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2/13//2013  材料技法

膠作り実験・補足(3月+追記)

■ 先日の「膠作り実験・まとめ」で、何故あのような前処理を原材料に施したのかについて紹介しました。一方、もう一つの選択として簡便な膠制作へのアプローチも提案しました。後者の実験・その後とともに先日ワークショップで作成した膠の進行状況について。
 
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左画像のようにしてスタートした簡易に膠を抽出するアプローチでした。
 
1煎目、毛・脂肪層付きの原皮を不織布で包み約10時間70℃で煮、その後この不織布袋ごと材料を取り出し、上部3分の1を破棄、抽出され残った液を別の鍋に移し替え、湯煎(90℃程度に温度を上げ)にて煮詰め、バットに出し、切り分け乾燥させています。2煎目、3煎目とも、この原皮の入った袋に新たな水を加えて、同様の行程・作業を行なっています。

1:抽出できた量が大変少なくなりました。
2:第3煎目抽出が(これまでの実験とはかけ離れて)固まりにくい状態となりました。
3:作業を進めるうち、嫌な匂いも出て来ました。

※これら結果を見る限り、あくまで推測に過ぎませんが、毛を処理しないで煮る事は膠制作において何らかの問題がありそうです。煮続けることによって固まりにくくするような成分、もしくは毛にそういった成分が付着し、液の中に出てこないのかも分かりません。また、次第に強まった匂いについても、この毛が原因のように思われるところです。(川上一郎さん・談)

 
抽出液を冷却することによって、脂肪分が固まることは確認されていますが、猪を原料とした膠作りの難しさは、この油脂分が抽出液と明確に分離しない事にありました。その対策に事前処理として原皮から脂肪層を取り去る作業を行おうとすると、またそれが大変だということも一連の作業から確認できました。

一方、鹿は生皮を処理する場合、この脂肪層が大変取りやすいのだそうです。皮革としての利用価値もあって、古来、鹿が原料として使われてきたのかも分かりません。

原始的な時代、膠の原料としては、魚なども含め、可能な限り多様なものから作られたと思われます。それが年月を経て、生産性が高く、また要求される機能に特化し、生産されてきたのでしょう。その意味で、牛皮が原料とされてきたのは、家畜として飼育され、また革製品の原材料として一般的であったがゆえに、原材料確保が容易だったことが理由のように思います。もちろん、製法上、油脂の分離が簡単だったこともあげられると思います。使用上の慣れの問題もあります。牛皮から作られた膠が日本絵画・制作においてはたしてベストなのかどうか。よりよい膠、本来の和膠のあるべき姿を新たに獲得するということを期待してもよいはずなのです。


猪皮を原料として今回制作された膠は、とりあえず使用することが可能でした。加えて文化財保存での使用・重要な絵画制作に使用出来る十分な機能、問題のない成分であるかどうかについては、今後の研究を待ちたいところです。
和膠らしい特性の獲得・確保も含め、安定供給に向けた研究も欲しいところです。せっかくの原材料がすでにあるのです。製法上のコストダウン(原皮からの脂肪層の処理を効率的に行う、もしくは抽出液から必要性分のみの分離を簡便に行う)といった今日的な研究・科学の目をもった試みが待たれるところです。今回の実験・ワークショップが一般の方々の伝統絵画、材料への興味へとつながり、また新たな研究のいくらかでもの役に立っていれば幸いです。

 
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上記画像は、倉敷芸術科学大学に持ち帰られた先日のワークショップで制作された膠の現状です。(2月12日撮影・出口くん)

これまでの実験で一番の厚み、ボリュームでの制作は、乾燥の難しさという問題にぶつかることになりました。屋外乾燥では温度上昇の問題、雑菌などの付着・繁殖による腐敗、カビなどが考えられ、次に冷蔵庫での乾燥を試みましたが、1週間が経過した現在でも完全な乾燥とならず、表面に白い何かの付着が見られるという連絡をもらいました。
確かに見た目としてのボリューム感は迫力があって良いのですが、実使用を考えた時、小分け、小さな方が使いやすいのも事実です。暑さ5mm程度にスライスして乾燥させることを選びました。
上記画像はそのごの対処の様子、扇風機による送風を試みているそうです。

※吉備国際大学では、同様に当初は自然乾燥を試みた後、冷蔵庫に切り替え、その後、冷蔵庫では湿度の調整ができないためカビが生える危険を感じ、常温冷暗室でサーキュレーターで風を常に送る方法に切り替え乾燥中だそうです。

さて、どうなりますことやら。乾燥が楽しみです。
乾燥が終わり次第、大学での科学的な調査研究、また倉敷芸術科学大日本画専攻の学生による制作における使用感のレポートなども今後あると思います。

 
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※2月13日追記 薄くスライスし、扇風機の風による強制乾燥を試みた様子が出口くんから送られてきました。

上記で紹介した画像の様子と比べて、一個一個がかなり縮んで見えます。乾燥が順調に進んだようでなによりです。

 
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※2月18日追記
新しい画像が出口くんより送られてきました。

13日の状態では、上記の画像のような様子でしたが、現在では、左画像のように乾燥が終わり、十分常温保存可能な状態になっています。
完成といって良い状態だと思われます。

 
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※3月3日追記

2月28日
第1煎目の抽出後、倉敷芸術科学大に持ち帰り冷凍保存してあった原料皮から2煎目の抽出をスタートしたと画像が送られて来ました。
出口君撮影 神上君も手伝ってくれているとのことです。

 
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※3月3日追記

3月1日
抽出行程が終わり、湯煎して温度を上げ水分を飛ばしている所です。

 
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※3月3日追記

3月1日
抽出液を冷やしゼラチン状になったものを切り分けています。

 
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※3月3日追記

3月1日
1煎目の抽出、固形化のおり「見た目のボリューム」にこだわったことから厚く、大きすぎ乾燥が遅くなったこと、結局乾燥段階で薄くスライスせざる終えなかったことを考慮し、また実使用に際しては小分けの方が使い勝手がよいので、今回は最初から小さなピースにして乾燥。扇風機を使って水分を飛ばしています。

 
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※3月3日追記

3月2日

2煎目 膠の完成
乾燥し、完成した状態です。左画像は1煎目、一瞬ですが温度が上がった鍋の原料から作ったものです。幾分、抽出出来る量が減りました。
次に紹介する画像が、1煎目抽出時、温度を上げなかった原料皮からのものです。

 
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※3月3日追記

完成した2煎目膠

1煎目抽出時、温度を上げなかった原料皮からは多く作る事が出来ました。

 
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※3月3日追記

参考画像
2煎目が乾燥に入ると同時に、3煎目の抽出がスタートし、あとは切り分けるだけになった状態です。
二煎目、右上(一瞬、温度を上げてしまった材料皮より)、左上(温度を上げなかった材料皮より)です。両方ともまだ完璧には水分は飛んでいません。このあと扇風機によって風をあてた強制乾燥しました(3月1日の画像参照)

> 三煎目、(温度を上げなかった材料皮)結構な量がとれました。二煎目と同じくらいか少し多いくらいです。まだ切り出すにはやわらかそうです。左下(温度を上げてしまった材料皮より抽出)、こちらは切り出し可能なくらいにはなっています。おそらく順調です(^^)(3月2日 出口君より)

吉備国際大学も1煎目が無事完成し、2煎目の抽出を終え、乾燥に入ったとの連絡をもらっています。

 
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※3月6日追記

3月5日、出口君より3煎目抽出の膠が無事乾燥したとの連絡と画像が送られて来ました。途中で温度を上げてしまった原料と、そうでない原料を最後まで分けて実験・抽出した事により、貴重な実験結果を得られたと思われます。

 
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※3月9日追記

3月8日、倉敷芸術科学大に持ち帰られ、乾燥を行った第1煎目の膠、時をおいて同時に持ち帰られた原料皮から第2煎目抽出、第3煎目抽出を行って作成された膠の乾燥が終了し、全ての制作行程が終わったと出口君より連絡をもらいました。
左画像は、第1煎目の完成膠を計量中の様子です。
 
  





抽出回数
  A鍋

1:約70℃で7時間程度抽出
2:原料皮を取り出し、湯煎で水分を蒸発させる)(90℃前後まで温度を上げて)
  B鍋

1:約70℃で7時間程度抽出
2:抽出終了間際数分90℃以上に温度を上げた
3:原料皮を取り出し、湯煎で水分を蒸発させる)(90℃前後まで温度を上げて)
1煎目抽出
51g
125g
2煎目抽出
50g
43g
3煎目抽出 25g
21g
抽出合計
126g
189g

 

倉敷芸術科学大で作成された膠の総グラム数が315gということですから、吉備国際大学にも同量の膠、原料皮を持ち帰っていますので、単純に2倍すると、
体重が約50kg程度の雄猪1頭の生皮を原料として   

第3煎目まで抽出すれば、 乾燥重量として約630gの膠が作れたと想定出来ます。
(吉備国際大学からの結果は来ていませんので、あくまで推測です)


※ただし、1煎目のA鍋がB鍋の半分以下しか抽出出来なかった理由は何故か気になります。原料は同量に分けて抽出したはずです。もし、この差を生んだのが、一度1煎目に温度を上げた事だったとすると、わざと?温度を上げて量を取ることも可能ということが推測されます。バットから切り出すとき、温度を上げた方が粘りが強い触感だった事が思い出されます。強度、量を得る為には温度を上げた方が良いのかもわかりません。一方、柔軟性の確保という観点からは温度を上げない方が良いのかもわかりませんが、科学分析、また実使用での調査に注目したい所です。

1煎目の結果にちょっと差がありすぎるのが気になりました。吉備国際大学の調査結果を待ちたいと思います。2煎目以降の結果については想定内でした。

<仮定の話>
たくさん取れたB鍋と同じ様?にすべて抽出したと仮定すれば、1頭から約700g程度は作れそうに考えられます。

現状販売中の3千本膠一本が約12gとして
700÷12=58.33333 約58本分のグラム数となります。
ただし、私の実験では、2煎目の膠でも3千本膠の3倍程度に薄めて使えそうだったのでこの3倍程度の使い出があると仮定すれば本来の3千本膠58×3=174(本分)程度には使えそうですね。

倉敷芸術科学大の現在手持ち分は、
315÷12=26( ×3倍 =現在の3千本膠換算 76本分 )

猪膠4g (12÷3=4g)で3千本膠1本と想定。
ちなみに第1煎目はより強力でしょうし、3煎目は少し弱いと思います。安定な使用には、ブレンドして使うなど工夫が必要だと思われます。
  
  

 
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※3月9日追記

川上一郎さんの実験も進行中です。

いかに手をかけずに膠を抽出する事が出来るか?。
課題は、原料である猪生皮に含まれる余分な油脂分を、牛皮や鹿皮などを原料にした場合とは異なった何らかの簡易な除去法見つけ、制作作業を簡便にする事。また特有の匂いをどうするかでした。

使用してみての実感として、臭くてかなわない強い匂いではありませんでしたが、獣を感じる特有の匂いがほのかにあるのです。今まで使って来た膠とは異なる匂い、気になると言えば気になったのです。
対策としてまず試みたのは、脱臭材にみられる活性炭と同じく炭、備長炭を一緒に煮て脱臭するという試みです。
原料とした猪皮は処理済みのものを用いています。
 

 
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毛も脂肪もついた原料皮を使っての抽出にも炭を加えた実験を行っています。

炭には油脂分を吸着するという性質もあるのだとか。

 
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油分除去の為の今日的試みを試しています。
はたしてうまく行くかどうか?

この実験サンプルは、現在、乾燥行程に入っています。^^