日本画実習法 第二編 材料 その3
■<筆の種類>一、線描筆 二、面相筆 三、附立筆 四、隈取筆 五、彩色筆筆は様々である、一般的に日本画用の筆の軸は、水筆すなわち書筆よりもやや長く、その体裁も異なる。<線描筆>骨描筆、普通の水筆より穂が少し長い流派によって毛並みの強いのを好むところと柔らかいのを好むところがある。最初にそろえるとしたら大中小、各一本。<面相筆>顔面を描くのに使う。線描筆が輪郭を主体とした用途なら、面相はより細かい部分も描くのに使う。書筆の眞書のようだが、それよりも穂が倍長く、硬い毛のものも一部あるが、多くは柔らかい毛を用いている。<附立筆>線描筆より毛が柔らかく、ふくらみが大きい。また軸は二重になっている。四篠派や文人画でよく使われる。蘭筆、円山筆とも呼ばれる。<隈取筆>俗称、姿から椎の実(ドングリの形)筆とも呼ばれる。片ぼかしなど、一本に墨、もう一本に水をつけて暈かし、濃淡を作り出す。<彩色筆>一番多く使う筆である。東京製と京都製では特質や感じが異なる。大中小二組程度は揃えたい。<衣紋描筆>面相をより細く、短くした筆。使われる事は少ない。版下絵を描く人が好んで使う。<刷毛類>絵刷毛は穂先が刃物のように薄く尖っている。繪刷毛の柄は細く、絵筆の軸と同様の長さ、墨汚れへの対策として漆塗りされているものがある。大きさは様々有るが、練習用としては一二寸程度を二本程度そろえるとよい。毛は鹿毛が多く、角が平たくなったのと丸いの(丸刷毛)とがある。毛の長さ、硬さも様々であり、かすれた表現用に硬毛があり、俗に南画が使う蘭刷毛がある。<特殊の筆>連筆、地隈を取るのにもってこいのもので、刷毛のように使う事が出来る。文人画、四篠派が主に使ったが、便利なので今では多くが使う。平、片歯(斜めになったもの)がある。<その他の用筆>水絵筆(水彩筆?)や油絵筆のような平筆が近頃(昭和2年頃)ある。錆び、掠れが面白く描けるので使われる。と、、、いろいろとあるが、連筆の大中小を備えておけば事足りる。ただし、古来から言われているように、絵を描く以上、筆を選ばないとは言えない。誰もが相応の筆を選択する事によって自分の思うような絵を描く事が出来るのだから、代用品で間に合わせるということは良く無い。しっかりとしたものを選ぶべきだ。刷毛、筆の使った後は丁寧に洗ってしまうこと。一本の毛でも隈取りのなかに抜け落ちたら、そこに墨汁や絵具が集まり斑となる。その毛をとっても直す事が出来ず,消そうとするとかえって目立つ。<筆洗><墨類>墨は日本画を描くのにもっとも重要であり、極彩色の絵以外では、この色が絵の大部分をしめ、絵全体を支配する。良い墨を使おうとすることは当然だが、練習中はそう高い値段のものを使わなくても良い。そう悪くない(普通の人が書を書くよりもよいものを)のを使えばよい。素人は自分で判断出来ないのだから、外見で決めるのではなく、信用出来る店から一丁一円程度(貨幣価値を現在に対応させれば約5000円〜10000円程度となるとか、、)のものを買って使うこと。日本では上物は油煙からとり、中以下は松煙からとる。産地により、和墨、唐墨となる。<和墨>日本製、奈良産を最上とする。膠が多く入りすぎているため、保存には良いが、伸びが悪く、色合いなども唐墨に劣る。<唐墨>支那からくるもので、和墨に比べると質もよく、絹、紙に着けると奥ゆかしい色を出す。墨の頭に香煙、貢煙と印したものは最優良の墨である。膠が多く入りすぎ黒光りをする墨は下品だから使わない事。<硯類>各硯の紹介、とにかく後始末をちゃんとするようにという注意。<書架(イーゼル)>離れて全体の調子を見るのに使う。<枠>絹枠の説明<渡し板>大きな絵を描く時、絹など絵の上に乗って描けないので橋のように板を空中に渡して描くもの。乗板<仮張>ドーサ引きした紙に絵を描く時、塗った水分によって紙が波打ち筆の運びを妨げないようにするため用紙を水張りしておくために使うもの。 枠、板に紙張りし、それに渋を塗る。<廣盆>道具をいれもって運ぶもの<羽箒>木炭で書いた後、欠き落とすもの。<スケッチ・ブック><木炭>西洋画のものに比べ細く、下書きに適したものである。※ここまで38ページ。筆の説明、墨の説明の中に、日本画を描く時の価値観として何を重用としていたかが現れているように思う。また、筆や墨、硯、もちろん、紙や絹など、材料、道具は、技術とともにそのおりおりの価値観の表現、記憶であるとあらためて思った。現在、一般に求められるこれらのものが、形こそ変わらないように見えても、いざ使おうとするとき、大きく変化しているのを感じる事がある。(昔の絵描きと)同じ事を、今試みようとする時、その違いに気づく事できる。同じ事をすれば違いだけが見えてくる。材料編はここまで、次からは一般画法について。
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第二編 材料 三、筆、墨、画帳等 小見出しと要約