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1/23//2016  材料技法

絵を知るということ

■ 美術館の教育普及活動と聞いてどんな事がイメージ出来るでしょう。テーマに添った展覧会を企画して行うことは当たり前ですね。付帯するイベント、ワークショップの開催も企画意図をより明確に伝えるために有効です。また常設展示においても貴重なコレクション、収蔵品のよりいっそうの活用をどのように行うのか、いろいろな工夫が凝らされます。鑑賞者の理解を助けるプログラムの工夫、ツールの開発。先日の京都国立博物館、先進事例調査に続いて今回は名古屋での取り組みを調べに行ってきました。
 
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初めて降り立った名古屋・金山駅、新幹線で名古屋駅、東海道本線に乗り換えて二駅(快速等なら一駅)目です。地図で名古屋ボストン美術館を調べると駅と一体となっているのかと思っていましたが、別の建物でした。名古屋ボストン美術館、初めての訪問です。
 

 
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立派な建物、この複合化された建物の中に名古屋ボストン美術館があります。後ろの背の高いのは、中庭を挟んで一体となったホテル。

駅反対側の出口付近も少し歩きましたが、大きな町(変な感想ですね^^;)です。

井口智子学芸部部長さん、学芸部係長 鏡味千佳さんに対応いただきました。

 
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「日本画ってナンダ?」

2012年開催の「日本美術の至宝展」に合わせて制作した鑑賞支援ツール、画材の実物に触れてもらう、また特徴的な技法の具体的な紹介を行っているそうです。画像は、その鑑賞支援のための、材料、道具、技法紹介のサンプル

触れるからこそ分かる素材の重さや、手触りも鑑賞の助けになります。またツール自体を活用しやすいようにその運用のためのプログラムも整備しているとのことでした。学芸員自ら作ったというお軸のミニチュアも構成するパーツそれぞれを異なった質感にしてあることもあって触って楽しむという要素も生まれています。

名古屋ボストン美術館ではこの他に「・・・ってナンダ?」シリーズとして、「油絵ってナンダ?」、「陶磁器ってナンダ?」もあります。また同時に視覚に障害のある方を対象としたツール・プログラムの開発にも取り組んでいます。油絵の表面に存在するタッチの凸凹を再現し触ってもらえるようにしたり、日本画の絵の具の粒子の違いを実際に使用した状態で触って説明できるツールが作られていました、先ほどの掛け軸の構造なんてものもその要素を分かり易くするためのツールになっています。

 
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「教育普及活動」
博物館から派生して生まれた美術館。時代や地域を越えていかに文化を共有し、暮らしを豊かなものにしていくか。

保存・公開は、誰のため、何のためにあるのかがより問われる時代となりました。
教育施設としての位置づけ、役割を具体化する取り組み。ますます重要になり、広がりが生まれています。

研究者・学芸員の方々が、個々の美術作品自体のみならず、大きなカテゴリーとしてのそれも問い直し、分かり易く「・・・とは何か?」「どんな要素に分解できるのか?」


!!翻訳する試み!!
 
 

 
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翌日向かったのは、名古屋栄駅近くにある愛知県美術館です。

繁華街の様子、夜のにぎわいももちろんですが、宿泊したホテルを出て、朝、周辺を一回りして感じたのは、街の規模の違い、住まう岡山との差を強く感じました。

多様性・人口の集積がもたらすものの違いです。

 
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愛知県美も複合ビルの中にあります。

後ろの背の高いビルは、名古屋NHKだとか。

愛知県美術館では、藤島美菜主任学芸員に対応、取り組みを紹介していただきました。

 
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館蔵品の活用、視覚に障害のある方にクリムトの絵がどんなものなのか伝えようとする試みです。

素材の工夫、表面の工夫、触って違いを感じられるように様々な取り組みがされています。

さて、取り組みをお聞きする中で、紹介し、これに触れた方が、<この支援ツール自体を作品と思ってしまう>というお話が印象に残りました。

まさしくこれ自体が「作品」と言ってよいものだと私も思います。

オリジナルが存在し、それを視覚に障害のある方にどうにかして伝えようとする試み・・・。視覚的な何かを伝える、説明する・・・・も確かに一つの方法ではありますが・・・もし、本当に<オリジナル>を伝えようとするなら、やはり本物に直接触れることを可能とするしか無いのかもわからないと思うのです。触れることで得られる情報が、たとえこの支援ツールより少なかったとしても・・・・。

 
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これらツールに関して、障害の程度によって感想はそれぞれ異なるということ、また可能な感覚器官を総動員して、感じ取ろうとする話を興味深く拝聴しました。

音、振動、舐める・・・・

活用法によっては、より多くの方々、一般の鑑賞者の方々にアートのあり方・今日の表現の多様性の基となっている部分を紹介する有効なツールになりうるように思いました。

 
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美術館という施設が「今」という時代に、また社会の中でどんなことが出来るのか?またどんなことが求められているのか。

建物自体も含め、これまでの「モノ」、そしてそこで行われる「事」、「場・時」まで含めての空間としてどんなことが可能になっていくのか。

 
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かつてあったもの
そして今

繋いでいくもの
新たな提案

可能性をいろいろと考えて行きたいものです。

 
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最後は京都に立ち寄り、老舗の日本画材料店をいくつか廻って帰りました。

長く続く町、古都ならではの有り様。
古い絵の具、昔の絵描きの方々との交流。変わらずにあるからこそ聞ける話に出会うことが出来ました。

それぞれの店のそれぞれの話。

 
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かつてあった絵の具、現在は無い絵の具にも出会うことが出来ました。

ここのところ疑問であったことにも幾らかの解答がえられたように思います。

さてこれら調査をこれからまとめることになります。