新・膠制作手法開発実験
通常の膠制作行程で一番大変な作業である、原料生皮の毛、脂肪層の除去について。<制作作業を今日的な視点で見直してみる>原料となる生皮をこれまでのような前処理をせずに膠の制作を試みる実験を先日行いました。今回は今日的な素材を使っての制作実験です。
行程1水洗い、細かく刻んだ猪の生皮をそのまま不織布に包み、70℃程度の温度で膠抽出を行います。(毛、脂肪層はそのままです)※原料皮がちょうど浸かる程度の水を加え、温度を与えます。約7時間煮だしました。70℃という設定温度は、和膠制作の勘所として保水力維持(使用時の柔軟性確保)に効果があると思われる成分を壊さない(参考資料より)ためです。
行程270℃での抽出が終了したら、原料皮を袋ごと引き上げます。(次に膠を凝固させるために、温度を上げ余分な水分を気化させる行程に入りますが、原料皮を入れたまま温度を上げると、これまでの実験から抽出液に色が濃く着き、また粘りが強くなる事がわかっています。また、毛もついたままの原料皮からは嫌な匂い、不必要な成分が出てくる事も考えられる為、引き上げます。)抽出液の中には絵画制作には過剰な油脂分なども入ったまま(これまでの実験から類推)です。
行程3湯煎することで、90℃前後に加える温度を固定して、余分な水分を飛ばします。水分を気化させ、最初に加えた水分の約10%程度になるまで、もしくは表面に皮膜が出来始めるまで水分を減らします。
行程4凝固しやすい水分量に煮詰まった抽出液をフィルター材料を工夫して濾します。1:炭を砕いたもの匂い除去、不純物の除去2:ポリプロピレン繊維油脂分の吸着材
行程5煮詰め濾された抽出液を冷却しゼリー状態にします。
行程6使用に際して使いやすい大きさに切り出し、乾燥行程に入ります。※この時注意するのは、気温です。また強制的に風を当てるなどしてなるべく早く乾燥させる事により腐敗等のリスクを下げる事が出来ます。
膠の完成完成した膠の使用調査、科学的な分析・研究はこれからです。実験、検証に参加くださった吉備国際大学・倉敷芸術科学大学の皆さんの今後の研究に期待しています。
1:今回の試みの意味は、ポリプロピレン繊維、炭(活性炭)といったこれまで膠制作に使われてこなかったと思われる素材を用いることによる制作における労力、コストの削減です。2:また、原料として生皮を用いるということも、皮革材料としてあらかじめ処理されたものを原料に使う事が一般的だった近年の膠制作とは異なっています。3:私が住まいする中山間地域と呼ばれるようなエリアでは、現在、生態系の変化や、高齢化も含めた狩猟人口の減少などによって、増え過ぎてしまった野生動物による農作物被害が問題(一般的に害獣被害と呼ばれていますが、この「害獣」という呼び方はよくないという意見があります。人間の都合による「害」なのですから。※3月16日追記)となっています。捕獲された猪や鹿について、ジビエ料理、地域の特産メニュー作りなどで利用を見いだそうとしていますが、この膠制作の原料化というのも同様、それらの有効資源化を念頭においた試みなのです。(ただし事業化については、いくつかの管轄法をクリアする必要があることも今回の試みでわかりました) 4:これらの試み、実験、ネットでの公開・資料化が問題・知識の共有においていくらかでも役にたてば幸いです。※暖かくなり、膠制作に適さない気温となって来ました。今シーズンの膠制作実験はこれで終了です。
参考画像 ポリプロピレン繊維による油分除去フィルター※市販の油分除去・吸着用に売られているものを使っています。もともとは海などでの油流出事故において、オイルフェンス材料等の用途として開発されたもののようです。
参考画像 炭を砕いたもの手作り 匂いとり、油脂吸着フィルター
参考画像 猪膠特有の匂いを除去する実験として備長炭を原材料と共に煮て作った膠サンプル。
参考画像 上記画像膠を実際に使用する状態にして匂いをチェック。匂いのかなりの部分を取れることが確認出来ました。
参考画像 上記画像膠を製作中の鍋の様子処理した原料皮と共に備長炭を一緒に煮ています。
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この辺りをどうにか出来ないか??その部分に関する提案、実験、試みを紹介します。
※全ての実験作業は、地域の協力者:川上一郎さんによるものです。