日本画実習法 第七編 風景画 一、風景画法一般
<山水画と風景画>これまで日本画では山水の二字で風景画というものを現していたが、新しい時代を迎えて、これからはあえて風景画という言葉を使いたい。<山水と場所>風景画を描く上でのもっとも重要なポイントは、当たり前のことながら、描く場所、写生場所の選定にある。 洋画<>日本画 洋画では、まず描く場所を定め、イーゼルをそこに設置して描く。対象を見たら、最終的な仕上がりまで考慮してから絵筆を取る。がっしりとした構図の選定が重要だ。日本画でももちろん同様な要素が求められるが、なお繊細な感じのする箇所も描く中に欲しい。洋画は太い感じを好み、日本画は細い感じを尊ぶ。だから場所の選定も異なる。洋画は光線というモノが大事だから描く時間の束縛があるが、日本画にはそれが無い。日本画と洋画の作画上の違いを上げたが、日本画は、初めから物のあるがままを描こうとするものではなく、ただ自然の形によって物の意匠を拵へ(こしらえ)あげようとするに過ぎないものである。<自然と意匠>言葉を変えて言えば、洋画は自然をそのまま絵にするが、日本画はそれを作って絵にするのである。それだけ日本画は洋画よりも意匠的であり、つくり絵を描くことになる。だから日本画は一つの場所を絵にするよりも、違った多くのよい場所を集めて、それを継ぎ合わせて一つの纒った(まとまった)絵をこしらえる場合が多い。これらが洋画が自然的であるというのに対して、日本画があまりに人工的、あるいは不自然といわれる理由となっている。しかし、このことについては日本画としてさけられない事でもある。もし自然をそのまま写し取るような事をすれば、その錯雑とした様がかえって日本画の風致を乱す事になるからである。日本画の特長は、自然を日本画風に加工するところにある。だからこそ日本画の美しさは存在する。日本画は思うままに自然を組み立てそれを改廃することによって特別の味がでる。故に日本画をよくかくことは、自然をよく組み立てるということにもなる。<場所の選定>(日本画は思うままに自然を組み立てて描くといっても)だからといって描く時に勝手に描いてよいというわけではない。とくに初心者はもってのほかである。最初はしっかりと真面目に対象を見、そのとおりに描く。決して自分の意匠を凝らしていい加減に勝手に描いてはいけない。ただし、自分の描きたい物のある場所をまず見つけ出してそこを描く事はよい。これだけのことを普段から考えていれば、いざスケッチの段になって迷う事も無いだろう。日本画は洋画の場合よりも、より多くの写生を豊富にしておき、後でそのスケッチをもとによい自然を組み立てるようにすればよい。つまり、組み立てるべき自然の景を豊富に持っている人こそ、よい作品をこしらえることが出来るのだ。<この手順>写生の初めは簡単な場所から初め、徐々に複雑な場所を描く。勢いにまかせて初めから難しいものに挑戦しても、結局、自分の力不足を感じる事になってモチベーションが下がる事になる。<風景の困難>風景には様々な要素があり、ただ草花を描くとか動物だけを描くと行った場合より困難を感じることが多い。なぜなら風景とは異なった多くの要素が集まって出来ているからだ。<まず簡易なものから>出来るだけ最初は構成の簡単な対象からはじめるのがよい。たとえば草原にたった一本の木たとえば小川の上に掛かった丸太橋たとえば水車小屋たとえば野中の一軒家山門、鐘楼など。それらのものがそれぞれ描けるようになったら、それらを総合、組み合わせて一枚の絵に、景色を拡大して行くのだ。風景の中で扱う、人や動物、車といった点景は、特別注意して描かねばならない。なぜなら動くからである。スケッチの中で動く物はなるべく早く描く必要が有るのだ。<動く物の描法>動くものを写生する方法は、動物画で学んだことと同じである。風景写生でもっとも大切なのは透視画法である。従来の日本画家はこれを無視した為にずいぶん変なものを描いている。それでもこのことがこれまで大きく問題にされなかったのは、経験によってだれもが自然に親しんでいたからである。ただし、古今名人の作にあっては透視画法に添って描いてなくとも素晴らしい作品はあって、極めれば何事も自由と言う事になるのだが、初心者は、基本を大切にする事が重要だ。<風景の分解>近景、中景、遠景。あるいは前景、中景、後景。風景を三つに分けて考える事は作画の上で便利だからだ。景色には、それぞれ、遠近中、どこにポイントをおいて描くかによって出来る絵があるのだ。<まとめ方>風景画を描く場合、画面の中に遠近中という構成を意識し、そのどの部分を主役としてまとめあげるかをあらかじめ見極めて制作を行うことが重要だ。※ここで110ページ洋画、日本画の違いの説明箇所については平成の現在となってみればあまりに乱暴に思えるところが多いように思う。それほど簡単なことではない。当時、どのようなものが洋画として紹介され、またそう呼ばれていたかということも関係するだろう。一方、玉堂なりの日本画に対する価値観がはっきりと現れているとも言える。風景画に対する考え方等、スケッチ、作画方法も含めて、参考に出来る部分が多いように思う。私なりの言葉、解釈を加えるとしたら、これらはただ写すのではなく、描こうとする対象に対する「理解を描こうとすること」だとなるのかもわからない。次回は二、風景画実技より
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