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7/8//2009  レポート

日本画実習法 第二編 材料 その1

■ 川合玉堂の著した「日本画實習法」はたして「日本画」の何が変わって、何が変わっていないのか。気になる部分を備忘録がてら感想など。その2
  

第二編 材料   小見出しと要約

一、絵具とその用法

■<絵具の種類>
日本画を描くからといって必ず日本画の絵具で描かねばならないと決まってはいない。洋画用の絵具(油絵具も!)、テンペラ絵具、水絵具もよい。
水彩絵具はその使い方において特に共通性が高いが、胡粉との相性が悪く、変色の恐れが有るので注意すること。それに比べれば、顔彩は安定だ。いくつかの例外はあるが、日本画の絵具は基本的に鉱物の粉末であることを肝にめいじておく必要が有る。

■<胡粉>
純白色の絵具で、玉の形のもの、板の形のもの、粉末とがある。
玉の形のものは駄物で、粉末の上等が使いよい。粗密をもとに一號二號三號という種別があるが、なるべく細かいのがよい。
他に纒胡粉というもっとも下等なものもあるが使用に耐えない。しかし、製し方によっては絹にも使えるものと出来る。

■<胡粉の使用法>
日本画は胡粉が主でかくものである。だから、胡粉の使用法をもっとも巧みに知る必要がある。

何故これほど胡粉の溶き方のことを重要視するかと言うと、古い時代、胡粉の質が悪く、巧く使う為には技術が必要だったからだ。胡粉の質が良くなったとはいえ、それは今も変わらない。

粒状のもの、(支那製の)板になっているもの、粉末になっているもの、どれを使うのしても、重要なのは乳鉢で丹念に摺る事である。その時間は少なくとも1時間〜3時間。
昔のある大家の秘本には、「胡粉をする二三時」とあるが、それは今の6時間ほどである。
胡粉は摺る事が多ければ多いほど光沢を出す。少なくとも一二時間は今でも費やすべきだ。

■<絵の具の練り方>
摺りあげた胡粉に膠水をやや濃く加えて練る。それに水を少しずつ加えながら団子状にまとめる。
(基本的にはいわゆる狩野派の技法、団子、100たたき、火にかけてのアク抜きの説明、膠の濃度コントロールの部分が少し違うくらい)

■<乳鉢>
乳鉢に練り上がった胡粉を入れ、ぎりぎりの水に浸す。そのまま火にかける。温度が上がるにつれ、回りから崩れ始め、亀裂が生じて来たら、竹串などで刺してみて、通ったら、火から下ろし水を捨て、加えて湿り気を紙、布などで吸い取る。
これに少量の膠水を加え摺り続け、ドロドロになったら蓋をし、使用する度に必要な分量を皿に取り出して使う。
使う時には、水を適量加え、薄めて使う。

■<膠水>
腐敗しやすいため、初夏から初秋までは沢山つくらないほうがよい。
腐敗したものは求められる接着の効果が無い。特に夏は毎日使用する分だけ胡粉を練らねばならない。

■<特製の胡粉>
しかし!最近はこのような面倒なことをしなくてよくなった。
精製し粉末になった胡粉がそれで、これはただ膠水さえ加えればすぐに使う事が出来る。

これを溶くには、適量を絵具皿にとり、膠水を少しずつ加えては指先で練ることを数回繰り返し、ドロドロになったら少量の水を加えて固まらないようにする。

面倒な、もしくは粗悪な胡粉を使いこなすことは、胡粉に対する知識の習得のみならず、絵具に対する理解を深める為でもある。

(以下、本ではそれぞれの絵具について見極め方、溶き方、使用法の説明がそれぞれ説明されている。)

■<紺青>
これは濃紺色で、粉末にし膠水で溶いて用いる。
適量を皿に取り、膠水を加えては練ることを繰り返し、膠水が絵具に被さるぐらいまで加えたらそれに少量の水を加え、膠水に沈んでいる色を筆で掬うようにとって塗る。
砂状であり、彩色は難しくむらが出来やすいのでかならず下塗りが必要だ。
■<群青>
使い方は紺青と同じ、偽物(ガラスを使ったものなど)があったり、工業用などもあるが、日本画用と呼ばれるそれは天と地ほどちがうものだから、この違いがわかる必要がある。
■<黒群青>
■<薄群青>
■<白群青>
ここまで紺青の説明に準ずる


■<緑青>
群青と基本的に同じ。輸入品に色鮮やかなものがあるが、本当の緑青は輸入品の様に冴えた色ではなく、優雅な色である。普通は白2番、小3番を使う(おそらく粒子の細かい番手を言っていると思われる)。輸入品は特に花緑青とも言う。
■<白緑青>
俗に白録という。花鳥、山水、人物にも多く使う。
胡粉のように溶く。砂状ではないので、膠を多くする必要は無い。
■<茶緑青>
■<黄緑青>
色味の違いのみ、使い方は紺青と同じ。


■<黄土>
暗黄色、粉末。胡粉の用に溶く。使いにくい絵具である。単色で塗るとむらが出来やすい。一度出来たむらは繰り返し塗っても直らない。多くの画家はだから使わず、代用品、胡粉に岱赦をすりまぜ、雌黄を加えて造る。本物より良い色である。
■<岱赦>
棒状になったもの墨のような角形に固めたものがある。
絵具皿で墨の用に摺って使う。
摺りだしはむらが出来るので、皿を一度火にあて乾かしたあと、再び溶くとよい。粉末状のものもある。
■<朱>
胡粉に次いで使われる代表的な絵具。
印刷局製の朱(工業用)のものもあって使う画家がいるが、鮮やかではあるが、下品だ。
■<洋紅>
棒状、墨状がある。岱赦の使い方と同じ。粉末状もある。
■<朱土>
朱の鈍い色。朱と同じように使う。朱に墨を混ぜて代用することがる。使いにくい絵具。
■<黄臙脂>
淡紫色、優雅な色。着色が難しく斑が出来やすい。隈取りが出来ないぐらい伸びが悪い。筆が染まる。小さな部分にしか使えない。
■<丹砂>
酸化し黒くなる。朱に黄を混ぜて使ったほうがよい。
■<猩臙脂(しょうえんじ・このサイトで紹介した綿臙脂)>
多くの場合は洋紅で代用するが、この色ならではの場合もあるので備えておく必要が有る。(使用法は「綿臙脂」記事を参照してください。)面度な溶き方は含まれる多量のミョウバンを取り除く為である。
■<雌黄>
大変多く使われる。皿に擦り付け、水に溶かして使う。(ガンボージ?)
■<藍>
大変多く使われる。棒状が良い。
墨の用に絵具皿に一度すりだし、それを乾かした後、水で溶いて使う。
■<水晶末>
水晶の粉末も有るがガラスを砕いたものもある。胡粉よりは落ち着いた色となる。使い方は岩絵具と同じ。
波頭の白く盛り上がったような部分ではもっとも有効だ。
■<珊瑚朱>
淡赤色、紺青と使い方は同じ
■<瑠璃末>
より淡い赤色、紺青と使い方は同じ。
■<金泥>
少量ずつ膠水を加えて、摺れば摺るだけ艶が出る。膠の量は群青などよりも多い。
■<銀泥>
使い方は金泥と同じ。
■<その他の絵具>
淡彩では、水絵具を基本として使い、加えて白録、朱の上澄みなどを用いる。砂状の群青、緑青を使うのは極彩色であり、こうした場合、そのまま絹、紙に用いる事はせず、必ず下塗りをする。
(砂状の群青、緑青といった)高価な絵具を下塗りをせず使って台無しにしないためにも、淡彩の繪には水絵具を多くつかう。


※ここまで18ページ、このあと「下塗り法」についての説明となる。ここからは次回紹介予定。
それぞれの絵具の使い方は今も基本的に同じ。胡粉が基本となる絵具であると言い切っているところが注目される。絵具の紹介で、その使用量などにも触れており、当時の描き方の幅がある程度固定されていたことがわかる。また、ある種の色を「下品」と言ったり,高価な絵具であるからその使い方を気をつけるといった部分などに昔聞いた、「絵は品が重要」という言葉を思い出す。