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6/22//2010  レポート

アトリエ美術大講座 日本画科 1基礎学

■ 昭和9年7月、アトリエ社から発行された「アトリエ美術大講座 日本画科 第一巻 基礎学」。執筆者は、日本画総論-横山大観 写生論-平福百穂 運筆論-川合玉堂 色彩論-松岡映丘 取材論-川端龍子 構図論-堂本印象 模写及臨画-都筑眞琴 蒼々たる顔ぶれです。本の最初に紹介されたカラー図版は土佐吉光筆一遍上人絵伝、次のページが呂紀筆 花鳥図。私の中でこれまでおぼろでバラバラだったさまざまなことが、ここに来て次第につながって来ているのを感じています。
  
まったく遅い歩みと言えばそれまでですが。
  
アトリエ美術大講座 表紙
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横山大観による日本画解説、日本の国と日本人、民族と文化、時代背景もあったでしょうが、精神の在処といったことの紹介が試みられています。そして、平福百穂による写生論では、西洋的なものの見方と「写意」という言葉によって現される価値観、東洋画のあり方といったものが説かれます。

河合玉堂による運筆論は、このサイトで紹介した昭和二年の川合玉堂著「日本画實習法」との関連、その後を感じさせます。文中、<筆を正しく用いて>なんて言葉!が何気なく使われていますが、このあたりに、私は現在失った価値観へつながる何かを感じているのです。もちろん筆を使って描かれる線の価値観についても。また、用筆と用墨を分けて使う言葉にも意味を感じます。

松岡映丘の言葉には、西洋的な価値観を積極的に取り入れるチャレンジ精神とともに、宗達、光琳を評して「色彩の運筆」と言い切っている所が注目され、日本のオリジナリティー確立にはたす大和絵の役割に触れている所も重要のように感じます。

何を描くかを説く川端龍子。自由自在に筆をふるった龍子ならではの、生きている時代への読みなどが感じられて興味深いところです。

達者で、そして何処か冷めた目、知的な堂本印象。重心という言葉を用いて構図についてを語っています。

最後の模写及臨画-都筑眞琴、模写の技術的な説明とともに、要諦としてその価値観の在処を説いている所にこそ注目されます。
粉本と呼ばれているものが単に実作の模写のみにあらず、原画を描くために用いられた下図からの写しもあったのではという部分には大変興味を覚えました。

模写すべき、学ぶべき対象、そして用いる絵の具の事。
写生も臨画のひとつと捉える所も面白い所です。


 
随身庭騎図 白描画の典型(学生時代に場面は異なりますが、この絵の模写をしたことが思い出されます。このような題材が当時課題としてあったのもこの本で紹介されている価値観に基づいてであろうことは容易に推察されますが、一方、第二次世界大戦を間に挟み、あえて積極的な伝承を行わなくなった部分もあるように思います。実際に手を動かし、理解したかどうかは別として描く事。こうした機会にもう一度、様々な事について考えさせてくれる手がかりになるのだとあらためて感じているのです。
>> 随身庭騎図 白描画の典型(学生時代に場面は異なりますが、この絵の模写をしたことが思い出されます。このような題材が当時課題としてあったのもこの本で紹介されている価値観に基づいてであろうことは容易に推察されますが、一方、第二次世界大戦を間に挟み、あえて積極的な伝承を行わなくなった部分もあるように思います。実際に手を動かし、理解したかどうかは別として描く事。こうした機会にもう一度、様々な事について考えさせてくれる手がかりになるのだとあらためて感じているのです。 (127.69KB)

この時代の本にあってカラー図版、白黒図版も豊富で、なかなか見応えがあります。また、それらの解説もいまだからこそ興味深く読めるように思うのです。

倉敷市立美術館での講座、講演で池田遙邨作品をあらためて見直した事、また豊富に所蔵する模写、スケッチ等の資料が、こうした本と関連付け、見直す事によってまたあらたな発見が生まれてきているように感じているのです。

ずいぶん以前に手に入れた本、折にふれ手にとり読んではいた本ではあったのですが、ここに来て、関わるさまざまなこととの関連、刺激との相乗効果を感じています。