日本画実習法 第五編 花卉鳥獣の描法 二、花の写生法
<花の描き方>「花」という画題は昔より描かれて来ており、また鑑賞者も多く、日本画の画題としてふさわしい。バラの花を描くとして、実物には線は無いが、日本画はそれを線によって描く。線を用いずに描く画法も有るが、これを没骨法という。<写生の準備>バラを描こうとした時、まずそのバラを設置する場所について(よいと思われる自分との)距離、高低を決める。次にその格好を見る。格好とは対象物の姿勢である。この姿勢によって美しい、汚い、描きやすい、描きにくいといったことが決まるのだから、絵になるようにおかねばならない。一本の花なら、花を自分に向け、葉も裏葉が見えていないように注意する。花瓣(かべん)は、(見た人間が)美しいと感じるような表現をもって、もっとも柔らかい線によって爽やかに描かねばならない。バラは特に細い線で描き、葉と茎とは花よりも強い感じとなるように描く。描く順序は、花から描き、ついで茎、そしてその後に葉を一枚一枚書く。葉は左側から右側へと描く。<バラの着色>以上で、バラの輪郭が線で出来たが、これでは絵として何の価値もないが、これに着色する事でその真価が発揮される。着色は描いたそのものの色で行うものであるが、ここでは一般的な色彩を説明する。一番に花の色の調合:洋紅に雌黄を溶いてまぜる。まず棒絵の具の洋紅を絵具皿に溶き、別の皿に溶いた雌黄をそれに加える<花の色>上記の様にごく僅かであるが黄色系統の色が含まれているのだ。次に葉や茎には「草の汁」を用いる:上記のようにして藍棒に雌黄を混ぜたものが草の汁である。塗る場所に合わせて、それぞれの濃度を調整し塗る。塗る際には一枚の葉の中でも抑揚をつける必要が有り、葉全体を一様に濃く塗るのは下品だ。初心者はことさら濃くなりがちであるが、それでは上品な絵は描けない。<花の技巧>ここまでで、「薔薇のような感じのする絵が出来た」が、これだけでは眞の絵とはならない。これではただの写生画といったようなものであり、それを達者に描いたところで標本にしか見えないのだが、このように大まかに花を描く行程と言ったものを覚えておけば、後に自分なりの描き方をしようとした時に有効に働く物だ。標本的に描いた上、美的技巧を凝らす事に寄って初めて美しい絵ができる。<没骨法>没骨法による草花の写生:ここで説明する没骨法は附立描きの練習の一部のようなもので、以前、附立描きは四條派などでは、初歩から運筆の一部として練習した物である。附立描きの技術は困難なものであり、言葉で伝える事は難しい。昔なら、師の口伝、もしくは実地により直に見聞して了解したものだ。それほど難しいものであるから、ここでは一応説明はするがそのつもりで取り組んで欲しい。<その描法>まずダリアを没骨法によって描くとする。花、葉、茎それぞれを描くとき、筆に重きをおくというよりも寧(むし)ろ塗るというやり方で描く。花の海老茶色:洋紅に藍、墨を少しずつ混ぜて塗る。裏は同色の薄い色。茎およびガク、葉の裏:黄の勝った緑を塗り、葉の表面は草の汁を使う。花のシベ:初め淡い黄で塗り、乾いてから雌黄に岱赦を混ぜた色で花粉とする。花の芯に淡緑の点を描き加える葉筋の線は、裏は黄がちの線で表は藍がちの線で、まず中央を描き、順に左右の脈を描く。蕾みは洋紅に緑を混ぜた色で萼の他を塗る。以上で没骨法による絵が出来上がる。※以下に水仙、朝顔などの描き方を絵具の混色などと共に紹介、附立法において<隈取り>の使用法としてチューリップの描き方を紹介。<花の隈取り>チューリップの花びらの重なりを隈取りを使って描く。極端な濃淡による隈取りをおこなうこと、日本画は洋画の様に極端な明暗を現すと下品に見え、なおかつ日本画としての特色を失う。花びらの隈取り、葉の表現においての掘り塗りなど、柔らかい表現という事を考えて描く。<光線と色>絵を描くということは、頭の中だけではだめで、その形、色彩を研究し実地に対象物を見て描く事が大切である。※ここで78ページ 線で描く事、描き方を一通り知る事でそのもの自体の見方をも得られると言った事がポイントか。次回は三、隈取法について
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