ICOM IC−710 10Wモデル
ご紹介するのは10Wモデル IC-710S本体とスピーカー内蔵電源IC-710PXです

リアパネルの様子です
10W機ですので、大きなヒートシンクもなく、シンプルそのものです
本体、四角の目隠しがしてあるところが、後述のIC-RM1接続端子(CI-T)
現在のI/F CI-Xの始まりは、ここからです
VHFスタートの現アイコム(当時は、井上電機製作所)のHF参戦は1967年発売の、IC-700R IC-700T これが最初の製品ですが、それから時の経つこと10年、1977年に、IC-710というオール・ソリッドステートで、当時としては斬新なデザインの、非常にコンパクトな本格的HFトランシーバを発売しました

ICOM初期のHF機
1967年発売のIC-700TIC-700R  後ろは、500Wリニア IC-2K
右後ろ下段は、こちらでご紹介のIC-710 上段は、IC-720/720A
アイコム(井上電機製作所)初となるHFトランシーバです
どうやら、このデザインがお気に入りのようで、V/UHFのマシンまで採用されました
この時代の表示は、7セグメントLED、その後は蛍光表示管にと変遷はありますが、同じ型を長く使う・・・その後もこの動きは続きます
HAMバンドのみ(WARCバンドなし)対応のマシンで、パスバンド・チューニングを含むトリプルコンバージョン/ダブルコンバージョン+です
CWフィルタなどオプション設定はありません
CW時は、パスバンド・チューニングの機能で、帯域を狭めて対応するタイプです
(CW:±250Hz巾 CW−N:±100Hz) 

本機の大きな特徴として、デジタルVFOの採用があります
今でこそ当たり前になっていることですが、当時としては画期的なことでした(PLLの採用)
また、バンド切替もメカSWに頼らず、ソレノイドでガチャガチャとRFフィルタを切り替える方式を採用
切替時には大きな音がします
小型化のためのひとつの手法でしょう、後継のIC-720でも採用されています
VFOはデジタル・タイプで、ステップ当たり100Hzで1KHzステップの早送りも可能です
ダイヤル・ロック・ボタンもあります
実際の運用では、100Hzステップでは少々厳しい感じではあります(あとはRITに頼る?) 
当時としては、このあたりが落としどころだったのでしょう   
デジタル化されてはいるのですが、現在と比べると全体の周波数安定度は少し劣ります
筐体上側です
フィルタは2個 上側が、9MHz台 下側が、10.75MHzのクリスタル・フィルタで、この2つを組み合わせてパスバンド・チューニング機能が構成されています
左上のシールドケースの中身は、ALCユニット
基板は、大きく2枚構成
左半分は、送信ドライブ/RF部、右半分はIF部です
下の方に見える白い7つ並んでいるものは、半固定ボリュームで、ケース上面にあるナイロン・ラッチ(ポッチ)で止められてある蓋を開けて、任意に調整できるものです
3つのスライドSWもそうです
壊れていたナイロン・ラッチは新品に交換しました
筐体底側です
右上に見えているウェハーが、バンド切替を担うロータリー・リレー部です(電磁コイル/可動部は反対側に隠れています)
シールドケースの中は、各バンド毎のLPFが納められています
左側の黒いコネクタは、電源接続コネクタです
中央に6組見えているシールドケースが、各バンド(6バンド)の段間トランス(コイル)です
バンド毎に独立してあります
その左横の少しスペースが空いて見えるところに内蔵スピーカーが納められるようになっています

IC-710PX 
今回入手したものは、かなりたばこの煙で燻された感じがあり、清掃も本格的に行うことになりました
左写真の分解清掃の様子は、スピーカー内蔵電源IC-710PXです
外部スピーカージャックは、接触不良が酷く、交換しました
本体も同様に頑張りました!
オリジナルでは、無負荷時17V、最大負荷時13V前後と、定電圧回路を内蔵していません
単なる整流出力、大容量の平滑コンデンサは採用されています
本体説明書には、この電圧変化に耐える設計がしてあると記載があります
10W機ですから4A程度の最大負荷を見ればいいと言うことで、SWタイプの最大8Aという定電圧回路を組み入れました
端子台など少しレイアウトを変更して基板を内蔵しました
入力電圧が少し低めではあるのですが、13Vにセットして最大負荷時でも12.5Vは出ています

清掃以外の今回の取り組み(修復)内容
全体的に動作レベルの低下が見受けられました
40年以上経過しているものですから当然でしょう
意外にも、受信だけをピックアップすると、まずまず正常/カタログ値の動作をしています
機械的には、RIT ON/OFF-SWが壊れています
こればかりは交換品のアテがないし、機能としても必須ではないので、今回は無視しました(RIT動作はしません)

バンド切替動作が不安定
ガチャガチャと動くロータリー・リレーの動作ですが、ご機嫌が良いときは、全く問題ありませんが、ご機嫌を損ねると、切替が出来なくなったり(電源のON毎に1バンドづつ切り替わる状態に)、突然切替動作をしたりします(これは困ります!)
色々チェックをしてみた結果、機械的な負荷が大きくなっていると判断、リレーの可動部分全てにシリコングリスを塗布、清掃したところ、安定な動作になりました(稼働音も少し大人しくなった!?)

送信パワーがバンド毎に一定ではなく、ALC動作もおかしい(28MHz帯を除きレベル表示が不動)
28MHz帯を除き、段間調整が大きくずれていました
きちんと調整することで、ALC動作を止めて各バンド20W程度得られるようになりました
ここでALC調整をして、出力を各バンド12Wに納めました
このことは、説明書にも記載はありません、独断です
あとは、説明書にあるように、BFO・VXOの周波数を合わせました

最終点検結果は、以下の通りです

■受信感度  
      0.5μV/emf入力で、S/N10db 1.9 〜 21MHz帯
      28MHz帯で、0.6μV/emf入力でS/N10db が得られました
      4dbμ入力でS1、84dbμ入力でS9+60dbと、説明書の記載どおりに合わせました
      40dbμ入力で、おおよそS9を指示します(28MHz帯はS7位)

■送信パワー
      1.9〜28MHz帯  12W前後
      7100KHz以上の周波数帯も、送信します(バンド拡張対応問題なし)
     
7/14MHz帯をワッチしてみましたが、快調に動作します
14MHz帯ダミー負荷で、送信電波、送信音のモニタをしましたが、こちらもそれなりな動作です

こちらは、IC-710(100W)モデルに、リモコン IC-RM1 をセットしたもの
ICOMでは、この時代(1970年代)からマイクロコンピュータにより、本体を外部から制御する技術を展開していました
多分ですが、無線機メーカーでは最も早いマイコンの取り入れであったのではないかと思います
TI TSM1000(4bit)ファミリの採用です
この当時は、バックアップには、ACアダプタが必要でした(不揮発メモリの登場は、多分ですが1985年ごろ)
その名残?・・・外部電源IC-PS20のON−OFFと、IC-710のON−OFFは、別動作でした
外部電源IC-PS20はONのまま、IC-710の電源をON−OFFができます

デジタルVFO(PLL)、マイコンによる無線機制御などについては、元ICOM技術TOP(ICOM一の特許所有者)のJA3FMP櫻井OMによる記事がweb上にありますので、興味のある方は検索してみて下さい
ICOMのたどった歴史も、技術面から分かります(2024年は、ICOMブランド60周年に当たります)
2024.10

           2017.10   JA4FUQ

無線機歴史博物館に 戻る


週間クールサイトに選ばれました
無線LAN専門サイト
青電舎:担当 堀
   Mailは seiden_atmark_po.harenet.ne.jp
              (お手数ですが、_atmark_を @ に直して下さい)
      お電話では、(086)275−5000 
      FAXは、0120−545000
      〒703−8207 岡山県岡山市中区祇園433−6