岡山の膠(使用実験その1)
乾燥状態で約3.6gのニカワを25ccの水に浸し、溶かすための事前準備を行いました。私の通常使用では、現在の三千本膠の場合、三千本2本(一本約11g〜13g)に水120cc、場合によって、そこに鹿膠を一欠片(5mm角程度)を加えて使用しています。三千本膠1本に水約60ccが基本として、今回の膠シート一枚は三千本膠1本の約三分の1ですから、約20ccでほぼ同じ比率となるのですが、感覚的(直感ですが・・強そうに感じたのです)に水の比率を少し増やし25ccとしました。
一晩、水に浸した膠です。 水を吸い、膠の体積が増えたことがわかります。その分、目に見える水の分量はすくなくなりました。
湯煎して膠液にします。温度もそれなりにあり、溶解した状態ではそれほど粘りを感じませんでしたが、室温(20度前後)に出すと粘りを感じました。透明度は高いのですが、空気の触れる部分に皮膜がとても早くはりました。猪から作った膠は臭いと聞いていたのですが、今回の試みで作った膠は、乾燥した状態では匂いを感じませんでした。しかし、こうして水を加え溶解させたところ、普段使う膠とは異なった匂いが出て来ました。臭くて困るというものではありません。通常使う膠の匂いとは質の違う匂いを僅かに感じました。
試しに胡粉団子を作って見ることにしました。膠を加え練るたびにバラバラになり、それぞれがグミのような質感となりまとまりません。簡単に考えていましたが、使用感が全然違います。ベトつくような粘り気は感じられず、それぞれが分離した状態となるのです。膠が強すぎるのかもと思い至りました。
団子としてまとめるべく、より膠を加えたりしましたが、状況は変わらず、すでにそれなりの量の膠を加えたこともあって、水を加えて溶かすことにしました。やはり凝固する力が強いのか、なめらかに溶けません。皿の状態で熱を加え、緩ませどうにか鳥の子の色紙、杉板に塗ることが出来ました。ダマがあるのは、完全に溶きおろし出来なかったからです。
第一回目の反省をふまえ、膠を溶かす水の分量を増やしました。膠3.6gに水60ccの比率で湯煎して溶かしました。この比率で胡粉団子を通常のように作ることが出来ました。通常と同じように叩きつけなどを行ったあと、溶き下ろすことが出来ました。もともと透明度の高い膠でしたが、水の分量がより増えたことにより透明度が増しました。
画像・写りがわかりにくくて恐縮です。団子にしたものは、透明度も高くよく伸びる胡粉が出来ました。(右側)
たらしこんだり、水との関係をみたり、盛り上げてみたりと使用感を確かめて見ました。濃度を薄く使っても十分な接着力があるようです。また、柔軟性も感じられます。 もちろん乾いてからは匂いません。実験からごく少量で十分な接着力を持つことが確認出来ました。また危惧された匂いもそれほどではなく、これが第1煎目の膠ということを考えると、第2煎目、第3煎目というのも十分使えそうな気がします。(ちなみに、テストでは第3煎目の抽出も行っています。次第に濁りが出、抽出できる量も減りました。)これらはあくまで私個人の使用感レポートです。此処から先は、ワークショップに参加され、制作される吉備国際大学・倉敷芸術科学大学それぞれの皆さんの試み、また大学に持ち帰っての科学的な検証・実際の描画に用いた感想を待ちたいと思います。 今回の試みは、私が住まいする岡山県加賀郡吉備中央町の立地が以下のような要素を持っていたことから始まりました。※1獣害という理由から、日常的に野生の猪が大量に捕獲されており、その新鮮な皮がわりと容易に手に入る。※2同様に膠という絵画他に使用される古典的な接着剤制作において、原材料確保を考えたおり、これまでの屑皮を用いたり、大量・安易に確保できるという理由からの牛皮では無い原材料選択がいろいろと試せる(猪以外も考えています)。※3膠制作のみを考えた製造行程が選択できるため、薬剤の使用などを行わず、新鮮な皮からそのまま作業を進めることができる。※4中山間地・人家が密集しておらず・高原特有の気候風土、原材料確保も含めての自然、水があること。捕獲した猪の新たな利用法が求められていた。今回、使えるニカワ自体の制作は可能ということが確かめられました。社会でそれなりのニーズ、消費が認められ、ニカワだけではない関連派生物によるものも含めて採算がとれれば新たな和ニカワとして継続的に作ることも可能かと思われます。しかし、この辺りは絵描きとしての私の分を超える話になりそうです。さて、今後どうなりますことやら。地域興し、産業創出のいくらかでもの参考になれば幸いです。実験は、協力してくださっている地元の方、川上一郎さんによってどんどん進行、技術開発、洗練されたレシピができてきています。感謝です!!。ワークショップ当日は、猪汁など準備する予定でいます。^^
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