膠作り実験・まとめ(3月+追記)
1:膠(にかわ)制作について岡山の膠(膠製作実験その1):何故こんなことを始めたのか?の話http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/112801/index.html今回の作業記録:岡山の膠・墨・和紙漉き体験ワークショップ記録1http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/020401/index.html今回の作業記録:岡山の膠・墨・和紙漉き体験ワークショップ記録2http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/020501/index.html岡山の膠(膠製作実験その2)実際の作業工程紹介http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2012/121301/index.html
今回のワークショップに参加された方々の中にも、何故こんなに丁寧に表面の毛や裏側の脂肪分を処理しなければならないのか不思議、疑問に思われた方もいらっしゃると思います。以下にその辺りについてをまとめます。単純に「皮を煮てゼラチン質を取り出せばよい」、当初実験は「煮こごり」と同じものなのだから簡単に出来るという想定のもとに始まりました。
左画像は、猪の骨などからの抽出を試みた実験の様子です。70℃の温度で約9時間抽出しました。煮ることによって油分が表面に浮き出してきます。一度冷却し、ゼラチン状にすると、層状に分離し、油分と思われる上層、ニカワ成分と思われる下層と簡単に分離することが出来る事がわかりました。 牛皮を原料とする行程でも同じと聞いています。
上記のようにして作られ、乾燥したものが左画像です。乾きにくいモノとなりました。また、匂いも強いです。紙袋に入れて保存していると薄っすらと油染みが付きました。絵画用として使うとなると問題です。分離した部分を取り去るだけでは不十分であり、まだまだ作成したニカワの中に溶け込んでいる脂肪分があるためと考えられました。皮だけを煮たケースでも同様で、煮出す事前の皮処理・程度によって、乾燥行程が進む中、油分が表面に浮き出してくるものもあったのです。
上記結果を受けて、入念な事前処理を施した実験を実施しました。一度凝固させ、分離させることでそれらを取り去ろうとしても、抽出液そのものの中に溶けこむ形で油脂分が残っており、乾燥の過程で、内部での受容が飽和し、表面に油分が出てきたと考えたのです。このことから煮てからの分離は難しいと判断し、事前の脂肪処理を入念に行うことにしたのです。上記画像は、3日ワークショップ当日、午前での作業で鍋からバットに移し、固形化した膠の原料、入念な処理を行ったテストピースの原料皮、表裏を並べた画像です。
左画像は、そうした処理を施した同様の原料から作ったサンプルです。 2煎目のもので、私が実際に胡粉を溶いたり、墨を作る実験に用いたものです。(使用感については、別ページ参照をください。)使用感としてはすでに書いた通り、通常のものに比べ三倍程度薄めないと使えないほど強いものでした。透明感もあり、またサラっとした使用感の割に接着力が感じられます、同時に柔軟性も感じられました。上記の結果を受け、今回のワークショップでは、絵画制作において使用する膠として猪の皮を原料として用いても十分な能力を持った上質のニカワを作ることが可能という実証実験とすることを目的としました。成果物の科学的な検証については、吉備国際大学、馬場先生、棚橋さん、分析の先生、また倉敷芸術科学大学の方々に期待しています。
左画像は、今回のワークショップで完成した膠です。現在、各大学に持ち帰られ乾燥の工程に入っています。ワークショップ記録ページで少し紹介しましたが、手前と後ろ、色が異なっていることがわかると思います。この違いは、煮出す行程中、本来なら70℃前後で行う作業で一瞬温度が上がった鍋があったことによるものです。原材料を入れたまま、短時間であれ沸騰に近い温度を加えることで、このような色がついてしまったのです。
最後の湯煎により水分を飛ばす行程で原材料を予め取り出すのはこのためです。水分を飛ばす行程では温度を90℃前後にまで上げていますが、このおりには抽出液に目立った変化はありません。温度を上げることで何らかのものが原料皮から出たと考えられる根拠です。今回期せずしてこうした状況が生まれ、バットから切り出すおり、その手に加わる抵抗感の違いがありました。明らかに抽出時に熱を加えた、色のついたモノの方が粘りが強く、固く感じられたのです。厳密には結果物の科学的な調査が必要ですが、温度を上げることで、色、また接着強度も強くなるのではないかと思われます。
難波さんがお持ちくださったヨーロッパの膠サンプルは、透明度の低い濁ったものでした。難波さんいわく、今回のワークショップで作ったモノに比べより粘りの強いものだそうです。一連の実験からの推測ですが、ヨーロッパの膠は、原料として皮以外のモノ、部位も使っており、より高温で煮出していると考えられます。
事前の実験では、文献資料、ネット上の情報などいろいろと参考にさせてもらいました。単純に<膠・ニカワ・にかわ・制作・作る・皮・皮革・処理>等、考えられるキーワードのそれぞれの組み合わせ、検索だけではなかなか欲しい情報に辿りつけませんでした。別のサイト、それぞれのページ、情報を組み合わせて試みを続けたのです。
まず問題になったのは猪の剛毛でした。いかにこの毛を手をかけず簡単に処理できるかが試みられました。白鞣し(しろなめし)という皮の処理方法から、川、流水に漬けることも試しました。水中のバクテリアの働きによって毛が抜けるようになるという情報でしたが、なかなか成功しませんでした。左画像は原料皮を入れて水中で撹拌する装置です。 ワークショップ当日、不思議なことに、初めて皮から毛を簡単に抜くことが出来ました。数日前の暖かさ、水温がバクテリアを活性化したのかも分かりません。 このほか、熱湯を皮にかけ処理するという方法(沖縄方面では猪の皮も一緒に食べる調理法があるのだそうです。綺麗に毛を取った姿がネットで紹介されていました。)も試しましたが、これはうまくいきませんでした。直に見ることによって、もしくは作業する方から直接ノウハウをお聞きすることが出来れば、方法は確かめられると思われます。
今回の膠作りは、ある意味で最上級のもの、文化財保存にでも、絵画制作にでも、使える膠を目標に、猪皮を原料にして、加えてかつてあった手法を基本に制作を試みたわけですが、、、、。話を元に戻して、これほどの手をかけないで膠づくりをする手法を見つけ出すことも今日、重要なことだと思われます。原料となる猪、鹿などが害獣として田舎ではすでに捕獲され、利用法が研究されているのですから。 上記画像は、猟師さんが剥いだままの毛も肉も脂肪もついたままの皮を、水洗いを行ったあと細かく切り、袋に入れて煮出している様子です。実は猪皮を原料とした場合、牛皮を原料とした時とは違い、途中で一度固まらせても脂肪分は明確に分離しないことが実験でわかっています(骨を用いたときは分離しました)。ですから入念な脂肪の除去を事前に行ったのです。一方、それが一番手がかかること、コスト上昇にもつながります。また、日本画の画材、膠の原料として有名な鹿ですが、この点において皮の事前処理で脂肪層を剥がしやすいという特性があるそうなのです。原料確保・処理のしやすさから牛や鹿が使用されて来たのでしょう。上質な膠作りという当初の目的がワークショップで達成されたとして、今日的な手法の模索実験も行なっています。不要な成分をいかに分離するか。今回は分離しないまでも、こうして煮だしたモノを一度さまし、上部3分の1(このあたりにまとまって溶けだした脂肪分が存在するというネット情報より)を無条件で捨て、脂肪分の除去を試みました。完全ではないにしろ、見た目としては、ワークショップで作ったような状態に近づいたようにも思います。
左画像は、上記のようにして作った抽出液です。透明度もあります。この抽出液から何らかのフィルターを通すことにより、求める性質の膠作りができるとしたら、製作コストも安く供給が可能になるかもわかりません。どのようなフィルターの機能が必要かは科学からのアプローチが重要になるでしょう。研究を期待したいところです。
★実際の使用について
事前実験で制作した1煎目、2煎目、3煎目(画像左より)をブレンドして墨製作用の膠を作り、今回のワークショップ1日目に用いました。
こまく砕いて約200ccの水に溶かしました。(これまでの実験から三千本ニカワの約3倍に薄めて使用)この状態を湯煎し、吉備高原産カーボン(くん炭製造過程で採取された粒子の大きさのバラエティーにとんだものです)に加えることで墨を作ってみました。
カーボンの粉と膠を交ぜ、固めていく。日本画関係者なら当たり前に普段行なっている胡粉団子作りをイメージしてください。ただし、胡粉のようには簡単に行きません。なぜならカーボンの粉はなかなか膠と混ざらないのです。ワークショップではそのあたりを考慮しラップで包み込むことで難易度を下げました。同時に手をあまり汚さないで作業出来る手法になっています。なんども摘み、揉むことでまとめられるよう工夫しましたが、どうしても膠を隅々まで行き渡らせ、全体に膠を十分に廻すことは難しく、多くは着きの悪い墨になってしまったようです。このことは手持ちの松煙を材料にした場合に顕著でした。慣れているはずの私でも相手がカーボンの細かい粒子となれば、むらなく混ぜ合わせることは難しかったのです。ただし結果的にこのことは、墨中に含まれるニカワの量を必然的に減らし、経年変化によって珍重されるような古墨に類する墨を創りだしたようです。含有するニカワ分量の少ないいわゆる枯れた墨、それも部分的には伸びがよく、水に溶けやすいフレッシュな膠を持った墨を作ったことになったのです。
左画像は、華蓮箋に今回ワークショップで作った墨を使って遊びで描いたサンプルです。濃い部分など、固着が少々不安定な箇所もありますが、それなりに使える墨となっています。事前に実験制作を行った膠での使用実験レポートについては以下(1/24//2013)岡山の膠(使用実験その1)http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/012401/index.html
参考画像 1煎目、抽出し濾したあとの原材料皮
参考画像 不織布により濾した残存物
参考画像 3煎煮だした後の原材料皮 乾燥後の様子
※ 紹介している画像は、クリックすることで少しですが大きく表示することができます。
※左画像は2月18日:乾燥が終わり完成した状態のニカワの様子です。膠作り実験・補足<2月13日+2月18日+3月3日>簡易な抽出法実験について、2煎目、3煎目の抽出とその完成画像他http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/021301/index.html
※3月2日 追記2月28日 山陽新聞夕刊 膠作りワークショップを紹介する記事が掲載されました。画像をクリックすると大きく表示されます。
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