倣日山水図制作
この絵画の何に惹かれてきたのかといえば、私が当時日本的と考えていた絵画的要素を見事に持つ絵画だったからです。・・・と、今にして思えばといったところも無くはありませんが、あの頃からとにかく気になる絵画だったのです。
直に拝見できたことで、多くの発見がありました。これまで思っていたことのいくつかが正しいと確信出来たこと、また同時にまさにこうだったのか!と、初めて気づくことがあったのです。実験して描いたらどの様に見えるだろう。試して描きたい気持ちもありましたが、当時、制作・取り組んでいたtenjin9の能舞台、鏡の松制作もあり、またコロナ禍の慌ただしさから、そのままになってしまいました。
また当時2021年に予定していた個展がありましたが、大学勤務が予想外に慌ただしくなった(学部長から副学長になりました^^;)こともあり、延期することになりました。その延期した個展開催は来年2023年です。そのおりのメインにできる絵画をと思ったときに、この絵画に倣って描く、今回の倣日山水図を思いついたのです。実物を直に拝見して自分がこうだろうと材料や描き方を考えたことを実際に描いて試してみることにしたのです。
この機会をいただく経緯も、実はこの絵画の再現を試みようとしていた方々から材料や描き方、技法などについての質問をいただいたことから始まりました。2011年に行った尾形光琳の国宝 紅白梅図屏風の描法再現に関わった話にも似た流れだったのです。一度直に見せていただけたらという話が実現し、その折気づいたことなどを関係者にお話して、その折はそのままになりました。そしてコロナ禍も少し落ち着いてきた今年、3年ぶりに開催される倉敷屏風祭に学生も参加する、ならば自分も新作をとごくごく個人的に始めることにしたのです。
屏風はすでにあったものに白麻紙を貼って描きました。本物とは縦横比も違えば、大きさも違います。構図も微妙に異なります。本来は六曲一双ですが、右隻のみ描くことにしました。実物を拝見して私が感じた「気分」を再現できるかどうか?そして描かれた当時はこうではなかったかと想像しながら描いたのです。波頭の表現、空の表現、もしかしたら!!と思ったことを実際に描いてみたのです。
東京文化財研究所の刊行された 国宝 日月山水図屏風 光学調査報告書も参考にしながらの作業でした。白い絵の具、鉛白の使用を明らかにしてくださったことは大変ありがたい資料となりました。いわゆる「盛り上げ胡粉」・「腐れ胡粉」などと呼ばれる材料が丹と胡粉により作られたことなどと照らし合わすことで試すことが出来たのです。現代、鉛白を使うことは殆どありません。これを機会にと使ってみたところ、色の違い、また性質の違いなど、そして溶く折の膠との相性のことなどいろいろと興味深いことを知ることが出来ました。
波頭の表現、雲の表現、実際に行ってみてもっとこうしたらといったことも気づきました。何よりも屏風の形状との関係、箔を使った結果、光の反射といったことも多く気付かされたのです。緑青の山など絵具の使い方自体は、ある意味で土佐派や狩野派的といいますか、基本通りのように思いました。海にも薄い鉛白の使用があることについてもその意味を感じることが出来ました。切金短冊、銀砂子、金箔の使い方・・・尾形光琳の紅白梅図の再現に関わらせていただいたからこそできることもあり、再び不思議な縁を感じる事になりました。
屏風という形状、横からの光。描き進めることでワクワクする姿が目の前に出来てきたのです。はたして本当にこうだったかどうかはわかりませんが、タイトな日程、制作時間でしたが集中して作業を行うことが出来ました。
画像はこの10月15日、16日両日行われた倉敷屏風祭、東町のはしまやさんに飾っていただいた折の様子です。名付けて「倣日山水図」です。琳派の源流といったことも実感しました。そもそも日本美術そのものといってもよい絵画なのではと個人的には思うのです。この祭りでお目にかかった方々、この絵をもとにお話させていただいた方々からの様々な話、私の好奇心をますます刺激してくれています。
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