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11/6//2008  材料技法

絹枠に絵絹を張る 絵絹について(その3)

■ 絵絹を使った制作では、あらかじめ裏箔を施した絹を屏風に仕立てて屏風の状態で描いたり、裏打ちをした絹を紙と同じようにパネルに袋ばりして(現在の紙への制作と同じように)描いたりすることも可能ですが、やはり絹なりの特性を知るためにも、枠に張って描くことを一度はやってみることをおすすめします。
 
薄美濃紙に描いた線描
>> 薄美濃紙に描いた線描 (29.44KB)

絹や薄い紙を使用した制作で一番のメリットと思われるのは下にした図を透かした状態で線書き等が可能な事です。

下から透かした下図はあくまでガイドとして、新たな線を緊張感を持って引く事が出来るのです。
また、大下図制作の作業で、薄い紙を使って線を吟味する作業は、トレースをする度に、下図の洗練度を増して行くように思います。
かっての線を生かした絵画のあり方の根底にある要素ではないかと思っています。

 
絹枠と絵絹
>> 絹枠と絵絹 (24.24KB)

絹枠を準備するときの大きさについては、絵絹について(その1)で書きました。縮むことを計算して縦方向は大きく余裕を持たせるのです。

絹の使い方は、巻いてある状態を広げて上下です。掛け軸を考えてもらえると良いと思います。

画像では、絹は上下に置かれています。(この方向で描くということです。)

 
絹枠角拡大
>> 絹枠角拡大 (16.46KB)

大作や、自分なりの大きさの絵を描こうとすると、絹枠を自分で作る必要があります。

すでに書きましたが、縦方向、上下に絹は強く縮みますから、絵を描くとき、絵の具をつければつけるほど(塗った膠が増えれば)その縮もうとする力は増します。

縦の柱になる木を上下の木で挟むように作った方が強度が出ます。

参考)30号とか50号、たたみ一枚程度の大きさの絵を描こうとするとき、絹枠をどのように確保するかですが、一番、安価に出来るのはホームセンターの規格材、2×4材を柱にし、2×2材を上下に使って、止めはネジ穴を開けた後、コーススレッドで止める事です。75mm程度の長さを使いましょう。

少々重いという欠点もありますが、大作を絹枠のまま展示するという手法も考えられますね。(このようにして展示したことがあります。透過光もあって面白い、質感を見せられます)

90cm弱×180cmの大きさを描くためには幅3尺の絹を使う事になりますが、このときは当然、180cmの方が強く縮みますから、柱と天地の関係を良く考えて作りましょう。

※、最終的な作品保管で屏風にするとか、パネルにする場合、表具がさけて通れません。この場合、個人でやるのはかなり大変な作業です。気心の知れた?表具屋さんを作る事をお勧めします。

 
生麩糊の準備
>> 生麩糊の準備 (33.03KB)

絹を木で出来た枠に張る場合、昔から、生麩糊が使われてきました。
適度な強度があること、水をつけてはがしやすいなど、使い勝手のよさからかと思います。

表具材料店ではパックされた商品を売っています。約一袋100円程度です。なお、薬局で粉の状態(小麦粉のでんぷん質から作ったもの、障子の張り替えなどで使われます。)でかっては売っていましたが、現在は購入が難しいかもわかりませんね。

絹枠に張る時は糊はやや強め(水分量が多すぎないもの)を使います。そうしないと、糊の水分を絹が吸って暴れ、張るのに時間がかかってしまうのです。

 
実際に糊を塗る
>> 実際に糊を塗る (43.66KB)

糊刷毛を使ってまずきぬ枠に糊をつけます。
この作業をする前に、木を良く絞った雑巾で拭くなど、汚れ落しと適度な水分を枠に与えることが後の作業をしやすくします。

初めて使う絹枠などは特にこの点、注意しましょう。
糊の付きが悪かったり、水分を必要以上に絹枠にとられると、やはり、絹を張ることが困難になります。

ただし、それほど神経質になることもありません。ちゃんと張る事ができればよいのです。

なお、別に手で塗ってもかまいませんが、大きな絹枠になると、手で塗る事をあきらめたくなります。塗り終わる事には、最初に塗ったところが乾きかけていたりするのです。

 
絹を張る時、心棒を使うと張りやすい
>> 絹を張る時、心棒を使うと張りやすい (32.06KB)

絹を張る時、心棒を使うと幅の広い絹の場合も張りやすくなります。どうしても自重で中央付近が撓むのですが、なるべくしわを作らず、伸ばした状態で張りたいので、こうした段取りも重要です。

ただし、6号程度ならば巻いた絹だけでも十分です。

 
実際に枠につける
>> 実際に枠につける (23.33KB)

はじまりを上方の枠に仮に止める。

このとき大きな作品の場合は画鋲等で木枠にかり止めしておくと良いでしょう。

ゆっくりと、縦糸が絹枠の柱と平行になるように、横糸もきちんと交差するように糸目をまっすぐなるように仮につけて行きます。

 
絹の上から糊の着いた部分を強く押さえ、擦ることで、しっかりと着ける。
>> 絹の上から糊の着いた部分を強く押さえ、擦ることで、しっかりと着ける。 (21.53KB)

なるべくしわやツレが出来ないよう、糸の縦横の筋が通るように手で糊しろになっている部分、絹めをはみ出してきた糊をのばして押さえつけます。

 
竹べらを使って押さえても良い。
>> 竹べらを使って押さえても良い。 (22.21KB)

手では力がかけられない場合、竹べら、彫刻用のツゲのへらなどで押さえる事も可能です。

 
絹枠に出来たツレ
>> 絹枠に出来たツレ (20.84KB)

絹に慣れていない時、もしくは伸縮が大きい絹の場合、枠に張った時、四隅とか、四辺にツレが出来てしまうことがあります。

このツレに神経質になりすぎる方もいらっしゃいますが、後で引くドーサ液によって多くの場合はピンと伸ばす事が出来ます。

一番大切なのは、しっかりと絹枠に絹を付ける事です。この付きが甘いと、ドーサを引いたり、絵の具の膠が増えたときに張力によって絹を枠からはがしてしまう事があるのです。

なお、製作中は、マスキングテープなどで被い、枠の糊の着いた部分は濡らさないようにしてください。はがれやすくなります。

 
参考画像
>> 参考画像 (21.54KB)

絹枠に絹を張ってからドーサを引くまでに、糊が完全に乾く一日は開けましょう。

左画像は、地塗りの終わった段階の絵サンプルです。


枠に張って描くメリットは透かして下図がトレース出来たり、裏彩色だけではありません。個人的により重要だと考えるのは画面の物理的な柔らかさです。

この話はまた別の機会に。

 
参考画像 佐藤美術館で行う講演会の為に、効果を見てもらうために裏彩色、裏箔、染め付けた肌裏を一枚にまとめた効果サンプルを作りました。これは裏からみたところです。
>> 参考画像 佐藤美術館で行う講演会の為に、効果を見てもらうために裏彩色、裏箔、染め付けた肌裏を一枚にまとめた効果サンプルを作りました。これは裏からみたところです。 (52.88KB)

絹の裏彩色 近年、若冲の動植綵絵に使われていたことが修復で確認され話題となっています。また、肌裏に張られた裏打ち紙に濃灰色に染め付けた紙を使ってあることが研究者によって公開されています。

裏彩色の件では裏箔(金箔)と思われていた部分が黄土をベースにした絵の具であったことが明らかになりましたが、いまから20年以上前、私自身が絹に描く事を試み始めた頃、表具をされる方から、裏箔が表具のおり定着が難しいこと、また、私が絵の堅さをとるために裏彩色を試みているのを見て、このような場合は染め付けた肌裏を使うのが表具師の腕なので、絵描きが絵の具で(不安定な)裏からの彩色をしない方がよいといったことを教えられました。

こうした技術の共有が果たして今行われているかどうか?、ちょっとそんなことを思いました。