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5/7//2018  材料技法

文化芸術交流実験室「画材から見る日本の絵画」

■ 文化芸術交流実験室「画材から見る日本の絵画」
会場:岡山県立美術館
日時: 平成30年4月28日(土)が開催されました。
 
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 県美コネクション展開催中の岡山県立美術館地下エントランスで午前中に開かれたトークセッション。目黒区美術館での降旗 千賀子学芸員の教育普及における取り組みが紹介されました。また岡山大学に所蔵されている国絵図の紹介もありました。
 岡山に住んでいながら、私はこの国絵図の存在を知りませんでした。なかなか出来の良いもののようです。機会があれば是非実物を見てみたいと思いました。
 続いてコーディネーターの大月ヒロ子さんも交えて私もトークに参加、岡山県立美術館での取り組み、岡本裕子学芸員、岡山県立大学の南川先生と一緒に制作した日本画アートボックス<岡山県立美術館コレクション活用BOX・日本画>についてを紹介しました。
 

 
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 県美コネクション展に展示中の<岡山県立美術館コレクション活用BOX・日本画>(右端にある木材で出来た机状の物体)筆、刷毛が引き出されています。また上に載せられているのは和紙原料である、楮、三椏、雁皮。下に置かれている引き出しは絵具、膠や道具類です。稲葉春生さんの椿に黒猫が描かれた絵の横に展示されているのは、その部分がどのようなプロセスで描かれたかを推測、実際に制作紹介する見本です。支持体は和紙、絹を使って紹介しています。

 ちなみに、画像撮影をしていますが、もちろん許可を取った撮影であることは言うまでもありません。今回の実験室開催スタッフが打ち合わせ時に撮影している様子です。

 
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お昼の食事も、実験室ならでは。テーマに沿ったメニューが出されます。左画像は今回のキーワード「沈殿」にちなんで作られたデザートです。

 
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濁らせてみたり、また沈めてみたり。
綺麗な色、香り。

きっと文化芸術交流実験室に参加の方々、「沈殿」が記憶に残ったに違いありません。

 
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午後のセッション、まずは尾上真由さんによる岡山の土から絵具を作る試みについての紹介。初めて彼女と出会ったのは倉敷芸術科学大学でした。私が非常勤で指導に行っていたおり、絵具の作り方を紹介するとずっとそれをやり続け、卒業制作にも自ら作った絵具を用いたのです。岡山大学の大学院に進学し、現在教育について研究しています。

原始的なそれから、科学的、合理的な取り組みへの変化。誰もが手に入れることのできる道具を使っての作業紹介は実践的でした。
 

 
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採取してきた土をまずは大まかに選別した後、水を使って撹拌し、その濃度、沈む速度に応じて取り出したそれぞれを静かに沈殿させ、乾燥させました。

静かに沈み、そして乾いた表面。

 
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私が古典的日本画の特徴的な「絵肌」について紹介する時、いつも紹介するこの滑らかな沈殿表面の姿。雨の日に出来た水たまりが一度濁り、そして沈殿し乾いた姿、大切な表面の状態です。

丁寧に溶いた絵具、コロイド状に分散した絵具粒子は、絵具刷毛によって作り出された沈殿できる水の層によって静かに沈み、そして美しい沈殿表面を作るのです。

 
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岡山大学、岡山県立大学、倉敷芸術科学大学、総社など、岡山県各地で採取された土から尾上さんによって作られた絵具。

この後、私から今回「日本画」という言葉を敢えて使わず、「画材から見る日本の絵画」とした理由、画材、またその使い方の中から、「日本画」という言葉に意味を見つける試みについて紹介しました。何を求めてのことだったのか、そこにはどんな価値観が働いたのか。ヒントとなったは、この絵具を作る工程だったのです。

今回はこの貴重な絵具を使わせていただいてのワークショップです。

 
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牡蠣殻から作られる胡粉、吹屋のベンガラ、土から作られた絵具、籾殻、薫炭の製造過程から出来た墨、猪の革から作った膠。支持体は横野和紙、三椏原料の葉書。岡山にこだわった素材を使っての試みです。

 
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午後のワーク、最初に行った「沈殿」による発色についてについで二度目の解説。制作を終え、それらの乾燥を待つ間、使用した素材についてや、今日の作業の勘所などを解説しました。
参加者35名、関係者も入れると45名程度・・・県美の研修室、これだけ入ってのワークショップは初めての体験でした。

乾燥を待つ間、美術館展示室に向かって実作に今日の体験の確認を行う方々もいらっしゃいました。きっと見どころ、鑑賞体験も変わったに違いありません。この体験が実感を持った新たな出会いとなっていれば幸いです。

皆様有難うございました。

※ ノマドプロダクション 橋本 誠様撮影による当日の記録画像を使用させていただきました。