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8/1//2017  材料技法

掛け軸の出来るまで(「表装」展・実演)

■ 天神山文化プラザで行われていた「表装」展が会期を終えました。次は新見美術館に会場を移して9月9日より展示されます。会場となる新見美術館の収蔵品とのコラボも楽しみなところです。
さて、今回の「表装」展、表具師の方々にご無理をお願いして掛け軸の出来るまでの工程を全て実演していただく、それも1日!でという特別企画が有りました(7月23日・30日の2回)。実演の様子を紹介します。

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「表装」展会場の入り口脇で実演されました。真剣な眼差し、熱気あふれる時間となりました。(掛け軸作成を4工程に分けた実演で、午前午後2工程づつ行われました。実演4回全てを見ると掛け軸が完成するまでを全て見る事ができるという実演です)

 実演をしていただいた三宅表具店さん、実演だけではなく、工程・作業をわかりやすくするため準備にも時間をかけていただきました。
 

 

軸装が出来るまでの大きな流れを画像で紹介します。

 
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最初に大きな流れ、工程の説明がありました。まずは部品となる要素それぞれの紹介、<作品内容の吟味とそれに合わせる裂地選択、全体のデザインを考えることから始めます>そして下準備となる<「肌裏打ち」裂地、本紙、筋など全てに行います。
 

 
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肌裏打ちに先立って裂地に湿りを与えます。

下に敷いているのはアクリル板です。糊付け板として使用しています。また作業版は、シナベニア板です。

 
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裂地の目を真っ直ぐ通し、「張り手紙」(裂に裏打ちをしたり、切ったりの作業のおり、布目を固定する(作業中の布目の並行・垂直をきちんと出す)役割のようでした)を付けます。

布目を揃え、縦糸と横糸の直角を出したら、この張り手紙を使って作業台に裂地を固定する。

 
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糊付け板で裏打ち紙に糊を付ける。(この時、裏打ち紙全体に均等に糊を付けるのも重要な技術です)

 
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張り手紙で固定した裂地に裏打ち紙を打ちます。

架竿の一辺下部に糊を付けるのもポイント。

撫刷毛で密着させます。

 

※ ポイントの一つ
 

 
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1)きれいな仕上がりのためには、裂地の糸目をきちんと出すこと。

大きな直角定規が印象的でした。

 
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肌裏打ち前の作業として、裂地には霧吹き、もしくは刷毛で水を加え縮を入れましたが、本紙の肌裏打ちは、より慎重に湿り気を与えた和紙で本紙を挟んで湿りを与えるという一手間を加えていました。

 
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糊付け板上での肌裏打ち紙への糊付けの様子。

最近の化学糊について紹介してくださいました。
昔の糊と同様に水で貼り付けた紙を容易に剥がすことができるそうです。

乾燥も早く使い勝手が良さそうでした。
市販の煮た生麩糊は弱いものが多く、切継など行うためには自分で固く糊を煮るか、もしくは購入となりますが、化学糊の選択も現状考慮する必要があるように思いました。

 
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本紙の肌裏打ち

湿らせた和紙で挟んでいた本紙を取り出し同様に肌裏を打ちます。

 
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肌裏を打って仮張りに貼り乾燥させたら、次に肌裏打ちのおりとは交差させる繊維方向を使って増裏打ちを行います。

 

※ 仮貼りのおり、ヘラバサミを貼り付けた部分から息を吹き込み本紙の中央部が浮いていることを確認するなんてこともポイントになりますね。

増裏打ちが終わったら、表面を中側として再び仮貼りに貼り付けます。

 
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糊刷毛の使い方一つ(糊付け板、裏打ち紙の向かって左側の部分で刷毛をしごいて刷毛についた糊の涼を調節したり、場合によってはたんなる水刷毛的な使い方としたり・・・・)で、水分量を調節したり。

何気なく、向かって作業台一番左端の下の部分にあるバケツで撫刷毛を湿らせたり、雑巾で撫刷毛についた糊、紙の繊維を拭き取ったり。特別の解説はありませんでしたが、こういったところを見せていただけるのはありがたい限りです。

 
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裏打ちをした筋用の裂地から筋を切り出します。

 
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筋の貼付け。

定規をスペーサーとして上手く使って裂地のほつれ止めの糊を付けたり、また筋を貼り付ける糊を付けたり。

 
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いわゆる中廻しの部分、窓を空けました。

水平垂直、きちんとした矩形を糸目、模様に合わせて切り出すのもポイントの一つ。切った後の切断面に糊を付けて固めるのもポイント。

 
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本紙を張り込み、中央となる部分が出来ました。

 
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天地を切継ぎます。

 
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耳折り

細い、耳折りの作業も見どころの一つ。

 
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耳折れの部分に和紙の繊維(喰割きした繊維のみを使う)を貼り付けての補強作業。余ったちゃんとした和紙の部分はあとで切り取ります。張手紙として使い、仮張り地にこの余った部分に糊を付け貼ります。

八宗、軸袋、軸助けを作り貼り付けます。

 
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総裏打ち

裏打ち紙を重ねるおり、棒継ぎとしますが、その重なり合う部分の糊水分を和紙テープを使って取り、乾燥時間を等しくするというのもポイントの一つ。

 
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重ねる部分の糊の水分を予め作っておりた和紙のテープを使って取り、全体としての水分量、乾燥速度をなるべく同じにする。

 
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仮貼りを行い乾燥させます。

 
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巻緒作り、八相、軸木、軸先の加工。

軸袋、八双廻りについては、袋作りも含めて見たからできるといったものでは無く、深い理解と実践が必要です。

 
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裏全体にロウを塗り、数珠等でこすり上げ平面性の確保や柔軟性を作り出す。

 
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仕上げ

張手紙、置手紙を総裏の耳の際で切り取り、軸袋を開ける。

 
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軸棒を取り付ける。

このあと八双や打ち込み環を付け、巻緒を付けて完成

 
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表具も地域によっての違いや、流派(学んだ弟子筋)によって作業も異なることも有るようです。もちろん、表具自体の様式の違いもあります。

紙と紙、裂地、いろいろな素材を貼り合わせる技術。

今日的な使い方や利用法の発見。表現と繋ぐこと。

職業と地域との関係、文化を繋ぐことなど、社会的な問題意識もありますが、やはり大勢の方々と「面白さ」「楽しさ」「可能性」を純粋に見つけ、感じられる試みになっていたらよいなぁと思うのです。


三宅表具店さん、ありがとうございました。

 

※ 追加情報

 
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3Dプリンタを使った新しい軸先の提案展示の中には、紫外光(いわゆるブラックライト)を使って光る物もありました。発光色も3種類有りました。

 
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旧来の軸先紹介に紛れ込ませて展示の一つ。トゲトゲのあるものは材料として青銅粉と樹脂を用い、3Dプリンタで作成したものです。

 
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藤井龍さんとチームを組んでいただいた大西表具店さん、最終日に軸棒に紙管を使う場合の材料を見せていただきました。軸先との接続部のパーツ、また紙管用の軸先など。

この紙管の中に電池とか発光パーツ、また他の仕掛けなども組み込むことが可能とのことです。
限られた時間の展示、イベント等で、巻いて運べるといったメリットを活かし、何かしら面白い提案、使い方が可能かもわかりません。もちろん、表現と一体と成った新しい軸様式昨品なんてのももちろんありですね。

 
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熱心に最終日実演作業をご覧になっていた方々。画像は当日出来上がった実演サンプルです。絹の裏打ちについて興味をお持ちのようでしたが、軸制作実演の一番最初の作業、肌裏打ち、裂地の準備が参考になると思われます。また使用する糊の強さも重要な要素となります。肌裏に使う紙も薄いほうが絹地に密着し易いのです。

 
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いわゆる「置床」と呼ばれる展示でした。
撤収の様子です。

壁となっていた部分の側面にくろい長方形が何箇所か見えますが、ここがポイント、磁石です。上部天井・下がりの部品とこの壁が3個程度のネジで組み上げられていたのです。

現代のビル、通常の西洋空間に仮設の和空間演出。使い勝手、収納も考えられた便利なツールです。
キラずりの唐紙、組み込み用の溝を作っていたパーツなど、以前はいろいろな選択肢があったそうですが、現在これらも手に入れることが難しくなったそうです。

 
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3幅対の昨品。収納の様子です。

 
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このハトがとまっている枝の下、漆塗りの箱の中に、後ろにかかっている3本のお軸が巻かれて収納されました。

 

9月9日から10月9日
アートの今・岡山2017「表装」は、会場を移し新見美術館で行われます。

11月11日から12月3日
勝央美術文学館で行われます。

・岡山県産の手漉き「和紙と糊でフレームを作ろう」ワークショップ
・「日光写真を体験しよう」ワークショップ
・「漆のお箸を作ろう」

開催館それぞれのワークショップが予定されています。問い合わせは各館に。