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3/11//2009  「無い」から始める日本画講座

制作の下ごしらえ・準備と下図作成

■ 一般的な制作の準備、流れの紹介と、今日的なテクノロジであるデジカメやパソコンを使った下図作成支援の方法を紹介、実際の講座の進行他、何故このようなコンセプトで講座を立ち上げようとしているのかなど。

制作の下ごしらえ・準備と下図作成

※一般的な制作の始まりでは、スケッチや写生をした結果がそのまま制作意欲を刺激してと言う場合(Aから始まる)と、経験の中から、何らかの構想が先に生まれてという場合(Bから始まる)があるように思います。
後者の場合はその後、Aを行うことで具体性を増すのですが、たとえAから始まったとしても、写生・スケッチそのままではまだ下図とはいえません。いかに下図と呼べる物に育てていくかも重要な学ぶ要素です。

 

絵の具を使う前にすること。その1

絵を描く時、思いのままに絵筆をとって即座に描きだしてよい場合もあるとは思いますが、使用する画材によっては、計画性を求められる場合もあります。
長い歴史の中で、絵を描く技術も蓄積され、画材、その用法がそれぞれ出来上がって来ました。また、新しい素材、画材が生まれたときには、またその用法が開発されます。コンピュータを使った制作は、その意味で比較的新しいものに入るでしょう。

今回、使用する和紙や絹、そして天然岩絵の具は、絵を描く材料がいろいろと選べる現在でも昔と同じように高価で貴重な材料です。一概に勢いに任せた制作を否定するわけではありませんが、この貴重な材料をこれまでどのように使いこなしてきたかのかを一度は歴史に学ぶことも有意義な事に違いありません。その中に「伝統」と呼べるような何かを見つけだせたらと思うのです。また、今日的な道具であるデジタルカメラ、パソコン、プリンター、コピー機なども利用の方法を見つけたいと思います。

1,「線」を使った制作

この国の絵画を考える上で、成立が文字を書くことにあった筆を主要な道具として使う以上、「線」は、重要な位置を占めると思われます。線にこだわって、制作を考えてみたいと思います。

<2.下図>は「線」によるものを作成します。

※、一般的には様々な下図までの道のりが考えられますが、今回は、Aから始まるタイプを例題として、作成します。


一般的な下図作成の流れと今日的な制作補助のアイデア

スケッチ1.

スケッチ2

写真などの資料画像
 

1.A 具体的な資料準備の段階です。
左画像(スケッチ1.スケッチ2.)は一般的なスケッチです。折に触れ、気にとまった何かしらを描いておく必然性についてはあらためて何かを言う必要も無いでしょう。

注意するのは、
1.正確に形(バランス)を捉えようと意識すること。
2.何が気になったのか、注目したのは何かを確かめながら描くこと。
  (注目した色なども描き止めておくと制作の時の手がかりになります。)
3.線を使って描く対象を捉えようとこころみること。

最終的な目標が「線」を生かした古典的な描法ですから、スケッチの段階から、線を意識する必要があります。

描いたまま、最低限の変更で下図にすることが可能な場合もあると思いますが、一般的には、スケッチはあくまで「仕込み」です。対象物をどのように見ているか、理解しているかを確かめながら描く視線が望まれます。

牡丹を描いたスケッチ1.では、蕾(角度様々)、花(正面、横から、斜めから)、葉の付き方、枝分かれ、地面からの生え方など、パーツ毎に資料化して写生しています。

竹を描いたスケッチ2.では節の部分から出る葉の部分の分枝、もしくは節の様子、葉の具体的な付き方、間隔などをメモ書きとともに行っています。

この段階では、どのように対象を自分が見て理解したのか?という視点が重要です。

デジカメ(デジタルカメラ)の使い勝手もよくなり、取材に十分利用可能となりました。スナップ程度の資料が良い場合もありますが、花などは、細部、バランス、構図なども含めて撮影出来る場合もあります。この時、カメラの操作で、絞りやズームが使いこなせると、背景を暈かして主題だけを写すといったことが可能になります。このように出来るメリットは後述します。

現在では拡大縮小の出来るコピー機も一般的になり、パソコンのプリンターとして一般家庭に入って来ました。コピー台に乗せられるもの、花など、たとえば水仙、ツユクサなどは、スキャナーの上で構図を決めてそのままコピーしてしまうことで、簡易な下図として使用可能なものも作ることが可能です。

このほか、現在ではパソコンの能力も高まり3DCGのアプリケーションも使い勝手が良くなっています。描きたい花の基本的な姿をCADを使って作り、構図や見る視線を自由にすることや、色彩のシミュレーションに使うことも可能です。

※、便利なテクノロジーを使う手法を紹介していますが、人間の目、手を使うこと、また筆、鉛筆といった道具が経験によって、描く形、線を生き生きとさせてくれることも無視できない重要な要素であるということは忘れないでください。

 


ラフスケッチ

アイデア・スケッチ

小下図

1.B イメージを具体的なものに変えます。
経験を積んでくると、次は牡丹を描きたいとか、人物を描きたいとかといった構想からスタートする場合も出てきます。また、ある場合は、画面のサイズ、形が先に決まる場合もありますね。

このような場合、闇雲に具体的な大きさに取り組むよりも、どのような画面構成、バランス、狙いであるかなどを10分の1程度の大きさにラフスケッチなどしてイメージを固めておくと、後の作業がしやすくなります。
アイデアスケッチ、小下図と呼ぶものです。

この段階では、細部よりも全体のバランス、構図、構成を考えることが最も大切な事です。

描きたいと思う具体的なスケッチがある場合でも実際に描く画面での構図、構成をもう一度確かめることは重要な事です。

実際の画面では幾つぐらいの花が必要になるのか、一つ当たりの適当な大きさはどうか、どんな向きの花が必要なのか、色はどうするのか、手持ちのスケッチだけで足りるのか、大きさのバランスは?といった確認作業を進め、手持ちに足りない要素があれば、もう一度スケッチするとか、計画を変更するとか、具体的に必要になる準備をします。

構図の基本(別項に作成予定)

 

最初に計画したスケッチが実際に描きこんでみるとピッタリとこない場合、置き換え可能な何枚かの候補を作って実際に換えて見ることもこの段階では重要な作業となります。

※パソコンの画像処理アプリケーション(ソフトを使った下図支援の方法)

元画像サンプル

画像処理ソフト、たとえば
PhotoshopElements etc
1.上記の元画像を開く
2.フィルタ>表現手法>輪郭検出
色情報の残った線が抽出出来ます
3.イメージ>モード>グレイスケール
白黒の右画像が出来上がります


ポイントは、使用するデジカメ画像を主題となる対象以外は暈けた画像とすることです(極端なコントラストを持たない背景にする)。これは、このフィルタのアルゴリズムに関する特徴です。

巧く使えば大変有効な手法になるでしょう。

※色彩についても、また形のデフォルメ、表現手法としても今日ではパソコンを使う事が可能です。ただし、だからこそ、プリミティブな材料、作業の意味が大きな時代だと思うのです。

 

2.下図作成
小下図を手がかりに、スケッチや用意した写真資料を使って実際の大きさに描き始めます。花を描く場合、その花を分解したときに花びら一枚の大きさや、それがどのように付いているのかなどを考えながら描くことで、スケッチ時に吟味が足りなかった要素をより洗練した形に変えて描きます。

スケッチを下にひいて、トレーシングペーパーで必要とされる形を取り出し、部品としたり、描く中でその形を変更したりします。描くときに描きやすい形に変更することも下図を作る上で重要な要素です。 


※デジカメ画像から作った線画サンプル

組み合わせを部品として切り張りし、実際に変更して見る

※この最終段階までに部品を作るなど同じ形を何度もトレースすることになりますが、たとえ使うのが鉛筆であったとしても、この作業が形に対する神経をとぎすましたり、実際に美しい線を考える具体的作業になります。もちろん昔の方はこれを墨、筆を使って行ったわけですから、その修練たるや凄まじいものでしょう。

最終的にトレーシングペーパーに全体を写して下図を完成させます。

重要!このおり、
1.線が同じリズムにならないように、意味のない平行線を作らない
2.三つの線が一カ所に集まるような場所を作らない
3.花びらと蕾とか、葉と茎とか、線で接する、もしくは点で接する箇所を作らない。(わかりにくい要素を作らない)
4.それぞれの奥行きがわかりやすくなるように大胆に重ねる
5.それぞれ単調な線にならないように配慮する
上記のようなことに気をつけます。

下図の完成です。

絹、もしくは薄い和紙は、下に轢いてそれを透かして形、線を描くことが出来ます。

下図の作成で何度も行われたこの作業こそが「線」の洗練に重要な意味を持っていたことが経験を積むとわかって来るでしょう。

制作のプロセスの中に「線」を洗練させる作業が自然とあったのです。

※いかに線を引くか?については、骨描きの貢で触れます。


講座の進め方


  池田遙邨スケッチより

※コラム 粉本、臨模について
昔、狩野派という画の流派がありました。15世紀に始まり、昭和の初期頃まで、ある意味で強い影響力をもっていたように思います。いわゆる画塾と言う形をとって継承が行われたのですが、その学習方法を代表するものに粉本、臨模がありました。
簡単に言ってしまえば、学習のそれぞれの段階で、あらかじめ用意されたお手本をいかに巧く真似られるかという勉強方法です。試みる誰もがお手本と比べることでその習熟を各自で確認出来るシステム。それぞれのレベルに応じて実技、価値観を学習するカリキュラム、具体的な手法があったのです。

個性の時代と言われ、どうしても真似をするといったことが一般的にネガティブに捉えられる今日ですが、歴史のある何かを学ぶ上で大変有効な方法であったと思われます。形による継承は、たとえ言語化出来ないことであったとしても、その作業を実際に行うことで発見出来たり、身体を通して実感として知ることが出来るからです。
逆に、このような作業の中から何かしらを自ら発見出来るくらいでなくては絵描きになど成れなかったわけで、それ以外の多くは、真似の可能なレベル、理解できる程度に応じて、広く社会の中で鑑賞者や、発注者、価値観を共有できる人となったのです。
学習方法が簡易であるからこそ社会環境まで含めて、効率良く維持するシステムだったと思われます。

共通の価値観を失いなんでもあり、わかる人だけわかるといった社会のあり方は、和紙、絹、筆といった素材、画材の販売にまで影響を及ぼし、結果的にその事業を継続できない状況を生むことになったりします。

表現の上でも、伝承が求められる具体的要素の確認が出来ず、教育が行いにくくなったことから、社会自体が価値観を共有することがむずかしくなり、ひいてはパトロン、また消費自体がなくなり、結果的に継承が難しくなるといったことがおきているのです。

「伝統教育」という言葉を聞くようになりました。この粉本、臨模というシンプルな学習方法を今日的な姿で再び機能させる事ができれば、学び始めた多くの方々に、伝統と呼びたい何らかの価値観との出会いを支援し、それを共有する有効な手法となると思い取り組んでいるのです。

 

倉敷市立美術館での講座では、いわゆるデッサン、写生、スケッチの習熟についての部分はあえて多くを触れずに講座をすすめたいと思います。なぜなら、これらは日本画のみならず、絵画全般の要素であるからです。このテーマと本気で向き合えば、今回の講座全ての時間を使っても足りないでしょう。限られた時間を有効に使って、材料、技法に注力した講座としたいと思います。

デッサンの部分を省略するといっても、昔、行われていたような直接的な※粉本を使用することはせず、もう一段階作業を増やすことで、実際の制作に必要とされるデッサン、写生についての理解を深めたいと思っています。


講座生全員、美術館所蔵の池田遙邨スケッチ、写生を課題として使います。遙邨は最初西洋画から絵を始め、デッサンも非常に巧い方です。
このスケッチを遙邨がどのように考えながら行ったか、また、スケッチからどのようにして下図に加工するかなど学びます。

具体的な下図作成については、上段の一般的な制作の貢を参考にしてください。



付録・デジタル機器を使った下図作成支援

牡丹
水仙

 

絵を描き始める動機は人それぞれですが、描き上げた絵、結果に対して、だれかに認めてもらえることがあれば嬉しいのは事実でしょう。絵の勉強を始めるにあたって、自己満足だけではないあり方を学ぶということは十分な動機付けとなるように思います。

絵を描くステップそれぞれ、難しく感じる対象というのは、たとえば「形がうまく描けない」、とか「色が巧く塗れない」、「色彩感覚に自信が無い」などありますね。この中でも「形が巧く描けない」は、デッサンと呼ばれる要素にあたります。

先に画像処理アプリケーション、ソフトのフィルタを使った輪郭抽出を紹介しました。(この貢、中盤あたり)

今日的なテクノロジを使ったいくつかの支援方法を紹介します。

1.左画像「牡丹」は、デジカメで撮影した画像から一部をトリミングしたものです。一度、パソコンに取り込んでしまえば、大きさの変更やこうしたトリミングは簡単に出来ますね。
画像処理ソフトを使わずとも、画像をプリントアウトし、まずトレーシングペーパーで花びらの輪郭や葉の輪郭を写し取って線画にしたあと、コピー機を使って必要な大きさに拡大縮小して下図のもと、パーツになるものを作ったり、より大きな画面では、プロジェクターを使って描きたい画像をそのまま画面に映し出して、当たり(大まかなバランスを決めるしるし)をつけたり出来ます。

この時、パソコンを使えば、トレースしやすい、輪郭線がわかりやすいように画像のコントラストを上げたり、余計な物を消すことも可能です。

2.左画像は、水仙をそのままスキャナに乗せスキャンした画像です。構図を考えて配置すれば、そのまま使うことは難しいにしろ、下図作成で十分参考に出来る資料が作れます。背景については白い布などをふんわりとかけると余計な物が写らず良いでしょう。

上記、水仙画像を作った様子です。>

※現在の安価なスキャナはCISという方式になり、ピントの合う範囲が狭くなりました。昔のCCDを使った方式のものはよりピントの合う範囲が広く、こうした用途に向いています。(ピッタリと押しつけなくても、ある程度浮いている部分までピントが合います。)
このままコピーすれば、右下、グレイスケールのような画像を作ることが可能です。(プリントアウトした物です。)
コピー時、もしくはスキャンする時に、スキャナに乗せた水仙の上から白い布、もしくは画用紙などを水仙が潰れないように置けば、背景をある程度白く取り込んだり、印刷可能です。

 

※コラム アートとテクノロジ
右コピー画像も実物を見ていただければわかるのですが、単純なコピーながらなかなか風情のある表情を見せてくれています。このままでも十分作品と呼べる何かを感じます。

昔々、アートの世界でコピー機が普及を始めた頃、コピーを使った作品作りが流行しました。もちろんアナログですから、コピーのコピーを取ることによって劣化をテーマとした作品もありました。システムがデジタルとなった今は、ある意味で違った結果を生む要素を任意に加えないと新しいおもしろさは見つけにくいでしょう。

写真の印画紙にも水彩絵の具などと相性の良いものがありました。コピーや白黒の写真をそうした紙に写し取り、それにドローイングを加えて作品化することも頻繁に行われたのです。

パソコンの画像処理ソフトに見られるフィルターの発想は、絵画表現に対するプログラマの理解を表したものであったりします。またその概念を進めてプログラム自体の中に表現を見つけた方も出てきたのです。