した電柱を撤去する際は,あらかじめ通知があり,繁殖中なら,事情が許せば工事時期を変更してもらえる。木柱のような倒壊の心配もない。NTT西目本にとっては少し迷惑かもしれないが,NTT電柱は巣箱架設場所として最適である。
 TV共同受信用電柱は,その地区の管理責柱者の了解を得れば,巣縁を架設することができるが,欲を言えばもう少し高さが欲しい。
( 写真 1 ) ( 写真 2 )
       巣箱の架設およびメンテナンス
 
 柱を昇降する際には,新宮穴水登り器を柱用している。シャツトリムシのように昇降している姿を側から見ると,その機能に感心すると同時にユーモラスに感じる。2,3回低い場所で使用法を縁習すれば,初心者でも安全に作業ができる。
 架設の際,巣箱の柱置をできるだけ正確に1 : 25000 地形図にプロットしている。その後行われるメンテナンスには多くの人が関与するので,誰にでもすばやく巣箱を見つけられるようにするためである。
 メンテナンスとは言えないが,毎年7月第二日曜日に,繁殖状況調査を兼ねてブッポウソウ観察会を実施している。一部の巣箱では雛の巣立ちが始まっているが,大半の巣箱では巣立ち直前の時期で,親鳥が巣箱の周りを大きなウイングビートで飛び回り,雛に給餌している姿を見ることができる。この観察会で得られたブッポウソウに対する興味が,この後述べる巣箱掃除に大勢の人が参加する一因になっているように思う。
 巣箱掃除は,巣箱内をきれいにすることよりも,繁殖の有無確認,巣立ち雛数の推定等を行うために,毎年11月の毎土曜日に行う.153巣全数の縁除を行うために延べ作業人員は約50名に達する。縁除の際には,破損箇所の修理,必要ならば巣箱の取り替えも行い,巣箱内残留物を回収する。雛が排出するペリット・糞はすべて巣箱内に残されているので,残留物を調べることにより,いろいろなことがわかる。
 
 
 雛が排出するペリット・糞の乾燥重量は,ビデオカメラを設置した巣箱等のデータから,雛1羽当たり約100gであることがわかっているので,計量により巣立ち離散の推定ができる。さらに,未孵化卵・巣立ち前に死んだ雛も確認できる。図2に,正確な記録が残されている1995年以降の残留物の調査からわかった。ブッポウソウの繁殖状況を示す。また,図3では,1巣当たり推定巣立ち離散の分有を示す.繁殖番数は,1995年の5番から,2005年に100番まで増加した.2005年の推定巣立ち離散は385羽である。
 巣箱で営巣するのは,シジュウカラア、スズメ、ブッポウソウで,繁殖開始時期はこの順で早い。シジュウカラは生きたコケを,スズメは大量の藁や枯れ草を巣箱内に持ち込むが,ブッポウソウは巣材を使用しない。巣箱内のビデオ録画を見ると,卵は巣箱の底板の上に乗っている。したがって,巣箱内残留物を調べると,これらの鳥の巣箱利用状況がうかがえる。ブッポウソウは一番遅れて巣箱にやって来るが,すでにシジュウカラやスズメが営巣していても,まったく無視して,そこで営巣を開始する。ブッポウソウの残留物の下に,しばしば,シジュウカラやスズメの巣材・卵・雛の死骸が発見される。
 
 
 2002年に巣箱で繁殖した99番いのうち,60巣はスズメの巣,19巣はシジュウカラの巣の上で営巣した。ブッポウソウだけが営巣したのは20巣であった。同年のブッポウソウの未孵化卵は約50個あったが,大半は,スズメの巣の上に産卵した際,卵がスズメの産座に落ち込んだため,抱卵できなかったものである。産卵期であれば,卵が失われたときブッポウソウは追加産卵するので,繁殖に大きな悪影響はないと思う。今までに,次々とスズメの産座に卵が落ち込み,後日調べると10卵生んでいた例がある。さすがに,このときは営巣を放棄した。ブッポウソウの雛の死骸が見つかることはまれで,年に3羽以下である。十分な餌があることをうかがわせる。
 加茂川町のほかにも,県内2市12町村で,巣箱によるブッポウソウの保護繁殖が進められている。2002年には架設巣箱31巣の内16巣で繁殖が確認されている。このほかに放置された木製電柱3個所で繁殖が確認されている。巣箱利用率は加茂川町と大差なく,巣箱を設置すれば繁殖できる場所が広範囲に残っていることがわかる。
   
 
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