水と遊ぶ <たらし込み>岡山県立美術館ワークショップ
「水と遊ぶ」と題した今回のワークショップは、これまで墨や、筆、紙を、長期間に渡って安定に大切なことを記録する道具として捉えて展開し、価値観を発見してきたこれまでとは大きく異なり、機能からの展開、「用」から見つけ出された美の世界を体験しようとする回となります。「琳派」というと、今日に直接繋がるような意匠性、装飾性にまず着目されます。確かに一見、そのとおりではあるのですが、しかし、私は、今回試みた琳派の代表的な技法である「たらし込み」、材料とその使い方の関係性の発見にこそ、この国の美術ならではの展開が潜んでいると捉えているのです。本物の素材を使ってこそわかる何か、発見の世界。皆さんに楽しんでもらいました。
※「琳派」と「たらし込み」についての考察多くの水で薄められた油煙墨によって、なみなみと溜められたシルエット、形。この水の多さにこそ秘密はあるのです。膠の使い方、接着のみではないその機能の一部が重要な役割を果たします。絵の具の粒子に付着した膠が界面活性剤的な働きをするのだとか、水の中で絵の具がコロイド状態を維持するのに必要な要素でもあるのです。(※これは墨汁でカーボンが沈まない理由でもあるそうです)。水の中で絵の具の粒子が自由に動きやすく出来るように溶くことは、暈しなどの技法でも重要な役割となることは想像出来ますね。^^絵の具の溶き方、実際に参加者の皆さんに溶いてもらいます。天然群青、天然緑青といった自然の鉱物を素材としたもの、金、銀といった金属、松煙墨・カーボン、それぞれの重さ、比重が水の中でのそれぞれの動き、位置を決めるのに大きな役割をはたすことを知ります。もちろん、先に紹介したコロイド状態をいかに長い時間維持できるかの方法論も含めての実習となります。加えて金泥を発色させる秘密も・・・・・。水の中でその比重に応じた沈殿が静かに行われること。「あるべき沈殿」が行われない場合には、発色、絵肌は好ましいもの(意図的に荒らす場合は別として)となりません。このことは、筆を使って描くときも実は同じ。だから絵の具、筆は「おくように使う」という言葉が存在していると思っています。<運筆の秘密>とも関連していることがわかっていただけると思います。 「たらし込み」の発見は、当初、基底材の凸凹をいかに克服し、安定な記録を得るかということが目的の一つであった「水の使用」に、新たな価値を見つけ出したのだと思うのです。水が流動性を持っていたり、蒸発するといった性質は、特殊な状況で無い限り何時の時代も同じ、ひとつの時間を現す基準になりえます。歴史、時を超えて同じ事をしようとすれば、「水の性質」という変わらぬタイマーが、古の方々、尊敬する絵描きたちと今の私をリアルに結んでくれる存在になるのです。琳派とは時を超えて、この時間感覚の共有・価値観の発見を絵を描く作業、水を使う作業の中に見つけた人々ではないのか?それらは、身体感覚にも及ぶのです。 ※このところ講演会等でお話している尾形光琳作、国宝:紅白梅図描法再現の一つの勘所となる話です。(硫黄粉による硫化についての話は別として)
内容的に難しいまとめになりました。^^;理屈を言えば・・・・・・ということで、それはこのホームページを訪問してくださった方々がまた知ること。ワークショップでは「作業」「体験」が全てです。小学生も参加されていました。楽しんで制作されていました。また大人も絵の具の発色に素直に喜ばれていたようです。素敵な葉書が出来ました。さて、皆さん誰かにだされたのでしょうか???樹脂粘土「おゆまる」を使ったハンコ作りも大好評でした。http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/073001/index.html楽しんでいただけたとしたら嬉しいことです。
※ 8月17日追記 ワークショップ画像岡山県立美術館の研修室の様子。小学生から一般の方までと幅広い年齢層の方々の参加です。<たらし込み>という技法を使っての季節の葉書作り。
本物の材料 天然の岩絵具(群青・緑青)、純金泥、膠を使って絵の具にするところから始まりました。うまく溶けた金泥の発色はどんなものなのか、そして「水」をうまく使うことで誰もが絵の具に本格的な発色をさせる事ができることを体験してもらえたと思います。
美術館でのワークショップならでは・・・細川家の名宝展、実際に展示会場で該当作品を見ながら解説しています。 どの部分にどんな技術が、そして工夫が・・・。実際にワークショップで体験したからこそ言葉が響き、理解につながってくれればと思うのです。
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ちなみに、第一回、第二回のまとめについては、以下リンクを参照ください。
※ この国の価値観・再発見ワークショップ
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2013/022201/index.html