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3/25//2010  レポート

日本画実習法 第七編 人物画法 二、人物写生の心得

■ 川合玉堂の著した「日本画實習法」はたして「日本画」の何が変わって、何が変わっていないのか。気になる部分を備忘録がてら感想など。その24
 

<人物とモデル>
人物の写生では、直立しているところを全部写し取るのがよい。
そのあと座っている所、寝ている所など前後左右からさまざま自由に描くのがよい。

自分だけでモデルを確保して描くことが出来ればよいが、職業モデルはお金も掛かり初心者には厳しいから、家族、友達をモデルにするのもよい。

ただし、プロのモデルを使えば自分の思う通りの格好をさせて描く事が自由にできる。人物画は粉本、模写だけでは思う様に上達できないので是非ともモデルを使って研究をする必要が有るのだ。

人物を描くのにはその身体を描く事も重要である。
(※古い日本画では、人物を描く時、衣装(いわゆるアトリビュート)がメインであったとすでに解説されており、新しい日本画では、洋画を引き合いに出し、<ふくらみのある立体的な身体、もちろんここではヌードも含まれる>を描くとことを「身体」とあえて書いていると思われる。)

<人体と解剖>
全身人物を描くためには、まずは人体解剖学を学んでおく必要が有る。
人体解剖学は専門知識である。ここで説明する事はしないが、描くための実技については詳しく解説する。

あえて人体解剖学に取り組まなくとも、人体写生を繰り返し試みれば、次第と通じ、骨格、肉付き、筋肉の具合、姿勢の変化なども充分に解る様になるものだ。

これまでの日本画家はあまりに解剖学について知らなすぎた。
堂々たる人物画を描いていても、解剖学上非難される不自然さを伴ったものが多かったのだ。これまでの描法が人物画を描くのに適していなかったという理由があるかもわからない。


新しい日本画家は、この程度の解剖学は知っておく必要が有る。
ただし、解剖学自体については今回は触れない。

繰り返す写生の中で、知らず知らずそれらを知る事が出来る様になるのだ。

モデルによってその形態を写し取る事が出来る様になったら、次は対象が何人になってもその瞬間を捉えて描ける様にならなければならない。

<人間の動作>
たとえ走っている様子、倒れている様子などでも自由自在に描けてこそ、習熟は進む。瞬間を捉える準備としてもモデルには様々な姿勢、ポーズをさせて各方面からの写生を試みておくべきだ。

人物の瞬間の写生(クロッキー)が重要である。
日本画の写生では、ただ見たままを写し描くのではなく、洋画よりもより形の美しさにこだわり、美化した形の描写が求められる。

<形の描法>
いかなる場合も日本画は、洋画のような自然そのままの描写にとらわれず、自由にものの形を日本画風に描きとる必要が有る。
日本画の特色である自然をそのまま写すのではなく美化して描く(自然改変)描法を無くせば、洋画に似るばかりである。(以下、胴を細くとか、手等を小さくとか、具体的な婦人の改変しての描写について記述が続く。)

<形の美化>
いかに美化して描くと言っても、浮世絵のように極端にものの形を変えるという意味ではない。その美化が不自然で無く、またわざとらしく無い程度が大切なのだ。

美化した線書きのあと着色する。
まず着物は胡粉に少量の藍を混ぜたものを線描から外へ出ない様に全体に手際よく塗る。
この場合の順序は、襟から袖にかきおろし、筆を戻して腰から裾にいたる。
この絵では着物は陰をあらわすための隈取りが無く、一面に同じ調子で塗る。この方法を平塗りという。
乾いたら袖と裾の模様を描く。この部分は無地では引き立たないから、きわめて簡単な波に泡沫の模様を入れる。泡沫は藍の具の濃いものかもしくは群青で不規則に描き散らし、その上に波の線を胡粉で筆意を見せて描く。この時の波は銀泥など使ってもよい。
袖と背にある紋は胡粉で描き、帯は胡粉に雌黄と朱を混ぜた黄色がちの色(黄色みの強いオレンジ色)で平塗りし、その上に葡萄の模様を一面に描く。雌黄と朱、それに草汁を混ぜた色か、もしくは緑青で葉を塗り、実の点々は群青で描く。いずれも軽いタッチを心がける。
帯上げと、着物の袖口にみえる襦袢の袖とは朱を塗る。帯留めのひもは淡紫で塗る。反襟は、白緑を塗ってよいが、すべて平塗りで単調だが神経をいれて塗る。

<周辺の描法>
窓、壁など人物以外の部分の描写について。
人物がメインであるから、それ以外のものの着色についてはやや簡単にすませること。

(家の)柱や障子の桟にはまず淡い代赭色を塗り、障子のガラスには淡い藍を塗る。
敷居には、代赭色と黄土色と胡粉を少量混ぜたものを塗り、壁は人物を引き立たせるように渋めの色を塗る。戸外の色や畳はなるべく淡く調和する色で塗る。

人体の顔、手には胡粉に少量の臙脂色を混ぜて塗り、朱の上澄みでぼかす。
眉は濃い墨、口は淡紅、眼は眉と同様。顔の塗り方も平塗りでありながら丸みを出す様に塗る。そのためには隈取りも必要だと思われるが、こうした部分は平面的な処理の方が結果が良いものだ。

<細部描き>
髪は全体を淡藍に胡粉を少し混ぜたものを塗っておいてから、割筆で前髪、鬢などを柔らかく描いた後、髷を描く。櫛と簪の玉を朱で塗り、最後に右手中指の指輪を黄で描けば人体の着色の完成である。
この時、没骨法で描いたならば、顔、手など肉体の部分がぼけてしまうので、輪郭等「線」を用いて描いてよい。

紙の地色、背景と主題の区別のつきがたい部分では、没骨法であっても、有線描法を使うのだ。この自由さが日本画のよい所でもある。



※ここで153ページ。 人物着色についての絵の具の使い方等も書き取ってみた。作業の具体的な事は、模写、粉本等を使った学ぶ作業がいかに当時当たり前だったかに関係しているのだろう。

相変わらずの洋画との比較には、決めつけも多く、当時の情報の少なさを感じざる終えないが、玉堂なりの比較・実感として、新しい取り組みの必要性を紹介するとともに伝統的な日本画にたいしての誇りも認められる。

次回は 三、美人画法 より。