日本画実習法 第七編 人物画法 五、人物画法心得
<人物の構図>構図の中で一番難しいのは人物画の構図である。うまく構図をとらないと主要人物が画面の主要部を抜け出る事がある。人物も風景画と同じく画面7分の位置に主要物をおき、あと五分のところに副主要物をおき、三分のところに端物をおく。ただし、人物は動くものだからこれらはおおよその目安である。まず人物の骨格を正確にとらえれば、それに肉を付けたり、着物を着せたりすることは容易である。<骨格>日本人を対象とした簡単な比例に付いて骨格の比例:頭の先から股までと、股から踵までは同じ長さとしてよい。 手の長さは足の長さと同じで、その半分の長さで肘を描いてよい。何かを押したりといった力のこもった様子表現の根本もやはり骨格である。<走る人の形>走っている形は難しい。運動している姿は、足だけでも駄目、手だけでも駄目、全体が関連して動作していることを捉えねばならない。相撲のいわゆる四つ組など、肉体の輪郭、ことに筋肉の動静をはっきりと描く事が求められる。体格の逞しさ、どっしりとした美しさが求められるのだ。着衣について:着ている人の姿勢によって現れる色形、線は変わる。 また着物の質によっても変わる、縮緬(ちりめん)などは木綿の線よりも粗いが、しかし柔らかい。絹物は強く見えるが、繊細である。同様に、木綿、毛物もそれぞれ違う。優しい人が着れば、やさしく見え、粗忽な人が着ればそそっかしく見える。着物を着た人物を描こうとするならこれくらいは写しとらねばならない。<多数人物>人物を多く画面の中に登場させるとなると、構図が大変難しくなる。大勢だから一人ぐらいとぞんざいに扱えば、画面全体へ及ぼす影響はことのほか大きいことに気づく。絵巻物、歴史画などを描くときも注意すべき事である。仏画で主たる仏像をことさら大きく描いているのは、周囲の仏像よりもっと敬虔(けいけん)崇高な印象を見た人に起こさせるためである。なおかつそれは用意周到に周囲との比例を考え尽くしたものである。初心者は、画面の中に何人もの登場人物を作ると、とかく主要人物がどれかが曖昧になるものだ。これは文章でも同じである。主役を描くときには、見た人にそれが主役とわかるよう構図、色彩、題材、感じなどそれぞれを有効に活用して表現しなければならない。画面中央に描いたからといってそれが主役に見えるとは限らない。主役にはそれなりの存在感の表現が必要になるのだ。これらは、軸装、額装、屏風、壁画などなど何にしろ同じ事である。※ここで169ページ。特筆すべきことはあまり無いように思う。今日ではすでに骨学、筋学、古典的な人物画の勉強などは、既に古くさい事と思われかねない時代となってしまった。しかし写実的な描写というのは何時の時代にも試みられる存在であることも確かな事に違いない。主役が特別な存在であるという事を様々に説明しており、その表現、工夫が本来の構図となるのだといったまとめとなるのかもわからない。画面内での要素配分など、当たり前過ぎる内容と思っているのだろう。風景画を引き合いに出して文中サラッと触れているが、このたりも「形」による表現と言った事を感じる部分だ。次回は 六、略画法 より
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