墨、絵の具、筆、刷毛のことなど
平成22年、笠岡市立竹喬美術館友の会によって出版された<小野竹喬 日本画技法と素材>光栄な事に作成に関わらせていただきました。その中に画材を紹介する資料の一つとして掲載されていた左の図。元々の出典は、久保田米遷「画法大意」(明治25年)だそうですが、中央の半円形の形に毛をもった刷毛が気になりました。しかし、このおりは「こんな刷毛もあったんだな〜」程度にしか思わず、そのままとなりました。今年上京したおりに、東京神田の得応軒本店に久々に顔を出すと、見慣れない刷毛が奥の棚の中にあるではありませんか!。「丸刷毛」と呼んでいるそうで、試しに作ってみたとの事でした。このおり、ご主人に「どのような用途に使うのですか?」とお聞きした所、デザイナーの方が暈しをするのに使っているとか。このおりは、どのように使うかのイメージが出来なかった為にそのまま求めずに帰りましたが、、、 <何処かで見た事がある!>そう、冒頭で紹介した※<小野竹喬 日本画技法と素材>http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2011/020701/index.htmlの紹介画像で見た刷毛だったのです。
紹介画像をよく見ると、刷毛の名前らしきものが書き込まれています。<設骨刷毛>と書いてあります。カタカナで横に、<※※ハケ>と書いてあるのですが、残念ながら判読不能です。他の刷毛、筆の紹介から考えると、どうも具体的な読みというよりも用途をカタカナで書き添えている様です。下の段、筆の所に<設骨筆 ツケタテ>とありますから、何らかの直接的な描画に使われた刷毛の様に思われます。使い方を工夫してみたいと思っています。
中村岳陵氏の日本画技法についての話を読む機会を得ました。筆の質、筆の使い方、線に見られる速度の事。筆への墨の含ませ方などにも触れており、あながちここのところ私が考えている事も間違いではなかったと思っている所です。直筆から、側筆を使う様になる変化への注目は大変興味深い話でした。中に、<(略)大画面に向かって活達な筆と彩色を振るい得たことになる。恐らく大きな刷毛のようなものを用いたことを裏付けている。(略)筆の巾を広めたものを必要とする(略)>とあり、上記の刷毛ともつながるのかも?と思っている所です。
作画での墨の利用については、<暈かし>と<滲み>は違うという所からこだわりたいと思っているのですが、そういったことの疑問の一部について、木耳社から出版されている為近磨巨登さんの著作は、これまで私が感覚的に感じていた事を具体的に裏付けてくれているように感じています。現在なら、若冲の<筋目書き>がわかりやすい話として繋がるでしょう。<墨と硯と紙の話><墨のすべて><書道用紙とにじみ>など興味深く拝読しました。墨の製法、墨汁のあり方など、コロイド状である事の意味は、技法への意味、絵の具の溶き方にも繋がると思っています。不思議な縁から、この本でも紹介されている宮坂和雄さんの書かれた昭和41年の文章にも触れる事が出来ました。墨について、絵の具についての考察があります。改めて思うのは、こんな昔にすでにこのような研究があったという事。絵の指導をする時、墨の選択について、難しい事に遭遇する様になって来ました。良い墨とはどんな墨なのかについて購入する側も理解してからでないと、思った様な結果が得られないこともあるのです。骨董屋、文具店の忘れ去られた棚、書道用品店の売れ残り在庫の中に使い勝手の良い墨を安価に手に入れるチャンスがあるかもわかりません。もしくは、小学校時代に使った書道セットの中、おじいさん、おばあさんが使った文箱の中などに、「使える墨」が眠っているかもわかりません。もちろん「発見」には、組み合わせる紙との相性も重要です。そうそう、以前紹介した綿臙脂の話。http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2009/042001/index.html昔手に入れていた資料の中に、詳細な使い方を記述した部分を見つけました。砂糖、みずあめの使用など特徴的な記述があります。この資料、絵描きが書いたものではない所がミソで、詳細な分析、理解したいという思いからか丁寧な記述となっています。これらには若い時に触れていた資料、文章もあるにはあるのですが、そこに書かれている意味を実感として私が捉える事が出来るようになるのにこの時間の経過が必要だったのかもと今思っている所です。
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