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3/2//2009  「無い」から始める日本画講座

使用する画材の説明 その1

■ 今回の講座で用意いただく画材それぞれについての説明です。購入、用意する時の手がかりとしてください。

個人が用意する材料とその用途他 説明その1

No

名前

数量

備考

1.

薄美濃紙 生紙

参考:和紙について

2枚

あえて薄い和紙を使うことで、そのことが持つ意味について学びます。

薄く丈夫な和紙素材は柔軟性を持ちます。絵巻物、軸装というコンパクトな収納はこの柔軟性により可能でした。また薄く、透けると言うメリットは、下書きを透かして描くことが出来、描く線の洗練など、価値観を育てる働きがあったと思われます。

紙の加工についても学びます。

滲み止めであるドーサを自分自身で引くことにより、絵の具の安定な定着について知り、自身が制作に使うことの出来る材料に広がりを持たせます。

絹本との比較、地塗りなどを通じてそれぞれの特質、意味について触れます。

和紙は基本的に繊維の縮み易い方向を上下として使います。保存のおり、折り畳まれていた状態の中側が基本的に表面となります。これらは和紙の製法と関係しています。また上下の考え方も軸、巻子といった表具を基本としての価値観です。

2枚のうち、1枚は本紙とし、もう1枚は裏打ち紙として使用します。

裏打ちでは本紙と紙の方向性を交差して用いることで、強度アップに繋げます。

墨により描いた骨描きが裏打ちの過程をへることでコントラストを増し、また平面となることで、版画を作るときのような新鮮な体験を得られ、線のあり方、墨の使い方などを考えるきっかけとします。

ちなみに本紙のすぐ裏にする裏打ちを「肌裏」と言います。

 

2.

シナベニヤ

4mm厚、45cm×60cm程度

参考:仮張り

1枚

紙本制作時、裏打ち後の仮張りとして用います。

※「仮張り」障子の骨のような枠組みに和紙を張り、柿渋を塗った再利用可能な表具道具です。

描く時、ピンと本紙を平らに伸ばし、保つ働きもありますが、上記のような構造を持つことで、面が柔らかさを持ち、描くおりの技法や絵肌の構築に深く結びついていたと思われます。この柔らかさの簡易的な体験もあり、平らなシナベニヤを用います。

大きめのシナベニヤ板を使うことで、一般に使われるベニヤパネルでの制作と異なる完成時の構図に及ぼす事であるとか、刷毛による平塗り時の末端部での感覚などを簡易ながら知る機会とします。なお、特別にシナベニヤとしているのは、一般に売られているベニヤ板には種類があり、中には水をつけることで、防腐剤などがしみ出し画面を汚す危険回避からより安定と思われるシナベニヤにしています。

 

3.

絵絹

尺五幅程度(6号枠に張れる幅)

参考:絵絹について1

40cm

2丁程度の重さ、絹目で描きます。絹の使用方向、枠張りなど、性質や基本を初歩から学びます。

基本的に絹も耳(絹をロール状に巻いたおり、切り口となる円形の部分)を横にして使います。ロールを広げて伸ばす方向が軸装での絵の縦方向となります。

巻かれている状態が縦です。基本的に絹の使用は縦方向を上下として使います。これは、軸装時のことを考えてです。同様に巻物、巻子では横方向に使うことになります。

絹は織物であり、縦糸方向にテンションがかかっています。織機から外され水分を含むと、乾くおりこのかけられたテンションが縮む作用をするのです。この性質から絵を巻く方向、描く方向が決まっているのです。

なお、パネル張りで仕上げる場合にはこの限りではありませんが、絹が縮む事による絵の変形という意味での考慮は必要です。

 

4.

絹枠 

6号用(縮みを考慮したもの)

参考:絵絹について2

1枠

絹は縦方向に多く縮みます。絹の使い方では、この縮む方向にゆとりをとった枠の使用が求められます。

絵の完成後、定型の額縁を使用しようとする場合、このことを考慮していないと縮みが出て合わなくなる可能性が出ます。

 

5.

生麩糊

(煮て濾してあるもの)250g

一袋

絹の枠張り、裏打ち、仮張り、パネル張りなどに使います。表具材料です。

昔は薬局で粉の状態で売られていました。小麦のデンプン質から作られた糊です。水とともに火に掛け煮ることで糊となります。煮ることにより、白濁した状態から粘りが出るにしたがって全体が半透明となった状態で粘度が一気に高まり、そしてゆるんだあたりが火を降ろすタイミングです。

その後、水をはった場所に移し冷やします。冷えたら、こし器をを使ってきめ細かい糊の状態とします。
<売られているのはこの状態>

使用するおりには、必要に応じた濃度となるように水を加えて溶かします。

古来より、この糊を使うのは、接着時の取り回しの良さはもちろんですが、剥がすおりも水を使えば簡単にとれることが重要なのです。

表具という作業が素材と一体となって発展した来たことで、この国の絵画が長い時間を生き抜いてこれたのです。

 

6.

参考:墨について

1丁

何らかのものを燃やして出た煙、煤を集めて膠で固めたものが墨です。

日本では菜種油を燃やして作った油煙墨が一般的に作られてきました。煤の粒子が細かく均一な特徴を持ち、文字を書く記録するといった細い線を均質になおかつ安定に続ける用途にとても有効な性質を持っています。絵画制作においても骨描きなどに適した素材です。ある意味で洗練された紙素材においてとても有効に機能する墨と言ってよいと思います。
 これに対して、水墨画など、墨と水、紙、筆の関係を楽しむ作画では、松を燃やして作った墨、松煙墨が珍重されます。こちらは含まれる多様なカーボンの粒子がいわゆる「墨の力」を生み、多様な表現を可能にしてくれています。使用する紙素材も粗野なものから洗練されたモノまで多様なものを包含できる幅を持って居るともいえるでしょう。このあたりについては「骨描き、線描きの講座」で詳しく説明します。


今回は、油煙墨、良質の膠を使った墨を選んでください。

※今日墨を選ぶおり注意しなければならないのは、新しく作られた墨には染料等の混ぜモノがあったり、粗悪な膠が用いられたものが売られていることです。一概には言えませんが、数十年前にこの国で売られていた墨ならまだ安心して使えます。古くても大丈夫です。墨の断面を見たとき、すこしでも鏡面のような光沢が残っていれば膠はおそらく大丈夫だと思われます。子供時代に使った墨などがあればそのほうがかえって安心かもわかりません。

値段も様々です。画用にこだわらず、選択に困った場合は写経墨などにも利用可能な製品があるようです。

7.

硯と硯砥石

1面

一口に硯といっても世の中には大変多くの硯がありその良し悪しは同時に使う墨とも関係します。また硯には愛玩する文宝としての側面もあり、大きさ、値段も様々です。

すでに硯をお持ちならばそれを利用することをまず考え、いたずらに中途半端なものを求めず、習熟に応じて必要なものが出来たときに購入可能なものを求めれば良いと思います。
すでにお持ちのものが大きすぎる、重いなどの問題があり、講座で使うのに何か新しい硯を用意する必要があるならば、小振りな一度に少量のみ摺る実用本位の硯を一つ求めても良いでしょう。

今回の講座では墨を一度にたくさん使用するような事はありません。6cm×12cm程度、場合によってはより小さな硯でもかまいません。予算に応じて求めましょう。名石にこだわらずとも陶器による硯にも優れたものがあるようです。

このあたりも折に触れ説明を加えられたらと思います。

なお、購入したばかりの硯にはおろす(摺る)面にワックスがかけられている場合もあり、また、使ったまま長く放置した硯では、古墨が膠と共に硯の鋒鋩(ほうぼう)を潰してしまっていることがあるようです。硯砥石を使って一度鋒鋩を立てるとよいでしょう。

硯を研ぐ作業については、「骨描き、線描きの講座」で墨とともに詳しく説明します。