綿臙脂
左画像がその実物です。画像では赤い色味がよくわかりますが、肉眼では全体により暗い色に見えます。直径約30cmあります。まるで血をしみ込ませた綿を固めたように見える円盤状の物体です。
※1で、使い方は、<その綿片をむしり取り、皿の上で少量の湯をそそぎ、箸などで色素をもみ出し(この場合脂肪をきらうので指を用いない)その浸出液を湯気の上で蒸発させ(湯煎)たものを使用する>とあります。狩野派の技法書「丹青指南」※3では、「臙脂」について中国の紫草という草からとった紅汁を延綿に浸して乾燥させたものと紹介されているようです。使い方はほぼ「日本画の技法」で書かれていることと同じです。土佐派の技法書「本朝画法大伝」では、「生臙脂」と呼んでいるのがそれ(植物性)にあたり、単なる「臙脂」と区別しています。また、どちらも中国からの渡来品として紹介※2されています。はたして、植物性のものなのか、それともカイガラムシによる物なのか?※おそらく今回のものは色の強さも含めコチニールによるものと思われます。ネットで調べると、インドの染色材料として「ラックカイガラムシ」からのものがあり、南米(メキシコ)のカイガラムシからとる染料(コチニール)とは色味が違うと紹介されています。古くは、カイガラムシの内蔵から色素をとると聞いていましたが、今回ネットで調べると、カイガラムシが出す分泌物、樹脂のようなものを精製して作ると紹介されているのを発見しました。「洋紅」と呼ばれる絵の具、棒状に固められて購入したり、胡粉などのボディーを加えて作られたそのままの名前の「コチニール」という絵の具がありますが、植物によるもの、またカイガラムシからとった染料がある意味で日光などの光に弱く退色の恐れがあるとのこと、現在では化学的に作られたより安定な染料になっているとも聞いたことがあります。青い絵の具が初めて化学的に作られたのは1704年、ドイツだったそうです。天然の鉱物による絵の具、特に青色は高価で、絵の具制作自体が錬金術として成立していたと聞いたことがあります。日本に伝わってくるそれぞれ、秘密にされた製法など謎の多いものだったにちがいありません。古くは宮廷の絵所で、また最近では奥村土牛が描いた「醍醐の桜」、あの淡いピンクがこの綿臙脂を使って描かれていると紹介する記事をネットで見つけました。昭和の初期頃まで使われていたことは確かなようです。※1 「日本画の技法」1953.3.5 初版 美術出版社※2 「本朝画法大伝」推訳注 平成14年 金開堂※3 「丹青指南」市川守静編 平成16年 金開堂
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「綿臙脂」と名前は知ってはいたものの、見たことも無くいままで来たのですが、先日、東京神田の得応軒本店より「購入できる」との連絡を受け、手に入れました。この絵の具屋さんも扱うのは50年ぶりだとか、とにかく珍しいものに違いありません。
その実物の迫力にビックリです。