高橋史光作「桜狩図」屏風の修復・補彩
欠損部分、30センチほどの高さで横に穴を覆い隠すように貼られていた紙を取り除き、オリジナルがなるべく現れるように紙をあてがい埋めてあります。前回補修のおり、糊も強くその跡がかなり残っています。また、前回補修時に貼られた紙に対しての補彩がかなり強く塗られており、より上部の草履あたりにもその痕跡の灰色が見られます。
同様にその左隣の扇にも欠損があり、こちらはより大きい穴でした。重要な足先、足袋、草履の部分が欠損しており、この部分を新たに描き足して違和感をなくす方針としました。屏風に描かれた他の人物像(六曲一双で9人)を参考にして、着物の裾、草履、足袋を加えました。検証の結果、左足のみの描画にしています。
※ どのように足を描き加えるか、検証作業中の図案制作。この場合の試みでは、両足を描く方向で検討していますが、着物の裾捌きを考えた場合、上部との整合性に乏しく、上記、左足のみの描画に決定しました。
「桜狩図」を表す重要な桜の枝、ほとんどの桜が剥落しており、残る胡粉の厚みを参考に補彩をし、桜を描きました。
その右隣も同様です。蕾、そのガクの部分、花芯なども残った絵の具、筆跡を参考に描き加えました。
屏風に描かれた多くの人物、顔で見られた特徴的な剥落の様子。鼻、手などいわゆる「照り隈」と呼ばれるような彩色部での剥落がかなりあり、オリジナルを極力残し、その剥落部を埋めるような形で補彩、修復を試みました。
穴の跡、欠損部分を塞いだ跡など、他の残存する部分に準じた色を加えて調整しました。また猫のツメによる傷跡などで画面表面が荒れた部分など、注意深く同色を膠とともに薄くかけることで絵の具の定着を増すように試みました。着物、着物に描かれた柄、帯などの模様なども剥落部を補っています。
鼻、手、目の周り、着物の柄など補彩を終えた様子。
左二扇の最下部、30センチ程度が穴(欠損)のあった部分です。中央人物の左足、草履、足袋、着物の裾を新たに描き加え、また地面の色を損傷の無かった部分に合わせて彩色しました。群緑色の着物については、かなり擦れ、傷、剥落が見られたため、同色を調合、一見して気にならない程度に補彩しました。また刀を持った右袖下の部分については、おそらく先の補修(左隣、帯の絵の具が張り付き、それを消そうとした跡)で塗られた絵の具によって黒く調子を崩していたため、このあたりも同色で隠すように補彩しました。手、顔の胡粉の剥落も同様に直しています。欠損部分の補修についてはオリジナルの状態を極力残す方針としたため、紙の厚さ分の段差が彩色時に気になりましたが、遠目で見る分では色味、明度、質感等気にならない状態には近づけたと思います。今回、補彩を行うことで、基本となる絵の具の溶き方、重ね、塗り方といった伝統的要素の普遍さを改めて感じることが出来ました。このあとこれらは、もとの六曲一双屏風の状態に戻され、倉敷屏風祭 10月20日(土)、10月21日(日)の両日、倉敷市立美術館3階に展示予定とのことです。また、このおり、倉敷東町はしまや呉服店 では、私が制作した「緋鯉図屏風」を展示予定。加えて、今年度、倉敷芸術科学大学総合プロジェクト演習で取り組んだ学生制作による屏風作品(岡山県表具内装協会の多大なバックアップ、指導により屏風自体も作りました。)も上島提灯さん、町家トラスト、まちなか研究室東町、そして!!阿智神社能舞台に飾って頂く予定です。乞うご期待!!。
左隻
右隻
2019年3月 屏風仕立て完成画像追加
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