切箔と竹刀 その3 天平筆 表具
工芸で使う少し厚い金箔、ズミと呼ばれるものを、ガラスの迫田先生が今回作った竹刀によって試しに切っている様子です。ズミは、日本画で用いる一般的な箔よりもかなり厚く丈夫です。細く切ってもなかなかちぎれるといったことがなく細かな装飾表現に有用に思われました。所謂合せ箔、もしくは何倍箔といったものでしょう。迫田先生との話の中では、やはり炭の熱で箔に縮みをいれ、合わせ箔としたもののメリットもあると聞くなんていう話も出ました。 工芸的な要素が多々見られる伝統的な日本画制作の世界、曲げた場合の延び縮みする余裕分としてこの縮みが有効に働くのではないかと推察されます。迫田先生と自作の竹刀が十分実用になることを確認できました。より実用に適したベストなものを求めるため、原材料確保を冬の時期に行うこと、また油抜き、乾燥を十分に行おうというはなしになりました。
左画像は、先日東京に出たおり立ち寄った得應軒本店さんで見せていただいた再現制作された天平筆(有芯筆・紙巻き筆)です。先日完成した拙書「畫の本<技之巻>」では、筆の機能、構造、歴史などを手がかりに「線」の良し悪し、筆を動かす運筆や筆法の基本にせまろうと試みています。この有芯筆のことにも一部触れていますが、筆の歴史を考える上でこうしたものが決してひとつの流れだけで成立しているのではなく、社会の階層的なこと、ただ毛を束ねただけの粗野な筆の流れも一般にはあり、用法他そのことも無視できないということにあらためて気づくことになりました。東京で暮らしていた頃、こうした問題意識、考え方の基本に出会わせ、導いていただいたのが関口研二さん(著書「古筆の流れ」 2009年・芸術新聞社 他)でした。落款を作っていただいたのがご縁でしたが、その後も折りに触れ多くの教え・示唆をいただき感謝するばかりです。現在、芸術新聞社の隔月刊「墨」に「古筆細見」を連載されています。連載の第一回は、<空海 座右銘>でした。続く連載、使うことばこそ違えど、追い求める先の共感といったものを感じる事ができ、とてもうれしく、また元気づけられながら拝読しています。興味を持たれた方がおられましたら、この連載、バックナンバーをお読みいただくとまた違う言葉で、筆を持つこと、線を描くこと、学ぶことについてに触れられるように思います。今回の東京行きでも久々にお目にかかることが出来、また新たな気付き、探求のヒントをいただきました。先程紹介した筆の発展の歴史と階層文化との関係といったこと、そして筆の持ち方、生まれる線の違いについてです。拙著「畫の本<技之巻>」校正漏れの正誤1)P020 誤)単行法 双行法 正)単鉤法 双鉤法上記ページでは、「骨描き」に触れています。筆の持ち方についての紹介です。細く強い線、鉄線描。そして次に軽やかな柔らかさを線に求め、実現しようとしたとき、またそれも歴史に学ぶことが出来るのかもわかりません。
今回の東京行きでは、実際にこの持ち方を基本とした運筆の様子を教室で拝見することが出来ました。また使用する紙との関係、筆自体も実際に使われているモノに触れられたことは、大きな収穫でした。この先については、またいづれ。
東京神田淡路町得應軒本店 店内の様子です(特別に撮影を許可していただいています)店自体は建て替えられ昔と変わりましたが、箪笥・引き出しに名残を見ることが出来ます。このお店で「即妙」や「削用」、「長流」といった筆が絵描きと筆職人の交流の中生まれたのです。
広く価値観を共有する中、生み出されてきたそれぞれ。筆職人さんの高齢化、後継者確保も大きな問題だとか。もちろん良い原料を確保することも大変なのだそうです。自分が思い描く 実現したい世界のためにほしい筆とはどんな筆なのか?。また刷毛とは?。
岡山で出会った表具屋さん。もとはと言えば、手に入れた時代を経た屏風の修理を近いところでということからでした。和紙・表具材料を扱うお店の紹介からのご縁、そのうち、こうして岡山県表具協同組合の行う「表具美術展」にも顔を出すようになりました。今年が第49回、来年の第50回でもしかしたら恒例のこの「表具美術展」を止めてしまうかも・・・・という話しをすこし前に聞くことになり、何かできないかと動き出した企画展が今年天神山文化プラザで行われる「表装」展です。
若い頃に、関係するギャラリー、画商の方々から社会一般としては、額装が主流となる中、少ないながらも仕事として軸装、屏風の作品を依頼されたこともあり、古い文化、歴史的な何かに触れさせていただきました。制作にあたって職人さんと直接お話させていただいたこと、教えていただいたことは、私の制作において多くの刺激となったように思います。有り体に言えば、ビジネスとして上手く回らなくなったから止めなければならなくなったそれぞれ、なにかしら次の時代に繋ぐお手伝いが出来ないか・・・それは表具屋さんだけではなく、アーティストにとっても大切なことのように思うのです。もちろんそれは地域を考える、生活することを考えることにも繋がります。
若い作家の方が色々な出会いを経て初めて作られた軸装です。まず作品自体は、華鴒大塚美術館で昨年行われた風呂敷展<ふろしき 原画 包むための絵 2016年04月13日>のおり、ワークショップ(参加者オリジナル風呂敷の原画制作を墨と水、和紙が作り出す世界として楽しみました)で制作したものです。http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/topcontents/news/2016/041301/index.html裏打ち後、写真撮りして風呂敷原画としました。見ればなかなかよい墨色、表現の多様性が確保されています。これを使って表具、軸装してみようという話になりました。自由な発想、所謂中縁は銀箔貼り、箔足も味として、またその上下はダークな絹、濃紺に近い色、軸先はガラス作家によるオリジナル、その色に合わせて作品の縁を細く飾る・・・・表具展に参加された他の表具屋さんからも注目していただく作品となったようです。また作家・玄人から・・・墨の仕事としても、紙のこと、墨のこと、技法のことと質問を受けていました。何かしら面白い刺激となったのではないでしょうか?多くの現代美術作家が関わった「表装」展、あまりにストレートなタイトルです。若い作家が制作を通じて表具屋さん、表具と出会いを深める内、このタイトルに落ち着きました。「初めまして」の気持、素敵な出会いの展覧会になれば嬉しい限りです。アートの今・岡山2017「表装」 天神山文化プラザ開会7月19日(水曜日)月曜休館〜7月30日まで 表具と関わる若いアーティスト・作家たちは、絵画・写真・工芸・インスタレーション7グループです。
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